30-穢れを孕む薬
「……穢れ?治療薬に、穢れ?
そんなものが……なぜ、入っているのですか……?」
テオドールが、信じきれないものを見るように呟く。
「……分かりません。ですが、あれは間違いなく穢れです。
魔物、あるいはその発生地帯にしか存在しないはずのもの……ですが……」
そこまで言いかけて。
カトレアさんの表情が、凍りついた。
「……まさか……」
かすれた声。
「今まで私は……敬愛するセラフィーネ様に……
穢れを……飲ませていた……?」
――私たちが。
――セラフィーネ様を、殺しかけていた……?
呆然と、小瓶を見つめる。
手は震え、力なく揺れていた。
気づけなかったとはいえ、
大切な人に“毒”を与え続けていた事実。
その衝撃は、あまりにも重い。
テオドールもまた、言葉を失っていた。
⸻
「……わ、私は執事長を呼んでまいります!」
薬を運んできた使用人が、弾かれたように部屋を出ていく。
報告に向かったのだろう。
……判断が早い。
思考の片隅でそう評価しながら、私は現状へ意識を戻す。
二人は、完全に思考が止まっている。
ならばまず、この危険な薬を――。
私はそれを収納へと仕舞う。
これで、ひとまず外的な脅威は排除できた。
だが――問題は。
……セラフィーネさん。
今の状態だとあの薬が、“近づくだけで”反応するだろう。
穢れは穢れを引き寄せ、取り込もうとする性質がある。
そしてそれはやがて、形を持つ。
――魔物として。
体内の穢れが刺激されれば、当然、負荷がかかる。
むしろ――
もう、始まっている……?
「うぅ……っ、ああ……」
掠れた呻き声。
「!セラフィーネ様!」
「母上!!」
その一声で、二人の意識が引き戻される。
ベッドへ駆け寄る二人に続き、私も飛び乗る。
視る。
――やはり。
体内の穢れが、蠢いている。
静かに潜んでいたそれが、刺激を受けて活性化している。
全身を巡り、暴れ回るように。
だがそれは、二人には見えていない。
ただ苦しむ姿に、必死に声をかけることしかできない。
「……テオドール、カトレア。私は……大丈夫よ」
薄く目を開け、セラフィーネさんが微笑む。
額には汗が滲んでいた。
痛みは、相当なはずだ。
それでもなお、気丈に振る舞う。
二人を安心させようとする、その姿。
……なんて
言葉にならない。
激痛の中でなお、誰かを思いやる。
その強さ。
その優しさ。
……なんて、高潔な方なのだろう
思わず、見入ってしまう。
⸻
……私の知る“親”とは、まるで違う。
こんなにも。
愛情とは、こんなにも――温かいものだったのか。
脳裏に、前の世界の記憶が過る。
優秀な兄姉。
称賛される存在。
――そして、私。
何も与えられなかった側。
……もし、私が有能だったなら
一瞬、そんな考えがよぎる。
だが。
……今は、違う
振り払う。
そんなことを考えている場合ではない。
助ける方法を、考えろ
視線を、再びセラフィーネ様へ。
思考を切り替える。
今、やるべきことは――ただ一つ。




