31-巡る穢れを断つ
今のセラフィーネ様の容態を、改めて鑑定する。
――穢れが、全身に広がっている。
量も多い。
蓄積され、深く根を張っている。
前回浄化したのは“毒”だった。
だが今回は違う。
――穢れだ。
一箇所に留まるものなら、光魔法で一気に浄化できる。
だが、これは全身に散っている。
……時間が、かかりすぎる
闇魔法で鎮静化は可能。
だが、攻撃性そのものが消えるわけではない。
むしろ――
負担が、持たない
⸻
どうする。
思考を巡らせた、その時だった。
……動いている?
穢れが、留まっていない。
流れている。
よく視る。
――血流に沿って。
血液と一緒に……巡っているのか
視線を胸元へ。
他よりも濃く溜まっている。
ーー心臓……
理解が繋がる。
以前、カトレアさんが光魔法を使った時。
あの時はまだ、穢れは少なかった。
活性化もしていなかったのだろう。
だが今、この状態で光魔法を使えば――
……死ぬ。
確実に。
内側から、壊れる。
⸻
背筋が冷える。
自分もまた、同じ過ちを犯しかけていた。
……危ない。
息を吐く。
落ち着け。
考えろ。
血流に乗る穢れを――どう処理する。
⸻
その時、不意に。
前の世界の記憶がよぎった。
……あれなら。
確証はない。
だが。
ーーやるしかない。
私はセラフィーネ様の傍へと寄る。
そして、水魔法で――細く鋭い氷の針を形成した。
迷いなく、それを腕へと刺す。
「――っ!?恩猫様!?何を!?」
カトレアさんの声。
だが、手は止めない。
血管を捉え、水で作った管を通す。
血液を引き出す。
流れを制御し、魔法で形作った袋へと導く。
そこへ――闇魔法。
鎮静。
続けて、光魔法。
浄化。
黒く滲んでいた穢れが、静かに消えていく。
残るのは、ただの血液。
……いける。
それを別の管へと通し、再び体内へ戻す。
循環。
制御。
維持。
すべて同時に。
…これは本来の方法じゃない。
こんな場面で使うものでも無い。
分かっている。
これは医療でも、正規の手段でもない。
ただの――模倣だ。
前の世界で聞いた、曖昧な知識。
血を抜き、戻すことで体を整える――
そんな“健康療法”。
効果の有無すら、分からないもの。
ーーそれでも
今は、それに縋るしかない。
⸻
穢れは、内臓を傷つけることなく消えていく。
血液は浄化され、戻される。
この方法なら――
負担は、最小限で済む。
あとは。
ーー私が、保つかどうか
複数の魔法制御。
長時間の維持。
集中を切らすな。
前の世界で叩き込まれた雑務の山。
同時処理。
負荷管理。
ーーこれくらい……やれる。
⸻
どれほど時間が経ったのか。
感覚が曖昧になる。
だが確実に――穢れは減っていた。
……今なら
最後の処置へ移る。
浄化した血液を戻しきり、
全身に鎮静をかける。
そして――光魔法。
今度は、問題ない。
穢れは、ほとんど残っていない。
セラフィーネ様の眉が、わずかに寄る。
それだけで済んだ。
⸻
再度、鑑定。
――状態:衰弱
……穢れが、ない。
完全に除去できている。
仕上げに、光魔法で活性化。
呼吸が整う。
血色が戻る。
……助かった。
安堵が、遅れて押し寄せる。
その瞬間。
力が抜けた。
視界が揺れる。
立っていられない。
……ああ
限界か。
ーー少し……疲れた。
意識が、沈む。
抗えない。
……情けないな。
――どさり。
床に崩れ落ちる音が、やけに大きく響いた。
⸻
「……何を、した」
⸻
かすかに聞こえたその声が、最後だった。
私は、静かに意識を手放した。




