29-それは治療薬ではない
――鑑定。
治療薬
痛みを和らげ、体力の回復を促進する薬。
ポーションと併用することで、より高い効果を発揮する。
――だが。
【偽装:毒薬(穢れ)】
【使用者に“穢れ”を付与する】
【穢れは体内から蝕み、体力を奪い、全身に激痛をもたらす】
【光魔法と干渉した場合、攻撃性へと転化し、内側から肉体を破壊する】
――それを視認した瞬間。
私は、迷うことなくその薬を奪い取っていた。
こんなものを、飲ませてはいけない。
触れさせることすら、許容できない。
風魔法で引き寄せた小瓶。
そこから漂う、僅かな――だが確実な“異質”。
近づけば近づくほど、はっきりと分かる。
この穢れは、抑え込まれている。
自然に混ざったものではない。
――意図的に、仕込まれている。
……誰が
思考が冷えていく。
つまりこれは、
セラフィーネ様に対する――明確な害意。
⸻
「っ!?恩猫様!一体何を……!お返しください!!」
カトレアさんが手を伸ばす。
――パシッ。
反射的に、その手を弾いた。
爪は立てていない。
傷はつけていない、はずだ。
だが。
二人の目が、私を見る。
驚愕。
困惑。
そして――疑念。
……当然だ。
これは本来、治療薬。
それを奪う私は、どう見ても“異常”だ。
それでも。
――渡せない
二人の動きを牽制するように、間合いを保つ。
⸻
ふと、テオドールを見る。
その目に宿っていたのは――失望。
胸の奥で、何かが軋む。
……ああ、この目は。
前の世界でも、何度も向けられたものだ。
あの頃は、もう何も感じなくなっていた。
だが今は違う。
この人たちの温かさを知ってしまったから。
だからこそ――痛い。
それでも。
ーーだからこそ、渡さない。
私は、二人に向き直る。
張り詰めた空気。
ほんの数分のはずの時間が、やけに長く感じられた。
⸻
再びカトレアさんが動こうとした、その瞬間。
空気を断ち切るように、声が落ちる。
「……恩猫様を、信じる」
テオドールだった。
「待て、カトレア。手を出すな」
「ですが――!」
「いい。様子を見る」
視線が交わる。
先ほどの失望は消え、
そこには、静かな光が宿っていた。
「……恩猫様。その薬を遠ざける理由が、あるのですね?」
――信じて、くれた。
一度揺らいだはずの信頼を、
彼は自らの意志で、掴み直した。
……なんて、温かい。
⸻
私はゆっくりと警戒を解く。
風で浮かせた小瓶に、闇魔法で鎮静を施し――
さらに光魔法を、微細な雷のように流し込む。
同時に、ごく弱い浄化。
その瞬間。
それまで潜んでいた“何か”が、姿を現した。
――黒い煙。
ゆらりと揺れながら、空気を侵すように滲み出る。
「なぜ……どうして……」
カトレアさんの声が震える。
そして、絞り出すように叫んだ。
「なぜセラフィーネ様の治療薬から――
魔物の持つ“穢れ”が、発生しているのです……!?」




