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第9話 お預かりしております


 最初に気づいたのは、ミミックやった。


『船長。右舷前方に漂流船を確認しました』


「故障か?」


『推進機は停止しています。現在、救難信号を発信中です』


 ワシは操縦席の画面を切り替えた。


 暗い宇宙に、一隻の船が浮かんどる。


 中型の貨物船や。


 船体は白く、側面には青い文字で船名が書かれとった。


 《シロカモメ号》。


 妙にきれいな船やな。


「応答は?」


『ありません』


「乗員は?」


『登録上は三名です。ただし、船内の生命反応は確認できません』


「……脱出したんちゃうか?」


『救命艇の発進記録はありません』


 ワシは腕を組んだ。


 面倒なもん見つけてもうたな。


 救難信号を見つけた以上、見なかったことにもできん。


「巡視艇は?」


『最寄りの巡視艇は、到着まで約二時間です』


「長いな」


『救難信号の発信開始は、二十三分前です』


 まだ新しい。


 船体にも大きな損傷は見当たらん。


 何かの故障で全員が避難しただけならええんやけどな。


「船長、どうしたの?」


 リコが隣から画面を覗いた。


「遭難船や。ちょっと様子見てくる」


「誰かいるの?」


「それを確かめるんや」


 ワシは操縦桿を握った。


「ミミック。巡視艇に位置情報送っといてくれ」


『送信しました』


「あと、向こうの船の空気と電力、調べられるだけ調べといて」


『承知しました』


 《穴熊号》はゆっくりと白い貨物船へ近づいた。


     *


 接舷してみると、ますます妙な船やった。


 船体に目立った傷はない。


 乗船口も正常に動く。


 船内の気圧も酸素濃度も問題なし。


 それなのに、通信には誰も応じん。


「これ、ほんまに遭難しとるんか?」


『救難信号は現在も発信されています』


「そらそうなんやけどな」


 ワシは作業服を着込んだ。


 腰には工具を下げておく。


 万一何かあっても、丸腰よりはましやろ。


「リコ、お前は船で待っとけ」


「私も行きたい」


「あかん。何があったか分からんからな」


「……わかった」


「ミミック。こっちの扉は閉めといてくれ。何かあったらすぐ呼ぶ」


『承知しました』


 ワシは接続管を通り、向こうの船へ移った。


 気密扉が開く。


 中は明るかった。


 天井の照明が、まっすぐ奥まで続いとる。


 床も壁もきれいに磨かれていた。


 新しい船らしい。


「こちら《穴熊号》のガルムや。救難信号を受けて来た。誰かおらんか?」


 返事はない。


 ワシは通路を進んだ。


 壁には船内の案内図が貼られとる。


 操縦室。


 居住区。


 食堂。


 貨物室。


 ごく普通の貨物船や。


 まずは操縦室を確認しよう。


 そう思って歩き出したところで、奥から小さな音がした。


 こん。


 こん。


 ワシは足を止めた。


「……誰かおるんか?」


 返事はない。


「ミミック、今の音聞こえたか?」


『はい。金属同士が接触したような音を検知しました』


「場所は?」


『特定できません』


 ワシは通路の奥を見た。


 照明は明るい。


 何も動いとらん。


「……まあ、船やしな」


 どっかの部品が緩んどるだけかもしれん。


 ワシはまた歩き出した。


     *


 操縦室には誰もおらんかった。


 計器は動いとる。


 椅子も三つ並んどる。


 操縦桿の横には飲みかけのコーヒーまで置いてあった。


 ワシはカップに触れた。


 まだ少し温かい。


「……さっきまでおったんか?」


『船内記録を参照できれば、乗員の行動を確認できる可能性があります』


「端末は?」


『船長席の右側です』


 ワシは端末を操作した。


 最後の航行記録は三十分ほど前。


 特に異常は書かれとらん。


 次に監視映像を開く。


 画面に食堂が映った。


 三人の男がテーブルを囲んでいる。


 ちょうど食事中のようや。


「おったな」


 ワシは映像を早送りした。


 一人が何かを話す。


 別の男が笑う。


 もう一人が立ち上がり、食器を片付けようとした。


 そのとき、画面の隅で赤いランプが光った。


 三人が顔を上げる。


 次の瞬間、映像が乱れた。


 ざざっ。


 画面が白くなる。


 しばらくして。


 映像が戻った。


 食堂には誰もおらんかった。


「……なんやこれ」


 ワシは映像を巻き戻した。


 もう一度見る。


 三人が顔を上げる。


 画面が乱れる。


 誰もおらん。


「ミミック。映像の続きは?」


『記録は正常に継続されています』


「途中で切れたわけやないんか?」


『はい。ただし、該当時刻に映像の乱れが発生しています』


 ワシは画面を見つめた。


 三人とも、映像が乱れとる間に消えとる。


 椅子はそのまま。


 食器もそのまま。


 逃げ出した様子もない。


「……どういうことやねん」


 そのときや。


 こん。


 こん。


 また音がした。


 さっきより近い。


 ワシは操縦室の扉を振り返った。


 誰もおらん。


     *


 食堂へ向かった。


 三人分の食事が、まだテーブルに残っとる。


 皿には肉と野菜。


 スープもある。


 ひとつの椅子だけ、少し後ろへ引かれていた。


 映像で見た通りや。


「おーい! 誰かおらんか!」


 ワシは声を張った。


 静まり返った食堂に、自分の声だけが響いた。


 返事はない。


 ワシはテーブルへ近づいた。


 皿の横にスプーンが落ちとる。


 床には、何かを引きずったような細い跡があった。


 壁まで続いている。


「……ん?」


 しゃがんで調べる。


 金属が擦れた跡や。


 床の汚れも一緒に削れとる。


「ミミック、これ見えるか?」


『はい』


「何か運んだ跡みたいやな」


『その可能性があります』


「人間三人、一気に運ぶようなもんがあるんか?」


『現在の情報では判断できません』


 ワシは顔を上げた。


 食堂の奥に、貨物室へ続く通路がある。


 引きずった跡は、そっちへ伸びとった。


 そのとき。


『お預かりしております』


 声がした。


 ワシは飛び上がりそうになった。


「うおっ!?」


 天井のスピーカーや。


 ミミックの声やない。


 女のような、男のような、妙に平坦な声。


「……誰や?」


 返事はない。


「おい、聞こえとるか?」


『お預かりしております』


「何をや」


 また沈黙。


 ワシは天井を睨んだ。


「ミミック。今の通信、拾えたか?」


『はい。こちらの船の自動音声です』


「何の?」


『不明です。船内の管理システムと考えられます』


「……持ち主もおらんのに、何を預かっとるんや」


 ワシは床の跡を見た。


 貨物室へ続いとる。


 あまり行きたくない方向やな。


 だが、ここで引き返しても何も分からん。


「……ちょっと奥見てくるわ」


     *


 貨物室は薄暗かった。


 天井の照明が、ところどころしか点いとらん。


 奥には大きなコンテナが積まれとる。


 床にはレールが敷かれ、荷物を運ぶための搬送装置が並んでいた。


 新しい設備や。


 ワシの船とはえらい違いやな。


「誰かおるか?」


 返事はない。


 ワシは懐中灯を点けた。


 光の先に、三つの箱が並んどる。


 細長い金属製の箱。


 人間が一人入れそうな大きさや。


 表面には、緑色のランプが点滅していた。


 その上に、白い文字。


 保護対象 一。


 保護対象 二。


 保護対象 三。


「……なんやこれ」


 ワシは一番手前の箱へ近づいた。


 側面に、小さな窓がある。


 曇っとる。


 中はよく見えん。


 手で拭いてみた。


 向こうに、何か白いものが見えた。


 服や。


 その下には、人の顔があった。


「……おい!」


 ワシは思わず後ろへ下がった。


 男が一人、箱の中に横たわっとる。


 目を閉じて、じっと動かん。


「ミミック! 人がおる!」


『確認しました』


「生きとるんか!?」


『外部からは生命反応を確認できません。容器に遮蔽機能がある可能性があります』


 ワシは箱を叩いた。


「おい! 聞こえるか!」


 こん、こん。


 中から音が返ってきた。


 ワシは顔を近づけた。


 男のまぶたが動いとる。


「生きとる!」


 続けて隣の箱を覗く。


 こっちにも男。


 三つ目にも一人。


 三人ともおる。


「……なんで箱に入っとるんや?」


 そのとき、天井から声が響いた。


『保護対象を確認しました』


 ワシは顔を上げた。


『追加の保護を開始します』


「……追加?」


 頭上で何かが動いた。


 ぎぎぎ。


 金属の擦れる音。


 懐中灯を向ける。


 天井のレールに、大きな機械がぶら下がっとった。


 何本もの腕を持つ、荷役用の装置や。


 その腕が、ゆっくりこっちへ伸びてきた。


『安全のため、動かないでください』


「……は?」


 腕の先には、人間を包み込めそうな大きな布のようなものが付いとる。


 何をする気か知らんが、近づいてほしくない。


 ワシは後ろへ下がった。


『保護を開始します』


「待て待て待て!」


 腕が伸びる。


 ワシは横へ飛びのいた。


 さっきまで立っとった場所を、機械の腕が通り過ぎた。


 布がばさりと広がる。


 中には拘束用のベルトが何本も見えた。


「おい! 何する気や!」


『ご安心ください。安全な場所へお運びします』


「安心できるか!」


 ワシは走った。


 背後で機械が動く音がする。


 ぎぎぎぎ。


 振り返る。


 腕が追ってきとる。


「ミミック! あれ止める方法ないんか!」


『確認中です』


「急げ! ワシまで箱詰めにされる!」


     *


 通路へ逃げ込もうとしたところで、扉が閉まった。


 がしゃん。


「……おい!」


『保護作業中は、対象区域への出入りが制限されます』


 天井から声がした。


「お前が一番危ないわ!」


 振り返る。


 機械の腕が、ゆっくり近づいてくる。


 速くはない。


 だが、通路は狭い。


 逃げ道もない。


 ワシは壁際の制御盤へ目を向けた。


 非常停止の表示が見える。


「……あれか!」


 制御盤へ走る。


 赤いボタンを押した。


 何も起こらん。


『救命保護機能の作動中は、通常停止操作を受け付けません』


「なんのための非常停止や!」


 機械の腕が目の前まで来た。


 ワシは工具袋に手を伸ばした。


 取り出したのは、長いレンチや。


 何年も使っとる、手に馴染んだ一本。


 腕の関節に差し込み、思い切り押し込む。


 がきん。


 機械が止まった。


 レンチを握る手に、ものすごい力がかかる。


 金属が軋む音がした。


『異物の挟み込みを検知しました』


「そら挟んだからな!」


『安全のため、異物を除去してください』


「お前が止まれ!」


 ワシはレンチを押さえたまま、制御盤の下を覗いた。


 小さな点検口がある。


 ネジが二本。


 片手では開けられん。


 ワシはそっとレンチから手を放した。


 機械の腕は、関節に挟まったレンチに引っかかって動かん。


 その隙に工具を持ち替え、急いでネジを外した。


 中には配線と、小さな遮断器が並んどる。


「ミミック! こいつの電源はどれや!」


『映像を確認しています。右端の黄色い表示が付いた遮断器です』


「これやな!」


『はい』


 ワシは遮断器を落とした。


 ばちん。


 天井で大きな音がした。


 機械の腕が動きを止める。


 モーターの唸りも消えた。


 静かになった。


「……止まったか?」


『駆動装置の電力供給が停止しています』


 ワシはその場に座り込んだ。


 心臓がうるさい。


 汗もかいた。


 よりによって遭難船に助けに来て、ワシまで遭難するとこやった。


『船長。お怪我はありませんか?』


「……ワシは大丈夫や」


 ワシは立ち上がって、機械の腕を見た。


 関節にレンチが挟まったままや。


 慎重に引っ張ってみる。


 動かん。


 角度を変え、少しずつ力をかける。


 ようやく抜けた。


「……ああ」


 柄が大きく曲がっとった。


 付け根には細い亀裂まで入っとる。


 ワシはしばらく、その場でレンチを眺めた。


 何年使っとるやろな、こいつ。


 握るところだけ、長いこと使ううちに艶が出とる。


 昔つけた小さな傷も、そのまま残っとった。


 何度か修理したこともある。


 そのたびに、まだいける、まだいけると思って使い続けてきた。


 けど、今回はちょっと厳しそうや。


『船長?』


「……なんや」


『ほかに異常はありませんか?』


「大丈夫や。ちょっと道具が壊れただけや」


 ワシは工具袋から布を取り出した。


 曲がったレンチを包み、ほかの工具とは分けてしまう。


「帰ったら、直せんか見たろ」


 ワシはもう一度、止まった機械を見上げた。


 とりあえず、今は人助けが先や。


     *


 三つの箱は、緊急用の救命保護装置やった。


 船内で事故が起きたとき、乗員を自動的に収容し、安全な状態で救助を待たせるための設備らしい。


 それ自体は、まあ分かる。


 問題は、誰がいつ使うかや。


「ミミック。これ、どうやって開けるんや?」


『救助者による手動開放が可能です。右側面のカバーを外してください』


 ワシは指示通りに作業した。


 中には手動の解錠機構があった。


 レバーを二つ操作すると、箱の蓋がゆっくり開いた。


「……大丈夫か?」


 中の男が、目を細めた。


 しばらくぼんやりしとったが、ワシの顔を見るなり身体を起こした。


「た、助かった……!」


「立てるか?」


「はい……なんとか」


 ワシは手を貸して、男を外へ出した。


 続けて二つ目。


 三つ目。


 三人とも無事やった。


 よかった。


 ほんまに。


「いったい、何があったんや?」


 ワシが聞くと、一人の男が頭を抱えた。


「……食事をしていたんです」


「うん」


「突然、火災警報が鳴って……」


「火事か?」


「いえ。厨房の排気装置が故障して、調理中の煙が充満しただけだったんですが……」


「ほう」


「警報と同時に、あの装置が作動しまして」


 男は天井を指差した。


 停止した機械の腕や。


「何が何だか分からないうちに、全員捕まってしまったんです」


「……それで箱に入れられたんか」


「はい」


 もう一人の男が口を開いた。


「抵抗したんですが、全然離してくれなくて……」


「そうやろな」


 ワシも捕まりかけた。


「箱の中から出ようとしても、救助者が来るまで開かない仕組みで……」


「なるほどな」


 ワシは三つの箱を見た。


 内側からは開かん。


 外からの通信もできん。


 生命反応も遮断される。


 それでいて、ちゃんと酸素は供給されとる。


「……ちなみに、あれは誰が作ったんや?」


 一人が答えた。


「私たちの会社です」


「……は?」


「新型の全自動救命保護システムでして。今回が実船での試験運用だったんです」


 ワシはしばらく黙った。


 それから、天井の機械を見た。


「……試験運用?」


「はい」


「お前ら、あれの試験しとったんか?」


「そういうことになります」


「……」


 ワシは三つの箱を見た。


 男らも箱を見た。


「……性能はよう分かったな」


 三人とも何も言わんかった。


     *


 船の操縦室へ戻ると、全員ほっとした様子で椅子に座り込んだ。


 ワシは救難信号の停止を確認し、巡視艇へ連絡した。


 あとは専門の連中に任せたらええ。


「本当にありがとうございました」


 船長らしい男が頭を下げた。


「いや、無事でよかったわ」


「もし来ていただけなかったら、どうなっていたか……」


「二時間後には巡視艇も来る予定やったけどな」


「保護容器の非常用酸素は、残り二十分ほどでした」


「……危なっ」


 ワシは思わず声を漏らした。


 なんで救助を待つ装置のくせに、救助が来るまで持つかどうか怪しいんや。


「一応、実験機なので……」


「それはもうええ」


 男は申し訳なさそうに頭を下げた。


「今回の件は、会社へ報告します」


「そうした方がええわ。あれ、他の船で動かしたらあかんで」


「はい……」


 ワシは操縦室の窓を見た。


 明るい宇宙が広がっとる。


 さっきまで、ここに人っ子一人おらんと思っとった。


 まさか箱に詰められとるとはな。


「……ほな、ワシは帰るで」


「本当に、ありがとうございました」


 男はもう一度頭を下げた。


「ああ。それと、あの装置はちゃんと止めとけよ」


「もちろんです」


「あと、あれ止めるときにワシのレンチ一本壊れてもうたんやけど」


「えっ。それは申し訳ありません! もちろん弁償いたします」


「ああ、頼むわ」


「同じ製品を手配できるよう、確認いたしますので」


「いや、こいつは故郷の星から持ってきたやつや。同じもんはこっちにはないと思うで」


「そうでしたか……では、代わりの工具の購入費用を補償いたします」


「ああ、それで頼むわ」


 ワシは工具袋に手を当てた。


 中には、布に包んだレンチが入っとる。


「ただ、壊れた方もワシが持って帰るで」


「ええ、もちろんです」


「ほな、よろしくな」


 ワシは出口へ向かった。


 新しいのを買うにしても、まずはこいつを直せるか確かめたい。


 あの曲がり方やと、難しいかもしれん。


 まあ、帰ってから考えよう。


     *


 《穴熊号》へ戻ると、リコが操縦席で待っとった。


「船長!」


「おう。ただいま」


「どうだった?」


「三人とも生きとったわ」


「よかった!」


「ほんまにな」


 ワシは椅子に腰を下ろした。


 疲れた。


 海賊に襲われたときも怖かったが、今日のもなかなかやった。


「ねえ、船長」


「ん?」


「三人とも、どこにいたの?」


「箱の中や」


「箱?」


「ああ。機械に詰められとった」


 リコが首を傾げた。


「なんで?」


「安全のためらしいで」


「……安全?」


「そう言うとった」


 リコは少し考えた。


「危なくないの?」


「危なかったな」


「変なの」


「ほんまにな」


 ワシは背もたれに身体を預けた。


 窓の外では、白い貨物船が静かに浮かんどる。


 見た目は立派な船や。


 中身も最新式。


 ワシの船とはえらい違いやな。


『船長』


 ミミックが言った。


「なんや?」


『先方から、救助に対する謝礼金の振込通知が届いています』


「おお、そうか」


『併せて、お詫びのメッセージも届いています』


「なんて?」


『このたびは大変ご迷惑をおかけしました。なお、破損した工具につきましても、後日補償いたします、とのことです』


「そうか。ちゃんとした会社やな」


 ワシは背もたれに身体を預けた。


「……しかし、開発中の製品であわや死亡事故やろ。謝礼金に慰謝料、ついでにメディアに垂れ込んだら、もうひと稼ぎできるんちゃうか」


『なるほど。人命救助で謝礼を貰い、メディアへ情報提供し報酬を受け取る。二重取りで利益を最大化するということですね』


「配達より稼げそうやな」


『今回の事例を元に、新規事業を構築しますか?』


「……真に受けんな、冗談や」


『船長にはお似合いの社会貢献の皮を被った、巧妙なマネタイズ設計だと思いましたが、残念です』


「前から思ってたけど嫌味きつない? そんな学習させてないはずなんやが......」


 ワシは工具袋を膝に置いた。


 包んであった布を少しめくる。


 レンチの柄は、やっぱり曲がったままや。


「船長、それ壊れたの?」


 リコが覗き込んできた。


「ああ。機械止めるのに使ってな」


「直せないの?」


「まだ分からん。帰ったら見てみるわ」


「大事なやつ?」


「……そうやな。長いこと使っとるからな」


 リコは曲がったレンチをじっと見た。


「直るといいね」


「おう」


 ワシは布を戻し、工具袋を足元へ置いた。


 あの場では、ほかにどうしようもなかった。


 こいつのおかげで、ワシは無事に帰ってこられたんや。


 せやけど、やっぱり残念やな。


『船長、さらに開発担当者から問い合わせがございます』


「なんや?」


『救命保護装置の作動状況について、詳しくお話を伺いたいそうです』


「ああ、それなら別に構わんで」


『今後の改良に役立てたいとのことです』


「そら大事やな」


『特に、救助者が機械を停止させた手順に関心を持たれているようです』


「……ほう」


『可能であれば、実際の装置を使った再現試験にご協力いただきたいとのことです』


 ワシは足元の工具袋を見た。


 それから、窓の外の白い船を見た。


「……断っとけ」


『謝礼も用意するそうです』


「断れ」


『承知しました』


 ワシは目を閉じた。


 あんなもん、《穴熊号》には絶対つけんとこ。


 しばらくして、ミミックがまた声をかけてきた。


『船長』


「……今度はなんや」


『船長。先ほどの救命保護装置について、商品名を考えてみたのですが』


「まだあるんか?」


『安心安全全自動レスキューシステム、なんてどうです?』


「……今度お前の修理もしておくか」


『正常に作動していますよ? ちなみにAIの人格形成は、作り手の性格が反映されると言われています』


「否定はせんが......」

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