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俺以外、全員Vtuberでした ~家族も幼なじみも上司も、配信で俺の話ばっかりしてる件~  作者: 深夜三時
第2章「幼なじみは歌い手Vtuber」

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9/18

第9話 まだ誰も知らない歌

本作に登場するVtuber・事務所・団体は、すべて架空のものです。

 翌日の昼。

 俺とユイは、大学の学食で唐揚げ定食をつついていた。


「やっぱりここの唐揚げ、うまいな」

「でしょ? ハル、ちゃんとご飯食べないとダメだよ。最近バイト入れすぎ」

「妹にも同じこと言われた」

「ミオちゃんにも? ふふ、家族公認だね」


 ユイは楽しそうに笑って、自分の唐揚げをひとつ、俺の皿に移した。


「はい、ひとつあげる」

「いいのか?」

「いいの。ハルが食べてるとこ見るの、好きだから」

「……変わった趣味だな」

「そ、そういう意味じゃなくて!」


 ユイは慌ててお味噌汁をすすり、むせた。


「ごほっ、げほっ……」

「おい、大丈夫か」

「だ、大丈夫……」


 最近、うちの周りではお味噌汁でむせるのが流行っているらしい。


   ◇


 食べ終わってトレイを返しに行く途中。

 ユイが、小さく鼻歌を歌っていた。


 ――ふふん、ふん、ふーん……。


 聞いたことのない、きれいなメロディだった。

 切なくて、でも、どこか温かい。


「それ、何の曲?」

「えっ」


 ユイが、びくりと肩を跳ねさせた。


「な、なんでもない! 適当! 適当に歌ってただけ!」

「適当にしては、すごくいい曲だったけど」

「ほんとに適当なの! 忘れて!」


 ユイは真っ赤な顔で、トレイを返却口に叩き込むように置いた。

 ガシャン、と派手な音がして、食堂のおばちゃんに怒られていた。


 ……なんだったんだ、今の。


   ◇


 その夜。

 俺は、月島うたの配信の待機画面を開いていた。


 今日の配信タイトルは――

 『【初披露】オリジナル曲、はじめて歌います』。


 SNSでも、数日前から告知されていた。

 うたちゃんにとって、初めてのオリジナル曲だ。


『こんばんは、月島うたです』


 配信が始まった。

 いつもより、少しだけ声が硬い。緊張しているのが、画面越しにも伝わってくる。


『今日は、ずっと準備してきたオリジナル曲を、初めて歌います。作詞も、ちょっとだけ作曲も、自分でやりました。……まだ、誰にも聴かせてない歌です』


『楽しみ!』

『うたちゃん頑張れ!』

『待ってた』


『この歌は……ある人のことを想って、作りました。本当は、その人に一番に聴いてほしかったんだけど……恥ずかしいから、ここで歌います』


『Aくんのことでしょ』

『Aくんへのラブソングきた』


『ひ、秘密! じゃあ、歌います。聴いてください――「あと五分だけ」』


 ピアノの前奏が流れ出す。

 そして、うたちゃんの歌声が重なった。


 ――ふふん、ふん、ふーん……。


 俺は、息をのんだ。


 知っている。

 このメロディを、俺は知っている。


 今日の昼、学食で。

 トレイを返しに行く途中で、ユイが口ずさんでいたメロディだ。


 まだ、誰にも聴かせてない歌。

 世界でまだ誰も知らないはずの歌を――ユイは、知っていた。


「……嘘だろ」


 俺は、窓の外に目をやった。

 俺の部屋の窓からは、隣のユイの家が見える。

 ユイの部屋の窓には、カーテン越しに、ぼんやりと明かりが灯っていた。


 俺はイヤホンを外して、そっと窓を開けた。

 夜風と一緒に――かすかに、歌声が流れ込んでくる。


 イヤホンから聞こえていたのと、まったく同じ歌声が。

 窓の向こうから、少しだけ遅れて。


 ――ユイの家には、防音室がない。

 だからユイは、毎晩こっそり、布団をかぶって歌っていたのかもしれない。


「幼なじみも……かよ……」


 俺は、窓枠に額を押しつけた。


 妹に続いて、幼なじみまで。

 俺の推しは、どうしてこうも身近にいるんだ。


   ◇


 歌が終わると、コメント欄が拍手の絵文字で埋め尽くされた。


『泣いた』

『神曲』

『Aくん、これ聴いてるかな』


『……聴いてたら、いいな』


 小さく呟いたうたちゃんの声が、窓の向こうの声と重なった。


 ――聴いてます。

 窓からも、イヤホンからも、ダブルで聴いてます。


 俺は混乱した頭で、冷静に状況を整理しようとした。


 月島うたは、ユイだ。

 それは、もう間違いない。


 じゃあ、うたちゃんの配信によく出てくる「幼なじみのAくん」は――


 毎朝、起こしに行っている。

 合鍵を預かっている。

 推しの歌い手の「一生懸命なところ」が好き。

 今日、学食で一緒に唐揚げ定食を食べた。


 そして。

 ――A。相沢の、A。


「……俺じゃん」


 Aくんは、俺だった。

お読みいただき、ありがとうございます!


ついにAくんの正体に気づいたハル。

……気づいた、はずなのですが。


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