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俺以外、全員Vtuberでした ~家族も幼なじみも上司も、配信で俺の話ばっかりしてる件~  作者: 深夜三時
第1章「妹はお嬢様Vtuber」

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第3話 プリン事件

本作に登場するVtuber・事務所・団体は、すべて架空のものです。

「プリン食べたの、誰」


 翌朝。

 地の底から響くような声が、リビングに響き渡った。


 冷蔵庫の前に、ミオが仁王立ちしている。

 手にはゴミ箱から拾い上げた、空のガラス瓶。


 家族全員の視線が、ゆっくりと俺に集まった。


「……俺です」


 正直に手を挙げた。


「なんで食べるし!」

「いや、名前書いてなかったし……」

「書いてなくても私のだし! 駅前の限定のやつだし! 一時間並んだし!」

「一時間!?」

「最悪だし! 兄貴、最悪だし!」


 バタン!

 ミオはリビングのドアを叩きつけるように閉めて、学校へ行ってしまった。


 しん、と静まり返るリビング。


「ハル、やっちまったな」


 姉ちゃんがトーストをかじりながら、気の毒そうに俺を見た。


「新しいの、買ってきましょうね」と母さん。

「……プリンは、大事だ」と父さん。重々しく頷いている。

「ほっほっほ。若いねぇ」とばあちゃん。


「……今日、大学の帰りに買ってくるよ」


 俺は深くため息をついた。


「ハル、また何かやったの?」


 迎えに来ていたユイが、玄関から顔を出す。


「妹のプリンを食べた」

「それは……ハルが悪いね」

「わかってるよ」


   ◇


 午後の講義が終わると、俺は駅前の洋菓子店に向かった。


 ミオの言う通り、すごい行列だった。

 大学生の財布にはなかなか痛い値段だが、背に腹は代えられない。四十分並んで、ようやく俺の番が回ってくる。


「限定プリン、残り二つです」

「……二つ、ください」


 ひとつはミオの分。もうひとつは――お詫びの気持ちだ。

 一個じゃ足りない気がした。今月のバイト代が、またひとつ消えていく。


 家に帰ると、ミオは部屋にこもっていた。

 俺はドアをノックする。


「ミオ。プリン、買ってきた」

「……」


 ドアが少しだけ開いて、ミオが顔を半分だけ出した。


「……ふたつ?」

「お詫び。ごめんな、勝手に食べて」

「……」


 ミオは無言でプリンの袋を受け取った。


「……別に、許してないし」


 バタン。

 ドアが閉まる。


 でも、閉まる直前にちらっと見えたミオの口元は、ほんの少しだけ緩んでいた気がした。


   ◇


 夜十時。

 俺はいつものように、白百合院ロゼの配信を開いた。


『ごきげんよう、皆さま。白百合院ロゼですわ』


 画面の中で、金髪縦ロールのお嬢様がふわりと微笑む。

 白いドレスに、白百合の髪飾り。上品な口調に、ときどき見せる天然ボケ。

 俺がデビュー当時から推している、大好きなVtuberだ。


『今日は皆さまに、聞いていただきたいお話がありますの』


 ロゼちゃんは、少しだけ頬を膨らませた。


『実はわたくし、昨日――お兄様に、大切なプリンを食べられてしまいましたの』


「ぶふっ」


 俺は飲んでいた麦茶を、盛大に吹き出した。


『駅前の限定プリンですのよ? 一時間も並びましたのよ? 朝、冷蔵庫を開けたら空っぽで、わたくし、本当に悲しかったのですわ』


 コメント欄が爆速で流れる。


『お兄様ギルティ』

『限定プリンは重罪』

『名前書いてなかったの?』


『……な、名前は、書き忘れておりましたけれど』


『草』

『それはロゼちゃんも悪いw』


 俺は、画面の前で固まっていた。

 限定プリン。一時間。冷蔵庫。名前の書き忘れ。


『でも、ですわね』


 ロゼちゃんの声が、少しだけ柔らかくなった。


『お兄様ったら、今日、新しいプリンを買ってきてくださいましたの。しかも――ふたつも』


『ふたつは草』

『お兄様有能』

『プリン兄、反省してて偉い』


『お兄様は学生さんですのに、ですわよ? お財布、大丈夫だったのかしら』


『優しい』

『お兄様の財布を心配するお嬢様』


『ですから……許して差し上げますわ♡』


 コメント欄が『てぇてぇ』の嵐で埋め尽くされる。


 俺は、ゆっくりと麦茶のコップを置いた。

 手が、震えていた。


 俺は、今日、プリンをふたつ買ってきた。

 俺は、学生だ。


「……偶然、だよな?」


 そうだ、偶然だ。

 世の中には、プリンを食べられる妹なんて星の数ほどいる。限定プリンを買い直してくる兄だって、たくさんいるはずだ。ふたつ買ってくる学生の兄だって……たぶん、いる。


 いるよな?


 画面の中で、ロゼちゃんが嬉しそうに笑っている。


『ふふ。お兄様には、内緒ですわよ?』


 その「内緒」という言葉が、やけに耳に残った。

お読みいただき、ありがとうございました!


「続きが気になる!」「Aくん鈍すぎ!」と思っていただけたら、

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次回もお楽しみに!

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