探索者
新しく発生したダンジョンは、珍しくも大阪の繁華街、それも梅田という中心地に出現した。幾つもの空間が捻じ曲がった入口は増えたり減ったりしながら形を変えている。現場には警察や消防官も現れ、黄色いテープで現場を区切りながら二次被害がないように一般人が紛れ込まないようにしている。
中には迷惑動画配信者がダンジョンに入り込もうとする者もいるのだ。ダンジョン内の動画は非常に人気があり、特に探索者たちの公式動画は多くの再生回数を得られる。
そのために魔力のない動画配信者が、是が非でもダンジョンに入ろうとするものは少ないない。
「息子は、息子は大丈夫なのでしょうか!?」
そんな中、黄色いテープを越えようとするものの中には、今回の犠牲者の親もいる。ダンジョンに連れ去られた子どもの救助をいち早く願っているのだ。
今回の門震は多くの一般人を巻き込み、多大な被害をもたらした。門の中に消えた一般人の数は百人とも二百人とも言われており、まともに考えればその多くが既に亡くなっている、と考えるのが妥当だろう。
だが――その中に、重要人物がいた。
だから通常の門震よりも多くの人が、この場には集まっていた。探索者の数も多い。次々とマネージャーに今回の件についての概要を聞いてから、ダンジョンの中に入っている。
その中で一際目立つ探索者がいた。
艷やかな黒髪をツインテールに纏めた長身の女だった。目鼻立ちの整った容姿。をしており、桜色の唇はとても可憐だった。
そんな彼女は腰に一本の刀を差しており、剣道着のような服を来ているが防具は一つとしてつけていなかった。重いからだろうか。
「さて、片平弥生(|かたひらやよい)君。大変なことが起こった。例の門震によってエルフのお姫様が攫われた。彼女はエルフ達にとっての重要人物であり、私たちにとっても最も大切な客人の一人だ。こんなところで死なせるわけにはいかない」
大阪の梅田の門の前にスーツを来た幸が薄そうな眼鏡の男性が――片平弥生に手元の資料を見せながら状況の説明をしていた。
彼女は“学生”の中でも有望株として非常に注目されている探索者の一人だった。周りの探索者も「うわ、片平だ」と、彼女を知っている者が多かった。
「エルフのお姫様? どうしてそんな人がこんな場所にいたの? ここは駅と駅の間じゃないの?」
弥生の整った顔つきが厳しそうに歪んだ。
――エルフのお姫様。
その名と存在を、彼女は知らない。
だが、エルフに王族がいないことを知っている。彼らは族長制であり、長老と呼ばれる最も長く生きた者が長になるのだ。だからお姫様、という存在はいないはずだが、との疑問が弥生の頭の中に浮かんでいたが噛み殺した。
「どうやら移動中だったようです。我が国の大臣と会議を行っていたようですが、次に向かうのが別のホテルだったようです。ヘリを出すには近い距離だったようで多数の護衛がいたのですが……」
「はぐれた……?」
「はい。混乱した民衆に紛れてはぐれたようです。一人の若者に抱えられたようですが、そのまま門に飲み込まれたようです」
「その若者が誘拐した、という可能性は無いの?」
「その可能性も政府は見ていますが、おそらく低いというのが我々の見解です。若者の写真もあって調べたのですが、怪しいところは何一つ見つかりませんでした。それに、もしも誘拐したのなら、わざわざダンジョンに飲み込まれた意味が分かりません。検査では魔力も無いようですから、すぐに死ぬと思いますからね」
また、群衆に紛れたお姫様を助けようとして、抱えて護衛たちに駆け寄ろうとした場面も何人かの護衛は目にしているようだ。
「分かりました。私の役目は?」
「――お姫様の救出が最優先です。既に何人かの探索者が侵入しています。ダンジョンは『ゴブリンの巣』でレベル3の低ランクですが、どうやら通常のものよりもかなり広いようで」
「はい。承知しました。」
弥生は凛とした返事をしながら、梅田の陸橋に現れた入口を見据えた。
空間が歪んでいるのが、ダンジョンの入口の証拠だ。まるでシャボン玉が浮いているように、先の空間が上下反転して見える。
弥生は大きな息を吐いて気を整えてから、意を決して入口へと飛び込んだ。




