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現代ダンジョンは氷のようなエルフの銀髪幼女と共に  作者: 乙黒


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前哨戦

「……さて、あなた達、私のことは知っていると思いますが、本当に戦う気でしょうか?」


 私を眼の前に現れた魔法使いたちは、既に数十人になっていた。

 彼らは露様がホテル内へと逃げた後、何人かが追いかけようとしたが、既に私が『天の羽衣(ホワイトベール)』でホテルの入口を防いだのだ。

 だから邪魔な私を排除しようと、取り囲んでくる。

 数だけは多いな、と私は大きなため息を吐いた。


 だが、彼らはすぐに私へと襲ってくることはなかった。

 むしろ私の様子を見るように、一定の距離を保ちながら剣を構えて待っている。さらに私の質問には答える気がなく、口を紡いでいた。


「……このまま待ちますか? それでも私はいいんですけどね」


 私は自身の周りに多重に白いベールを展開していた。時間が経てば経つほどに、私の魔法は圧を増していく。数が増えているのだ。実は私の魔法は一枚で与えることのできる攻撃力には限度がある。だから数が増えれば増えるほど、私の攻撃力は上がるのだ。例えば一枚のベールを何枚も重ねれば、鋼鉄をも貫ける刃となるのだ。


 でも、そこまでの必要はないだろう、と私は思ってしまった。


 ――彼らは、魔法使いとしてのレベルが低い。

 私のように固有魔法を使う人間に様子を見るのは当然だが、それは一人の場合で固有魔法の種を知らない場合である。


私が相手なら、これだけの人数がいるのなら、畳み掛けたほうが倒せる可能性が高いのだ。特に私の固有魔法は、魔法使いの間では有名だ。対策も知れ渡っている。一つ一つのベールの殺傷能力が低いので、全員で一斉にかかったほうが一人に使うベールが減る分、倒しやすいと思うのだ。


 そんな頭も持たないなら、きっと彼らは雑兵だろう、と私は結論付けた。

 それほど強い魔法使いはこの中にいない。

 そもそも私のことを知っているかどうかも怪しいのだ。ある程度努力している魔法使いなら、他の魔法使いの固有魔法は頭に入れるものなのに。


「……そのつもりならいいでしょう。私は姫様の元に行き、真意の言葉を聞かなければならないので、ここを通させてもらうことにします」


 先に痺れを切らしたのが私だ。

 彼らの一人へと、ベールでぶん殴った。その男は刀で防いだけど、私のベールは防ぐだけでは意味がない。その衝撃を殺すことはできず、壁に勢いよくぶつかった。


「うぉおおおおおお!!」


 スーツの男たちは仲間の一人が倒されたことによって、私へと襲いかかってきた。だけど、もう遅い。私の魔法は多重に展開されている。男たちの剣をベールによって優しく受け止める。そのまま強く弾いて壁や地面へと叩きつけた。


「オレまではベールが足りなかったようだな!」


 その中の一人が勝ち誇ったようにベールを掻い潜って、私に剣を振るってきた。きっとベールを展開している私が無防備に見えたのだろう。

 はあ、と私は大きなため息を吐く。


「……もう少し鍛えたほうがいいと思いますよ」


 私は男の剣を完璧に見切り、持っている大判フリルが付いた白い“傘”で殴った。私の魔武器である。私の魔力が込められた傘には剣のように切れ味は無いが、ハンマーのように重たい攻撃を繰り出すことが可能だ。


 私の傘に殴られた男は、壁に減り込んだ。

 私の魔法に飛ばされたが、多少の傷で復活した魔法使いたちはその様子に思わず私に飛びかかるのを止めてしまった。


「……別に逃げてもいいですが、逃がしませんよ。それに私の魔法も、少し本気を出そうと思います」


 私は、暗いはずの地下駐車場を――ベールで埋め尽くした。



 ◆◆◆



 一階へと泊まったエスカレーターを登った俺は、すぐに誰もいないことに気づいた。

 こういったホテルに入ったことはあまりないのだが、父がまだいた頃に地方のホテルに泊まった時には、多くの宿泊客だけではなく揃いの制服を着たホテルマンが数多くいたように思える。特にフロントにいないことはなかった。

 それなのに、静かだった。

 一階にあるカフェエリアには、白いクロスが敷かれたテーブルが広がっているだけだ。俺はその横を通り過ぎてエレベーターへと向かった。


 上のボタンを押す。すると、エレベーターが動き始めた。階段で行くことにならなったことに安堵した俺は、ほっと胸を撫で下ろす。この階にジルダはいないからだ。俺の中にいる“あいつ”は、もっと上から気配を感じる。


 これからもう一度『岩盤』と戦う。

 戦いのイメージはついている。あいつの魔法も知っている。どう戦って勝ち、ジルダを救うか、そればかりを考えていた。


 ちーん、とエレベーターが着いた音が鳴った。

 扉が開くと同時に――黒服のスーツを男たちが一斉に飛び出してきた。最初の男の剣を俺は反射的に『世端』で受け止めた。


「まだいるのかよっ!」


 俺の口から思わず嘆きが飛び出た。

 だが、奴らはそれを待ってくれない。新たな男が後ろから剣を伸ばしてくる。俺は大きく後ろに飛んで、その剣を避けた。そこは先程見たカフェテラス。テーブルクロスを踏んでいた。


「死ねぇえええええ!」


 そんな俺へと飛びかかるように襲ってくる黒服たち。

 俺は別のテーブルへと飛び移るように避けると、男たちはテーブルを簡単に破壊した。

 さらに別の男も飛びかかるように襲ってきたため、俺は下にあるテーブルクロスを持ちながらその場から飛んだ。男の視界を奪うようにテーブルクロスを広げて、一瞬俺がいなくなったと錯覚させる。

 そんな男へと、魔力を注ぎ込んだ『世端』を叩き込んだ。鈍い音が広がった。別のテーブルにぶつかった男は、そこから動くことがなかった。うめき声だけがカフェテラスに響き渡る。


「そんな木の棒が刀に通じると思っているのか!」


 更に来る男が刀を振りかぶっていた。日本刀の形をしていた。少しだけ余裕そうに口元が緩んでいるのは、俺の武器である『世端』をただの木の棒だと割り切っているからだろう。

 そのことに俺は逆に嗤いそうになった。


 だから俺はそんな刀に怯えること無く、『世端』をぶつけあった。見た目が木の棒でしかない『世端』だが、簡単に男の刀を砕いた。男の驚愕した顔が、砕けた刃に無数に映るのが俺には見えた。

そのまま俺の『世端』の威力が落ちることはなく、男ごとふっ飛ばした。


 更に別の男が左右から挟み込むように剣を振るってきた。

 上に高く飛ぶ。

 二人の攻撃を交わしてから片方の男に『世端』を投げつけて、さらにもう一人には俺の全体重を乗せたかかと落としを振り下ろした。二人とも頭に当たるが、それだけだと地面に沈むことはない。

 俺は着地した後、流れるように片方の男の頬を撃ち抜いた。そんな俺を横から刀で切り刻もうとするもう一人だが、残念ながら動きに精彩がない。それに先程よりも明らかに遅かった。男の刀を上体を反らして躱してから、懐に一歩で踏み込んでボディーブローした。


「うっ――」


 男の唸り声とともに、骨が折れたような感触が手に伝わる。地面を何回から転がった男は、それから起き上がる様子はなかった。

 武器がなくなった俺最後の男が無言で背後から迫っていた。一番強そうな男である。俺は転がるように男の剣を避けて、先ほど倒した男が持っている刀を拾い上げて更に奮ってくる剣を止めた。


 俺の剣と、男の剣がぶつかる。鍔迫り合いをしていた。どうやら力が拮抗しているようだ。いや、少しだけ俺が圧していた。少しずつ男の剣が後ろへと下がる。そんな時に俺は剣を手放して、力を抜いた。俺の方へ一気に体が流れる男に対して、横へと避けてから、背後へと首に回し蹴りを放った。

 そのまま背中を全力で殴ると、男は窓ガラスを貫いて外に出た。


「ふう――」


 初めての対人戦でアドレナリンが出ているのか、エレベーターから出てきた人を倒したことに俺は信じられないような顔で倒れている人を見ていた。一応死んでいないかどうか、気になってしまうのだ。だが、どの者もその場に倒れて唸っているだけで、起き上がる様子はない。どうやら誰も生きているようだ。そのことに少しだけ安心した俺は『世端』を拾った。


 一瞬刀も武器として持っていこうかと、男が持っていたものを刀を拾い上げたが、どうやら『世端』のように魔力が籠もった魔武器ではないようだ。武器に魔力を流してみても、『世端』のように向こうから流れてくる様子はなかった。


 通常の切れる刀としては魔力を流せばモンスターや魔法使いにも通じると思うが、固有魔法を持っている『岩盤』という固い男にこの刀で勝てるとは思わなかった。


 やはり、『世端』しかないか。

 そんなことを考えながら『世端』に魔力を流しながらこの場から去ろうとした時に、倒れていた男の一人が飛びかかってきた。咄嗟のことだったが、反射的に俺は『世端』で殴り返す。

 あまりにも魔力が込められていたのか、男はそのまま地面を何回も転がってピク着いたまま動かなくなった。


 どうやら練習がてら魔力を思った以上に込めていたので、よっぽど重たい一撃になったらしい。あまり気にしてなかったことだが、どうやら『世端』は込める魔力の量に応じて重く、硬くなるようだ。今の魔力だともしかしたら大木のような一撃が男に当たったのかもしれない。


「まさか、死んだか?」


 俺は男の生死が心配になって、転がっている男を『世端』という木の棒で突いた。とくにうつ伏せになっていたので、木の棒を使ってひっくり返す。

 だが、なんとか呻いていたので生きていることに安堵した。


 どうやらまだ俺は人を殺していないようだ。

 もしもこのように人から襲われて、結果的に殺すことになったら俺はどう思うのだろうか、と少しだけ考えたが、きっと何も思わないだろう、と思ってしまった。わざわざ自分などを魔法を使って襲ってくる者の命を大切にしよう、という気までは持てなかった。


 もしも『岩盤』と戦った末に、やつが死んだとしても俺は特に何も思わない、と考えてしまう。


 だから――遠慮はしない。これまで魔力を得てから学んだ全てを、やつにぶつけて勝とう、俺はそう強く決意しながらエレベーターで最上階へと向かう。

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