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現代ダンジョンは氷のようなエルフの銀髪幼女と共に  作者: 乙黒


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幸せ

 それによって人々はパニックになり、陸橋の上は人でごった返した。

 私はそんな中で人並みに押されてしまって、護衛と離れてしまった。多くの人の足元に紛れてしまった。だからせめて痛い部分は踏まれないようにしようと、その場にしゃがみ込み、顔を隠すようにする。トゥイグとの教育で知った時だった。


 このまま耐えればいつか人は逃げて、私もすぐに護衛に保護されるだろう、と思ったのだが、先程見つけた青年と私の目があった。


「大丈夫だから――」


 そんな言葉と共に、彼は私に覆いかぶさって多くの足から守ってくれた。

 温かかった。

 優しかった。

 初めての感覚だった。


 私は彼の体の中で小さくなりながら、初めて“温もり”というのを知ったのである。それも彼には悪意が全く無かった。私を守るためだけに抱きしめてくれたのである。

 彼自身も踏まれて痛いはずなのに、私に優しい声を書けてくれた。今までずっとかけられたかった言葉だった。


 それから自分の身を犠牲にしてでも、私の為だけに護衛たちに差し出したのである

 最も、ダンジョンに吸い込まれたのでそれは叶わなかったけど。

 あの女探索者が来た時は私のことだけを助ける、と言っていたけど、どうしても信じられなかったのだ。もしかしたら私の中にいる“これ”を狙っているやつかも知れない、と心の奥底で考えたのかも知れない。


 実は私は元の世界に暮らしていた時も、地球に来てからも、何度か侵入者が現れることはあった。いずれもソフィーが気づいて処理したけど、ずっと「……様」と“これ”の名前を呼んでいた。だから今回の外出に関しても、万全の注意がなされていた、らしい。


 そんな私だからこそ、会う人間で信用できる者はいない。甘い言葉を囁く者ほど、私を利用する者だからだ。


 ――父と母が、私に残してくれたものだから。

 世界を守るために、私に封じたものだから。

 私は、顔も名前も知らない父と母の為に、“これ”を抱えていないといけないのだ。だから彼女のことは申し訳ないけど、信用しなかった。


 それから紆余曲折あって、私たちはミノタウロスと出会って死にかける目にあった。

 その時にはもう、彼のことを大切に思っていたが、それ以上に私に与えられた父と母からの思いも、同時に果たさなくてはならなかった。

 その結果、苦肉の柵として、彼に“これ”の一部を与えたのである。


 ダンジョンから助かってから、彼と一緒に過ごした日々はとても幸せだったと思う。

 私の欲しいものが全て手に入ったのだ。

 彼も、その妹も、私には太陽のような存在だった。

 彼らを失うなんて、私には考えられない。

 私だけが犠牲になるなら、それなら構わないのだ。


 なにせ――彼は、生きている。

 今も私の中に眠る“これ”から、彼が生きているのを感じている。

 それを知っているだけでいいのだ。

 私は彼のことが大切で、ずっといたいと思ったけれど、私と一緒にいると前のように危険な目に会うのだ。だから離れたほうがいい、とさえ思ってしまった。其の上で、私が耐えて、“これ”を封じればいいのである。


 昔だったら、このまま“これ”の解放を迫られて痛みに耐えるだけだったら、結局耐えきれなくなって解放していたかも知れない。

 でも、今なら大丈夫だと思えた。

 父と母の思いも叶えたまま、彼との繋がりも感じているから、この状態なら私は永遠に生きていられる。


 あれから彼と一緒に暮らした少しの幸せに浸ったまま、私は目を閉じた。

 そんな私を覚ましたのは、強い衝撃だった。



 ◆◆◆



 俺達は高級ホテルの地下にある駐車場についた。

 どうやらこのホテルにジルダと彼女を攫った者たちがいるようだ。俺は彼らがもうエルフの居住地に帰ったと思っていたが、どうやら違うようだ。

それに関して、ソフィーさんは顔を顰めながらこう予測していた。


「――きっと姫様を使って、何か企てているのでしょう。姫様の中には“あれ”がいます。その力は私たちどのエルフよりも強く、姫様しか制御できないようですから」


「“それ”の力を使えば何が出来る?」


「……力で出来ることなら、きっと全てでしょう。でも私たちは、それを使いません。恐ろしいですから。可能性があるとすれば、誰かに渡すのでしょうか?」


 そんなことを事前に車の中で教えてくれたので、きっとあいつはジルダを使って何かをするつもりなのを知ってしまった。だけどその具体的な内容について、全く予想できなかった。


 でも、助けに行かないと行けない。

 俺は『世端』を握ったまま、ソフィーさんの車から降りた。

 だけど、有名なホテルだと言うのに、車が殆ど泊まっていなかった。今日はまだ夏休み。さらに明日は土曜日だと言うのに、やけに静かであった。


「まさか今はこのホテルが寂れているのか?」


 俺は辺りをきょろきょろとしながら眺めるが、人の気配すら感じなかった。


「……いいえ。違うと思います。トゥイグが、ホテル全てを借りたのでしょう。誰も入ってこないように。何のためにここへ……姫様を誰かに渡すのでしょうか。その取引でしょうか? だとすれば誰に……?」


 ソフィーさんは顎を擦りながらトゥイグが何を考えているか、悩んでいるようだった。


「ジルダの中に眠る“あれ”を解放するというのは?」


「……あり得ません。……いえ、でも、まさか、私たちがその“恐ろしさ”を最もよく分かっている筈なのに。そのように利用するなんて考えられないのですが……」


 ソフィーさん唇はわなわなと震えていた。


「恐ろしい化物なんだろう? 解放するつもりだとしたら、一体何のためだと、ソフィーさんは思うんだ?」


「……奴は、私たちエルフを至上の種族だと考えております。それ以外の全ての存在を見下しています。もちろん、魔力を持たない人も、魔法を持たず魔力のみを持っている者も見下しています。」


「ということは、俺達は奴にとって“いらない存在”ということか」


「……ええ。だから、最悪な想像をするとすれば、この場所での“あれ”の解放ですね。どうやら他にエルフはいないようですし、このホテルもろとも“あれ”に壊してもらうつもりなのでしょう。ほら、“体のいい捨て駒”が来ましたよ」


 そう言いながら、ソフィーさんはホテルの入口から出てきたスーツの者共を見ていた。

 きっと普段はここに車を止めたホテルの利用者は、あの入口からホテルへと入って宴会場や部屋に行くのだろう。最初はホテルマンかと思ったけど、顔を隠すようにつけたサングラスから違うのが分かる。


「きっと魔法使いだな――」


 彼らは刀や剣などを持っており、現代的なスーツと非情にミスマッチのように思えるが、魔法使いにはよくある姿だった。

 ソフィーさんが以前に教えてくれた話だけど、『強化』などの一般魔法しか使えない魔法使いは、どうしても武器に頼って攻撃力を上げる傾向にあるようだ。


「……来ますよ」


 彼らは俺達を見つけると、ソフィーさんの言葉通り間髪入れずに襲ってきた。大きく剣を振りかぶって、こちらへと伸ばしてきたのだ。

 だが、遅い。

 俺はそのうちの一人を相手に、剣を振りかぶるよりも早く『世端』を腹部にぶち当てた。


 一人だけコンクリートの壁まで飛ばした。

 だが、別の男の剣による一撃を俺は『世端』で受けた。その攻撃は重く、後ろに吹っ飛ばされる。硬い壁に止められた。


 そんな俺へ、何人もの魔法使いたちが襲いかかるが、それよりも早くソフィーさんが呟いた。


「『天の羽衣(ホワイトベール)』」


 俺を守るかのように、白いベールがまるで盾のように展開される。

 男たちの剣を簡単に防いだ。そのまま白いベールを伸ばして、何体も一緒にはねのけるように攻撃する。


「助かったよ」


 俺はその場から立ち上がってお礼を言う。


「……いいえ。礼には及びません。ここは私が対処しますので、露様はジルダ様の元に行かれるのはどうですか?」


「ソフィーさんは来ないのか?」


「……私よりも露様の方が姫様も本音を話しやすいでしょう」


「分かった。ありがとう!」


 それ以上、俺は何も言わなかった。

 本心では俺よりもソフィーさんの方がジルダとの関係が長いと思うんだけど、何よりも急ぐこの場では何も言わなかった。


 俺はソフィーさんの白いベールが敵を掴んでいくのを尻目に、先を急ぐ。

 その際には、入口を防いでいた男の剣を『世端』で受けるとともに、力任せに自動ドアのガラスごと、ホテルの中へと飛ばした。

 男の低い悲鳴と共に、俺はホテルの中へと足を踏み入れる。


「誰でも来いよ――」


 俺は、覚悟を決めた。

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