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現代ダンジョンは氷のようなエルフの銀髪幼女と共に  作者: 乙黒


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龍

「え、鵲さん?」


 そんな探索者の中に見知った顔がいた。片平弥生だ。変わらず片足を包帯で巻いて松葉杖をついていたが、どうやら探索者としてこの場にいるらしい。

 怪我をしているのにどうしてこんな場所にいるのだろうか、と思ってしまったが、優秀な探索者の数は常に足りていない、とテレビで聞いたことがある。だから怪我をしている状態でも駆り出されているのだろう。


 特に片平は遠隔でも魔法を使えるからだ。


「ねえ、弥生はあの人のこと知っているの?」


「やっぱりソフィーさんの旦那様?」


「きゃー!」


「え。いや、そんなわけはないとは思いますが……」


 よかったよかった。

 片平は冷静に俺のことを分かってくれているようだ。

 むしろソフィーさんと一緒に俺が現れたことに驚いているようだ。


 だが、周りの人達はあいも変わらずこちらを見ながら黄色い声を上げているので、俺はもう気にしないことにした。

 俺以上に噂されているソフィーさんは、俺以上に涼しい顔をしているのだ。ジルダはまだ時々「……ばぶー」と言っていたので、俺は呆れたかのようにため息を出した。


「さて、露さん。ここからは迷宮です。覚悟はいいですか? ジルダ様を絶対に離さないで下さいね」


 俺は頷いた後に、ソフィーさんの後に空間の歪みへと飛び込んだ。



 ◆◆◆



 ソフィーさんと共に飛び込んだ迷宮の先は、暗かった。

 まるで暗闇に飛び込んだようだった。

 でも、その印象は変わっていた。


 前回の迷宮と同じで岩石に囲まれていたが、モンスターの気配は一つとして感じなかった。

 まるで――誰もいないかのようだった。

 静寂を覚えていた。

 だが、それは相反して、強敵を俺は心の奥底で感じていた。


「行きましょうか。この迷宮はシンプルです。奥に、モンスターが一匹います。おそらく――龍でしょう。その龍が倒せないから、誰もがこの迷宮を攻略出来ていません」


 ――龍。

 俺はそのモンスターをよく知っている

 最も有名なモンスターの一つだからだ。

 迷宮内で最も強いモンスターと言われており、どの龍も――ドラゴンも、レベル7の最高ランクに位置付けられている。


 龍の特徴は幾つもある。

 二対の手足。大きな翼。強固な龍鱗。それに――龍眼と呼ばれる縦に開かれた“金色”の瞳。

 魔眼を――龍眼を、彼らは持っているのだ。


 だから――普通の冒険者だと相手にならない。


「いいですか。もしも彼らと合うことがあったら逃げなさい。今のあなたが絶対に勝てる相手ではありません」


 龍よりも“大きな魔力を持つ”ソフィーさんの前に現れた龍は――紅かった。4つの足と、大きな二対の翼。長い尻尾が生えており、顔に生えた二本の角は鋭く金色の目は縦に瞳孔が開いている。

伝説上の龍、そのままの姿であった。


 龍が頭をこっちに向けて大きく咆哮を出すだけで、俺の肌が粟立つ。前方にいる龍の目から目を離すことができない。その目は他者を威圧し、頭(こうべ)を垂れさせようとしてくる。魔力で抵抗出来ているが、きっとソフィーさんがいなければそれすら難しいだろう。


彼女は龍を前にしても、いつものすました顔から変わらなかった。

 龍がもう一度咆哮する。

 俺達を警戒しているのが分かった。きっと俺達の前にいるソフィーさんだろう。彼女の放つ魔力は、他の探索者や魔法使いと比べて強大だ。魔力の王と評されることもある強大な龍とも、決して引けを取らない魔力を持っていた。


 そんな龍の口からちらちらと炎が漏れ出る。

 火を放つのだ。

 俺はそれが分かってとっさに避けようと体が反応してしまうが、前に立ったソフィーさんが余裕そうな無表情で口を開いた。


「離れないでくださいね。――『天の羽衣(ホワイトベール)』」


 ソフィーさんが魔法を発動させると共に、透けた布のようなものがソフィーさんを包みこんだ。それは俺達をも柔らかく包む。まるで抱かれているように感じてしまった。


「これが……?」


「これが――私の魔法です。それだけではありません。今日はあなたに魔法の真髄を見せます。いいですか? 魔法はただ発動させるだけではなく、その力を真に引き出せば全く違う姿を見せるのです。それが――過負荷(オーバードライブ)です」


 ソフィーさんの魔法がきらきらと輝き出した。まるで空に流れる天の川のようだった。それは俺達を包んでいるのも輝き、より暖かくなった。


未だに赤子の真似をしているジルダは「ばぶー」と声を出したので、俺はもう一度ずれそうになっていた彼女を抱きかかえ直した。


 そんな俺達へ向けて龍は口を開いた。

 瞬間、視界を埋め尽くすほどの巨大な炎が俺達を襲う。

 だが、ソフィーさんは焦る様子もなかった。いつもと変わらない淡々とした表情で、こちらへと向きながら口を開いた。


「オーバードライブが出来るようになれば、魔法が一段階進化します。私の場合は質量あるこの布に、“拒絶”の力が加わります。だから、龍の火であっても怖くはありません」


「だから大丈夫なんだ……」


 俺は絶句していた。

 布の隙間から見える火の世界は太陽のように輝いていた。普段なら綺麗だと思うかも知れないが、きっとこれは骨の髄まで焼き尽くす炎だ。熱気は感じないはずなのに、肌が焦げ付くような気がする。思わずジルダを抱える手に力が入った。


 だが――ソフィーさんの魔法は、俺の全てを守った。髪一つ燃えなかった。


「すげえ」


 口から自然と簡単の声が溢れてしまった。


「これが魔法の真髄です。いずれはあなたもこれが出来るまでのレベルにはなって頂きたいです――」


「これって普通の魔法使いが成れるものなの?」


「……どうでしょうか。でも、これが魔法の行き着く果てです」


「つまり目指せと?」


「はい。私に魔法を習うのです。これを目指してもらわないと思います――」


 ソフィーさんの無表情とともに、無数の光の帯が刃となって赤い龍を襲う。そのあまりの速さに龍が飛び立とうとする前に突き刺さり、抵抗虚しく龍は全身から瘴気を溢れ出して絶命した。


「――終わりました。迷宮の核を壊して地上に戻りましょう」


「ああ、うん」


 全身を瘴気へと変えていく龍を横目に、俺はジルダをもう一度抱え直しながらソフィーさんの後を追う。

 目があった腕の中のジルダは、先ほどと同じように「……ばぶー」と赤ちゃんの真似をしていた。


「なあ、ジルダ。いつまでそれを続けるんだ?」


「……だって、ソフィーが赤子のように、しろって……」


「別にもうモンスターもいないからいいと思うぞ」


「……分かった」


 どうやらこれまでの赤ちゃんの演技はやめて、元のジルダに戻ったかのようだ。表情はあまり変わらないから変化に乏しいから分かりづらいけど。


「じゃあ、降りるか?」


「……降りない」


「え、なんでなんだ?」


「……降りない」


 何故かジルダはより抱きかかえやすい位置になった。

 もうモンスターの気配はないとはいえ、もしかしたらどこかに潜んでいるかもしれない、と俺は彼女を下ろすことはしなかった。念のためとはいえ、モンスターが現れる可能性もあるからだ。

 現に俺の周りから『天の羽衣(ホワイトベール)』が消える様子はなかった。


「そう言えば、露様に言い忘れていたことがありました」


 迷宮の先を進むソフィーさんが、おもむろに口を開いた。


「何ですか?」


「――ジルダ様のことです」


「ああ」


 俺は抱えているジルダの顔を見ようとする、胸の中に隠れた。


「ジルダ様は、その“存在”を狙われています」


「どうして?」


「ジルダ様は、その身に、人身御供として、“あれ”を宿しています。ですからそれを狙われているのです」


「“それ”、とは?」


 聞いてみたが、その存在を俺は予想していた。


「言えません。禁じられておりますから。でも、エルフは皆が知っています。誰もが思い出したくない悪夢ですから。迷宮の核がございました。さて、そろそろ地上に戻りましょうか」


 ソフィーさんは、以前に見た核より大きく輝く核に向かって、光の帯を突き刺した。

 核が崩れ行く姿を見ながら、俺は一つの――確信に達していた。


 ジルダが宿している“あれ”を俺は知っている。

 既に彼女の中にはなく――今は俺の中にある、と。

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