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現代ダンジョンは氷のようなエルフの銀髪幼女と共に  作者: 乙黒


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覚醒

 真っ赤に染まる視界の中で、私にはまともに立ち上がることさえ出来なかった。ミノタウロスの攻撃によって壁にぶつかり、膝があらぬ方向に、上がっていたのだ。何度か立ち上がろうとするも激痛のあまり保つことができずに地面へと顔をぶつけてしまった。


「しくじり……ました…………」


 なんとか魔法を発動させて遠くにいる鵲さんとジルダさんを守るとするも、魔力すら上手く操ることができない。

 そんなミノタウロスはジルダさんを守ろうとした鵲さんをテレフォンパンチ一発で遠くまで飛ばす。


 鵲さんは地面に横たわっているが、立ち上がる様子はない。そんな彼の傍にはジルダさんがいた。

 どうやら逃げなかったらしい。


「……守らないと……」


 私はそう強く思う。

 そもそも上からジルダさんの保護を依頼されたのだ。それに一般人である鵲さんも守る必要がある。それだけは最低限でも果たさないと、と思うが残念ながら体は思うように動かない。


 オークが出て、ミノタウロスも出るようなダンジョンだと、自分は力不足だった。きっとレベル6、あるいは最高レベルであるレベル7の探索者しか対処できないだろう。


 絶望的な状況だった。

 モンスターが見つけた人を殺すとしないことはない。頭のいいモンスターが優先順位をつけることはあるが、全て殺そうとする。その理由は未だに分かっていないが、なぜだかモンスターは人類の不倶戴天の敵なのだ。


 ――だが、そんなミノタウロスは、その歩みを止めてしまった。

 鵲露が、立ち上がったからだ。

 立ち上がるとは思えないような怪我をしているように思えた。口から血を流し、体のあちこちが赤い。


 ミノタウロスに攻撃されたのだろう、と思った。

 それでも彼が生きているのはきっと、ミノタウロスが手加減したからだ、と思った。このモンスターは頭がいい。人を嬲ることを知っている。己の愉悦のためだけに。

きっと自分が生きているのもそれだ、と思った。彼らは人の悲鳴に快楽を覚えるのだ。


 だが、ミノタウロスが死ぬ寸前まで“わざと生かした”下等生物が、地面から立ち上がった。

 それに戸惑ったのだろうか。

 いや、それだけではない。


 ――鵲露の、雰囲気が変わった。


「あぁあああああああああああああああああ!!」


 これまでの彼だと考えられないほどの歪んだ表情で、大きな声を出した。

 気圧されたミノタウロスは先程までと同じように牛のように走り、岩のような腕でテレフォンパンチを振るおうとするが、鵲露も殴り返した。

 両者の拳がぶつかり、ミノタウロスの腕が折れる。腕を弾いて叫んだミノタウロスは、右手を抱えるように叫んだ。


 そんなミノタウロスへ、鵲露は、いや、鵲露のような“何か”は、手を前に出し、衝撃波のようなものを出してミノタウロスを消し飛ばした。


「――ああ、実に愉快だ! 最高の気分だ! 久しぶりの生身! 我は今、生を実感している! まさしく全てを壊してやりたい気分だ」


 人の身ではありえない横に広がった楕円の瞳孔に、黒い下地に光が散らばったかのような虹彩。魔力かそれとも別の“ナニカ”が溢れ出しているのか、黒の粒が彼の周りを渦巻くように輝いていた。


 私の、知らない“誰か”は――彼の姿をしていた。


 敵がいなくなった“誰か”が見つけたのは、未だに地面に座っているエルフのお姫様だった。


「――さて、次の獲物だ。よくも我(われ)を封じ込めていたな。楽に死ねると思うなよ」


 宇宙のような目の輝きを放つ“誰か”は、手に黒い粒子を纏わせた。


「……」


 ジルダちゃんは、何も言わなかった。

 そんな彼女を守るように、少しだけ回復した私は“誰か”の前に立った。


「――あなた、何者?」


 私は日本刀を向けながら言った。

 だが、私自身も満身創痍だった。膝は桜を纏わして修正して支え、幻によって近くを麻痺させてジルダちゃんを守るのだ。

 ミノタウロスを一瞬で倒した彼に、きっと私の力は通用しないと思っているが、ジルダちゃんを守るのが任務を受けた私の義務だと思う。


「どけ。小娘に用はない。あるのはそっちだ」


 彼は、私を見ることすらせず、黒い粒子を払うだけで私を地面に跪かせた。私は抵抗しようとするが、彼の使う“魔法”に抗うことなど出来ない。力の無い私に、彼の蔑むような視線が向けられる。


「……アララ」


 彼女は、小さく彼の名前を呼んだ。

 空気が、変わった気がした。


「――我を、封じ込める気か? 面白い! こんな子供(ガキ)に……」


 嘲笑している彼は、自分で自分の頬を殴った。

 地面に倒れた彼はいつの間にか宇宙のような目が消えて、元の雰囲気に戻ったようだ。


「……帰ってきた?」


「よく分からんが、俺は俺だぜ?」


 先程までの威圧的な雰囲気が無くなった鵲露は、ニヒルに笑った。



 ◆◆◆



 ――わけも分からずミノタウロスを“俺”が倒した後は、ダンジョンを攻略することになった。だが、ミノタウロスがボスだったようですぐ奥にダンジョンコアがあった。

 魔力を得た俺なら拳で殴るだけで、簡単に壊すことができた。


 コアを失ったダンジョンはゆっくりと崩壊していくが、生きている者は地上へと投げ出される。それはモンスターに関しても同じだ。だから多くの探索者達はモンスターを倒しながら地上に戻る。そして残ったモンスターを地上で倒すのだ。そのために多くの探索者が地上で待ち構えている。


 とはいえ、ミノタウロスのようなボスクラスのモンスターは既に倒されているため、出現するモンスターの殆どは雑魚扱いのゴブリンだろう。強くてもオーガだろうが、モンスターが排出される頃には高ランク探索者が集まってきているので、地上の掃除は大丈夫だと片平は語る。


「まさか背負われて運ばれるとは……」


 そんな彼女は俺の背中の上で恥ずかしそうにしていた。足が折れている彼女は、まともに歩くことすらできていなかった。


「まあ、仕方ないだろう」


 一方の俺の体は絶好調だった。

 理由は分からない。俺の中の何かが、知らない間に治したのだろう、と察してしまう。


「それにしても、まさかあなたが“魔力”を持っていたとは。それにミノタウロスを倒すほどの実力を持っているとは思いませんでした――」


「……たまたまだよ」


 俺は隣に並ぶジルダを眺めた。

 あの時、彼女が何をしたかは俺にもよく分かっていない。だけど、俺に魔力を授けたのは間違いなく彼女であり、俺も知らない“何か”が体を乗っ取ってミノタウロスを倒した。“何か”から体の主導権を奪うことには成功したが、その時の記憶はしっかりと俺に残っている。


 それ以来、俺の体には魔力があり、“何か”がいる。

 そのことについてジルダはミノタウロスを倒した後に、「……内緒」と言われたので片平にすら何も伝えていなかった。


 その後、モンスターと一度も出会うこと無く迷宮内を彷徨っていると、ダンジョンが完全に崩壊し、現実世界へ戻れた。


 地上は黄昏時だったが、分厚い雲が太陽を隠し、夜のように暗くなっていた。


 外には多くの人がいた。警察、探索者、マスコミ、ロープで区切られた先にヒア聴衆もいて、俺は探索者の機関に片平を預け、迷宮に吸い込まれる前にいたジルダの保護者らしき集団にジルダを預けた。


 地上に溢れ出したモンスターたちは、多くの探索者たちが作業のように殺していた。

 多くのモンスターが瘴気となって、やがて霧散するように消えていく姿が見えた。何度も動画サイトで見た光景でもあった。


 フリーになった俺は、すぐに救急隊員から体の状態を尋ねられたが、無事だと答えてその場からすぐに離れようとした。何度か探索者団体や警察などからダンジョンの様子を何度も尋ねられたが、それらを素早く終わらせようとしている。


 スマートフォンがやっと繋がったからだ。

 妹からの連絡が何度も来ている。メッセージアプリだけではなく、電話も何度も来ている。


 ――早く来て!


 俺は素早く妹に電話して、「ダンジョンに巻き込まれていたけど、今地上に戻ってきた」と素早く言うと、妹は電話口で発狂していた。もしかしたら父が死んだ時のことを思い出していたのかもしれない。


 なんとか俺はその場での事情聴取を終わらせると、走って母の病院に向かった。

 魔力を得ても俺の体はあまり変わらず、すぐに息が上がりそうになるがそれでも必死に走った。


 ふと視線を感じて振り返ると、そんな俺をずっとジルダが見つめていた。だけど、俺は前を向いて病院へと急ぐ。

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