島の探検 sideアレン(part27)
ピピと遠征船、そして太陽に照らされた美しい白い砂浜から離れて数十分。
俺たちは、その島に降り立ちまるでその感触を噛みしめるように。
道中を歩いてはいなかった。
広大な大自然の中をフェリクセンの駆るバギーに揺られている。
それは決して快適とは言えない物だった。
「フェリクセン殿、ここを右に……ひゃあっ!?」
「うひぃ〜! 思ったより揺れる〜っ!」
「これでも姿勢制御系には手を加えたんだがな……うおぉっと!」
ガタン! と腹に響く不穏な落差音とともに、車体が大きく上下に跳ね上がる。
猛スピードで段差を踏み越えるたび、シートからお尻がふわりと離れて強烈な浮遊感が襲ってきた。
その後には当然のように臀部に衝撃が来る。固くも柔かくもないシートが揺れるたびに俺たちを迎え入れている。
「みんな、大丈夫〜? 自然の風がすっごく気持ちいいよ〜!」
「そんな余裕ないですよ!? 舌噛みそうですっ!」
大きな段差はそこまで多くは無いが、小刻みに振動は続いている。
「え~、機械国でも人間領でも見たことない植物がいっぱいだよ~」
「無理ですって…うわぁ!」
「まったく、騒々しいな……。少しは緊張感というものを持て」
バギーのすぐ脇を、エンジン音とは異なる低く涼やかな滑行音を立てて、二つの影が併走する。
ホバーユニットを排気させ、地表からわずかに浮いて滑るように疾走するのはエデンとデンドロビウムだ。その背後ではバーニアから人口魔素が無数の星空の如く煌めきながら、消えていく。
紫髪を風になびかせ、余裕の笑みで手を振るデンドロビウムとは対照的に、エデンは腕を組んだ姿勢のまま、呆れつつもホバーの軌道を制御して隙のない眼光を周囲へと走らせていた。
セレスティアから機械領へと伸びる綺麗な舗装路で乗ったことはあったが、今俺たちが走っているのは未知の鬼島。これまで鬼種以外は踏み入ることすら許されなかった、完全なる未踏の鎖国島だ。
そこを今、俺たちは荒々しくも凄まじい速度で踏破している。
俺は後部座席に座り、車体を激しく揺らしながらも道なき道を案内するセツナさんを後方から見やった。
先ほどから、彼女は人一倍胸を躍らせているように見えた。無理もない。俺たちもまた、風を切り裂くようなこの異次元のスピード感に身体中が興奮している感覚を覚えていたのだから。
この揺れには少しばかり恐怖心があるのは否定できないが。
「けどフェリクセン、お前、こういう機構関係はからっきしだって言っていなかったか?」
「そのつもりだったんだけどな……なんか『車』ってやつだけは、すんなり構造が頭の中に入ってくるっていうか……」
「実際、私のラボでも資料を食い入るように読み漁ってたもんねぇ〜」
ラボで出会ったのはそこでこの車を改造していたのか。ようやく自分の中で合点がいった。
「街中でもこのような乗り物は拝見してはいましたが……やはり自らの足で大地を駆けるのとは全然違いますね!」
セツナさんは黒髪を耳の後ろへとしなやかにかき上げ、全身で疾風を受け止める。
きっと彼女にとって見慣れたはずの故郷の景色が、この速度感によってまったく違った世界に見えているのだろう。
剥き出しのフレーム越しに広がるのは、外から眺めていた以上の、圧倒的な密度を誇る原生林だった。
人間領の自然が平原や野原を中心とした穏やかな優しさに溢れているのだとすれば、ここ鬼島の自然はあまりにも雄大で、暴力的なまでに力強い。
千古の時を経た山々や渓谷。天を突く木々は太く逞しく、うねる龍のように枝を伸ばしながら青空を覆い隠している。
タイヤが巻き上げるのは、独特の赤みを帯びた力強い土だ。
そこから伸びる多種多様な緑の草花までもが生命力に満ち溢れている。滝や水源も豊かで近くを走れば清涼感に満ち、小さな水しぶきが心地よい。
島全体が、鬼種の持つ逞しく荒々しい生そのものを象徴しているかのようだった。
「だが……このあたりには、あまり戦闘の痕跡が見受けられないな」
「うん。向こうの空に煙やらどす黒い魔素だまりが見えるから、主要な戦線はもっと奥なのかな?」
俺が抱いた疑問を、併走するエデンが冷静に補足してくれる。
俺たちが目指しているのは、セツナさんが生まれ育ち、鬼島の防衛本拠地でもある島一番の鬼の住まう里だ。
だが、ここまで疾走してきた道中では、鬼の姿はおろか魔人の尖兵にすら遭遇していなかった。
戦闘痕すらもなく、今のところは平和そのものだ。
「この辺りは我々の畑もありますから、私が戦っていた時は戦線はまだまだ南の方でした」
「ってことは里まではもうすぐなんですか?」
「この調子で障害がなければ、三十分とかからないかと……」
「意外と早く着くんだね!」
「ただ……途中で一度、この車を降りなければなりません。道中に切り立った険しい崖を通るポイントがありますので。この車で通るのは厳しいでしょう」
「険しい崖……?」
こくりと小さく頷くセツナさん。その可憐な動きに合わせて、黒髪がサラリと揺れる。
「集落の周りを取り囲むように、険しい山脈と崖が連なっているのです。比較的標高の高い高台に、私たちの里は位置しています」
「いわば、島全体が造り上げた『自然の要塞』ってことですか?」
「はい。大昔にこの島に移り住んだ、鬼の祖先たちが拓いた土地なのです」
「凄い歴史ですね……うわっ!?」
不意に、今日一番の猛烈な衝撃。
一瞬の浮遊感の後、ガツンと重い着地衝撃が全身を揺さぶる。
「ちょっとフェリクセン! 揺れる時くらい一言言ってよ!」
「はっは! すまねぇアレン! まだ運転に慣れてなくて荒っぽくなっちまう!」
爽快な破顔とともにアクセルを踏み込むフェリクセン。
どうやら、このアトラクションのような荒々しいドライブはまだまだ続きそうだ。
赤土を激しく巻き上げる大小二つの砂塵と、その両脇を静かに滑る二つの影。
一行は圧倒的な文明の速度をもって、太古の大自然を力強く駆け抜けていった。
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さいきんのまいぶーむは、れいせいぱすた!!!




