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すべての生きとし生けるモノ達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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幕間:機密 side3機神

船が出航する、わずか一時間前。

深夜の領内と言えど、住民の半数が機械や機関機構で構成されたこの国において、「夜」という概念は無に等しい。眼下に広がる街並みは、昼と何ら変わりなく活発な駆動音を響かせていた。

機械国デウステクスの領内中心部にそびえ立つ、中央セントラルタワー。その最深部の一室にて、ギア、エデン、デンドロビウムの三人が最後の密談を行っていた。

出航直前の深夜という過酷な時間帯であるにもかかわらず、三人の表情や仕草に眠気や疲労の色は一切ない。

生体部品のメンテナンスとエネルギー供給さえ満たされていれば、どれほど稼働し続けようとも彼らの肉体には何ら問題がなかった。

円卓の正面、中央の席に深く腰を下ろしたギアが、静かに口を開く。

幾何学模様があしらわれた鉄の仮面のようなヘルメットは、その下にある素顔も感情も完全に覆い隠している。


「出発前の忙しいタイミングで呼び出してすまない、二人とも」


いつものように淡々と、けれど重厚で落ち着いた合成音声が狭い室内に響き渡る。

普段、彼ら幹部が使用する会議室は、すべての議事録がリアルタイムで全国民へと開示される仕様になっている。

今後の法改正、現在浮き彫りとなっている問題への対処、国内外の外交調整、物資の分配、果ては開発された兵器の性能評価に至るまで。すべての情報は透明化され、広く国民から意見を吸い上げ、最適解を算出するための基盤として機能していた。

その膨大なデータ量をわずかな時間で集約・分析・処理できるのは、高度な演算処理能力を持つ彼ら機械人だからこそなせるわざである。


だが——今彼らが集まっているこの部屋は、めったに使用されることのない「完全非公式」の極秘会議室だった。

ギア自身、いや三人全員の共通認識として、この部屋を使うことは極力避けるという暗黙の了解が存在する。

国と民を率いる立場でありながら、統治者に「隠し事」が存在する状態は容認できない——という、デウステクスの根本理念があるからだ。

国民にも同じ視点、同じ視野、同じ思考プロセスを持ち、共に日々を歩んでほしいという理想。歴の長いエデンやギアでさえ、この部屋の扉を開けた回数は片手で数えるほどしかなかった。

ここで話し合いが行われるということは、国揺るがすレベルの緊急事態か、民には一切関係のない超局所的な事象かの二択。

そして、これまでの歴史において、その大半は後者であった。


「……急にどうした。出航直前に招集をかけるとはな」


エデンが胸の前で腕を組み、冷ややかな声で返した。

彼女自身はいつも通りの平静を保っているつもりなのだろうが、その重厚な鉄面皮はどこか不機嫌そうな威圧感を醸し出している。組まれた腕から覗く関節パーツが微かに軋み、鋭い視線が正面のギアへと向けられた。


「む〜……私はすっごく忙しいのに〜っ!」


対角線上に座る紫髪の少女——デンドロビウムが、幼子のようにお鉢のように唇を尖らせて不満を露わにした。

特に彼女は、今回の決戦出撃にあたっての要だ。エデンとデンドロビウムという主戦力が不在となる期間の国内防衛システムの再構築、遠征船の過激な改修、ピピの改修、さらに出撃メンバー全員の兵装チェックと兵器開発の統括として、目まぐるしいタスクに追われていた。

出航一時間前ともなれば、関係各所から最終承認の依頼やデータ確認の通信が鬼のように殺到する。今こうして会話している間にも、彼女の脳内視界には膨大なエラーログと確認要請が高速で流れ続けており、裏で並列処理を回している状態だった。


「まあ、別に構わないけどさ! 私、一度このお部屋使ってみたかったんだよね〜!」


しかし、不機嫌は一瞬で霧散し、彼女はケロッとした笑顔へと表情を変えた。相変わらず感情の振り幅が激しい。作られてからの稼働年数が最も若いとされる彼女特有の、純粋さと残忍さが同居する危うさだった。


「……この部屋を使う事態そのものが、あまり褒められたことではないのだがな」

「分かってるってば〜、エデンは真面目なんだから。ねえギア、本題は?」

「ああ。時間が惜しい、単刀直入に話そう」


ギアが机の上で両手の指を組み、重々しく告げる。


「何か、出航に関して不測の問題でも起きたか?」

「いや。セツナ殿が合流して以降、可能な限り鬼島周辺の広域監視とデータ解析を継続していたのだが……二つの重大な懸念点が発生した」

「懸念点だと?」

「一つ目だ。鬼島を取り囲むようにして、二つの未知なる巨大反応が計測された」


ギアが空中へ手をかざすと、ホログラムウィンドウが滑らかに展開した。

映し出されたのは鬼島の立体俯瞰図と、その近海領域。島を包み込むように、二つの巨大な熱源反応と、不気味に渦を巻く魔素波形が赤く明滅していた。


「……ユーグか?」

「いや、波形データが微妙に異なるね。何かしらの巨大な魔人……あるいは、太古の魔獣の類かな?」

「私の推測も同様だ。反応の質的にはそちらに近い。上陸の際は十分に警戒してくれ」


ギアは両肘を机につき、組んだ手の隙間から機械光の瞳を光らせた。


「で、もう一つは?」


エデンが早く先を促すように、低く問い詰める。


「鬼島近海へ、一隻の船影が急速に接近した。船体構造から見て……『鱗獣領』からの渡航船だ」

「……あいつらって鬼島を忌み嫌って、近づかないはずじゃなかった?」

「異変を察知して独自に調査員でも差し向けたのか? それが懸念点だとでも言うのか、ギア」


エデンは「それくらいであれば現場で処理するまで」と言わんばかりの冷徹な態度で吐き捨てる。


「その船の戦闘員が……熱源反応の一体を撃破した」

「……へぇ?」


デンドロビウムの瞳が怪しく光り、幼い顔立ちに妖艶で狂暴な笑みが浮かんだ。


「面白いじゃん。……セツナちゃんには伝えたの?」

「いや。まだ接触した者が敵か味方かも判別不能なため、伏せてある」

「セツナ殿が知らぬ間に、鬼族の救援要請に応じた後発部隊が出た可能性もあるのではないか?」


エデンが至極当然の可能性を提示する。無論、ギアの演算処理においてそのパターンが思考から漏れているはずもない。


「もしくはただの脱出者とか? 漂流者とかさ?」

「可能性は無くはないが、それにしては動きが早すぎる」

「鱗獣領と直接やり取りできる広域通信網は存在しないから、そこは確認しようが無いな。……にしても不思議なものだ。鱗獣種は昔から鬼島を恐れて近づかないはず。 協力を仰がれたからと言って、リスクを冒してあの猛者どもが動く…?」

「……どこかの誰かさん同様、お節介な『お人好し』が混ざっていたということかもしれないね?」


デンドロビウムはニヤニヤと笑いながら、椅子の下で脚をパタパタと楽しげに揺らした。


「でも~、その巨大反応を撃破したってことは、相当な手練れってことだよね?」

「ああ。観測衛星からの距離があまりに離れているため正確な数値測定は不可能なのだが、極めて戦闘能力が高い個体群であることは間違いない」

カメラが鮮明ではないが、動きからして戦闘に慣れていることが伺える。

「……搭乗人数も不明か?」

「最大望遠の画像を画像補正してギリギリ判明したのは、直接戦闘に関与していたのが四名。船室内部に潜んでいる者がいれば、それ以上だ」

「み〜んな、鱗獣種?」

「身体捌きや空間跳躍の軌線を見るに、その可能性が高いが……。この、画面端で宙を跳び跳ねている小さな個体は、獣人種かもしれない。 特徴的な耳と尻尾をしている」

「……こっちの、やけにガタイが良い個体は……漂流でもした鬼かな?」


最大解像度まで引き伸ばされた、荒くノイズの混じるホログラム映像。

空を舞う小柄な影、巨躯を誇る影、そして静かに立ち塞がる影。

ギアは重い溜息を吐き出すように、合成音のトーンを落とした。


「……鱗獣種と獣人種が手を組んで共同戦線を張る? そのような外交情報はどこにも存在しない。生態的にも、その二種族が協調して行動するなど考えにくいのだが……」

「あり得ない組み合わせだね〜」


考えれば考えるほど、その不確定要素は気味が悪い。


「……現場での不測の成り行きで、一時的な同盟を結んだのか?」

「だとしたら、わざわざ死地である鬼島を目指す理由がもっと解せなくなるね」

「だが……いくつか無視できない観測情報がある」


ギアがホログラムの特定フレームを強調表示した。


「この敵生物による巨大な触手攻撃……波状に押し寄せる物理圧力を、この小柄と大柄な個体はいとも容易く完全回避している。さらに、この観測不可能だった白い一撃で一瞬で腕部を切り落としている。とどめを刺した際に放出された高密度のエネルギー波も無視はできない……ただ者ではないことは明白だ」

沈黙が室内を支配する。

「……できれば、現場で敵には回したくない存在だな」

「ふふ、また一つ……余計な『波乱』が増えちゃったねぇ」

言葉とは裏腹に楽しげな笑みを漏らすデンドロビウムと、腕組みをしたまま一層表情を硬くするエデン。

ギアは静かにホログラムを消去する、静かに部屋を後にした。


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