海洋の死闘 sideアレン(part22)
「高熱源体の正体はこいつか……」
『今までこんな怪物、見たことないや』
大きく荒れ狂っていた船体がようやく持ち直し、司令室の揺れが落ち着く。
船の司令室でその姿を視認しているエデンと、ラボ内で待機中のデンドロビウム。メインモニターに映し出された“それ”は、現れるなりただこちらを品定めするように見下ろしていた。
何重もの不気味な波紋を描く黒々とした海水から突き出た、圧倒的な巨躯。
揺らぐ船窓の向こう、潮風と飛沫が荒々しくガラスを叩く音が司令室内に重く響く。
ギアとの秘密裏に行った打ち合わせでも聞いていたがこれほどの化け物とは予想だにしていなかった。
流石に気味が悪い。しかもその魔獣には、他の魔獣と決定的に違う特徴があった。
『エデン、気づいた? こいつ……』
「あぁ、生意気にツノを生やしているな」
その超巨大な海のヌシは、一丁前に自身のボディと同じく海水で形成された一対の角を頭部から生やしていた。
魔人——一般的な黒い魔素の塊でしかない雑兵から、ユーグのような上位種に至るまでツノが存在することは理解できる。だが、目の前のこいつは異質な威圧感を放っていた。相対したままでは拉致があかない。ここで無駄に消耗するのは愚策だ。
エデンはもう一つのサブディスプレイへと視線を投げ、声をかけた。
「ピピ、エンジンや船内状況に異常は?」
もう一人の機械人であるピピ。彼女はこの船の心臓部であるエンジンルームにて、後方支援全般を担当している。既に配置につき、状況を把握しているはずだ。
直ちに通信機から彼女の声が届く。
『船体に大きな損傷はありませんが……少々厄介なことが』
しかし画面の中のピピの表情は不安げで、小さく揺れた水色の髪が焦りを物語っていた。言葉の歯切れも悪く、信じられない現象に直面しているかのような顔だ。
『どうしたのー?』
デンドロビウムが尋ねる。ピピは息を整えるように、ゆっくりと言葉を繋いだ。
『……先ほどから出力を限界まで上げて海域の突破を図っているのですが、船が……全く進まないんです』
「なに…?」
エデンとデンドロビウムの両名が息を飲んだ。だが瞬時に状況を理解し、その予測結果に嘆息が漏れる。
「十中八九、原因はあの巨大な奴だろうな……」
『全く、本当に色々と起きて飽きないね〜』
『デンドロビウムさん、笑ってる場合じゃないですよ!』
『どんな子なんだろうね、分解して分析してみたくない?』
『そんなこと思いません!』
二人のやり取りを尻目に、エデンは出撃の準備を開始した。
司令室内に待機させていた、自身の身の丈ほどもある大型ブレードと背部ブースターユニットを展開。内部ジェネレーターが低音を響かせ、暖機運転の排気音が鳴り渡る。
「私が出る。ピピは常にレーダーと計器から目を離すな。脱出できるタイミングが来たら全速前進。私の許可はいらない、ピピの判断に任せる」
『了解でーす』
『私は出なくていいの?』
デンドロビウムが不思議そうに首を傾げる。頭部に取り付けられたリボン型の高感度レーダーが小さく揺れた。
「ここで戦力を消耗するわけにはいかない。おそらくこいつは鬼島への侵入を拒む『門番』のようなものだ。これを仕掛けた張本人は……」
『ユーグ、かな』
「あぁ、間違いない。だからこそ短期決戦で決める。こいつを倒した時点で向こうに察知されるかは分からんが、最悪そのまま連戦になるかもしれん」
『温存しておけってことね』
納得したようにデンドロビウムがうんうんと頷く。
「ピピ、ビーム砲のチャージも始めておけ」
エデンは手元で自身のブレードの最終チェックを行う。金属のフレームにカチャカチャと心地よい音が響く。長年愛用してきた無骨な仕上がりながら、刃部分だけが透明度の高い特殊素材で形成された一振りの獲物だ。
『いいんですか? 少しチャージが早い気もしますが』
「もう少しで島までの射程圏内だ。我々は既に鬼島からの奇襲を受けていると言ってもいい。最悪フルスロットルで強行突入し、そのまま照射するすることも視野だ」
『それも状況判断だね』
「あぁ。最悪の想定は……ここでユーグ本人が現れることか」
その言葉に、通信画面越しにもピリッとした緊張感が走る。
機械の身体に心拍数など存在しないが、貼り詰めた空気が鉄の全身を突き抜けるのをエデンは実感していた。しかし画面の中のデンドロビウムは、場の空気を和らげるように「にへら」と笑ってみせる。
『ここでは流石に戦いたくないなぁ……けどそうも言ってられないかも』
「同感だ」
『ですね……』
三者とも最悪のシナリオを頭に浮かべつつ、同じ思いを抱いていた。
たった今現れた『もう一つの反応』に対して、同じ感想を抱いたのだろう。
あまり船の上で激突し過ぎれば、船ごと波間に消えるのは免れない。例え打ち勝てたとしても、船を沈められては元も子もないのだ。
「とりあえずは、あの巨大なデクの棒を切り伏せてくるとしよう」
『お願いします!』
『がんばれ〜』
出撃の直前、暖気を終えたエデンの身体各所の排気弁から「プシューッ」と高圧の蒸気が噴き出した。全身の関節可動域のセルフチェックを行う。
ふむ、調子は悪くない。
「時間もない。5分で片付けてくる」
『泣きついて戻ってきてもいいんだからね?』
デンドロビウムがウインクを飛ばしながら茶化す。
「これでも腕には自信がある…デンドロビウム、後方は任せた」
『オッケー』
不敵な言葉を残し、エデンは大きく揺れ続ける船の廊下へと足を踏み出した。
甲板へ通じるハッチを開けた瞬間、荒れ狂う潮風と豪快な飛沫がエデンの全身を叩きつけた。
空はどんよりとした重い雲に覆われ、見渡す限りの漆黒の海は、まるで船を呑み込もうとするかのように大きくうねっている。
荒波の渦巻く中心に立ち塞がるのは、海水を纏った超巨大な黒い影。
船体を包む強烈な威圧感と、逃げ場のない海上での絶対的な孤立感。
エデンは背部のブースターを激しく噴射させると、甲板の鉄板を強く踏みつけ、荒波が荒れ狂う海面の上へと一気に飛び出した。
『じゃあ私も準備するか〜』
エデンをウィンドウ上で見届けたデンドロビウムも、同じように出撃の準備を始めた。
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「おいおい、こんな奴どうすれば…」
「これほどの巨大な生き物は我が鬼島<オニカド>でも見た事ありませんね」
「いやいや、いたら嫌でしょう、このスケール感」
そんな冗談混じりに言っているのも束の間。
そいつは小さい奴ら、子分か眷属か子供かは知らないが、そいつら小型と同じ様に水の礫を飛ばしてくる。
「かわせ!」
フェリクセンの激しい声に釣られる様に交わしていく。それぞれが針の糸を通す様にかわす。
(なんだよ、これ)
それは全くの別物だった。早さ、大きさ、威力。全てが別格。
その巨大なやつから繰り出されるすいだんの早さは比べ物にならない。
先ほどまで交わすことが余裕だったはずのそれは、困難な銃撃戦を体験している様だった。
大きさは先ほどまでのこがたが飛ばしてきていたのは小石ほどだったが今は握り拳よりも大きい。剣でガードしようものなら腕が痺れた。
威力は言わずもがな。船体に衝突した箇所には穴が開き始めている。ガンガンと激しい着弾音が船上に鳴り響く。
まるで鋼鉄の弾丸が着弾したかの様な響きで、とても海水で形成された、代物とは信じ難い光景だった。
「嘘でしょ!?なんて威力…!?」
「これは流石に見過ごせませんね…」
「船中、穴だらけになっちまうぞ!」
すると巨大な影が船を覆う。
水滴がポタポタと落ちてくる。
上を見上げるとその巨大な水の魔人は腕を船に振り下ろそうと大きく構えていた。
皆さんどうも&初めまして。
みゃ~むら、と申します。
読んでいただき誠にありがとうございます。
感想お待ちしております。
いや〜、8月。本格的な夏がやってきた感じがしますよね。
夏といえば何でしょう。
海、山に旅行。実家に帰って親戚に会いにいくというのもいいですね。
皆様の今年の夏はどのように過ごすのでしょうか。
是非とも楽しんでください。




