旅路の遭遇 sideアレン(part20)
「10秒しか戦えない……?」
「それは一体……」
俺やフェリクセン、セシルまでもがあからさまな動揺と混乱を顔に浮かべていた。
あの常に冷静沈着なエデンさんでさえ、僅かに眉根を寄せ、その端正な顔に珍しく困惑の影を落としていた。あのエデンさんに「?」を浮かべさせるとは、中々見られない光景だろう。
「困惑するのも無理はありません」
苦笑しながら、俺たちを見渡す。まるで反応を楽しんでいるかの様だ。
「我々鬼族は身体の頑丈さ、特に表面のこの『赤皮』と呼ばれる部分は鋼鉄のように強靭で、刃であっても容易くは通さぬ鎧の様な皮膚なのです」
セツナさんはそう言いながら、テーブルの上の余っていたフォークを手に取り、無造作に自身の赤い肌が露出した腕の表面を突いた。
キンッ、キンッ。
金属同士がぶつかり合うような、甲高い音が談話室に響く。俺は思わず自分の目と耳を疑った。
柔らかで滑らかそうな女性の肌を金属のフォークで突いているという視覚情報と、そこから返ってくる硬質な音が、あまりにも乖離しすぎているのだ。
「えぇ……っ!?」
フェリクセンは信じられないものを見たかのように目をゴシゴシと擦り、セシルも目を丸くして驚愕の表情を固めていた。
俺たち人間とは、根本的な生体構造が違う生き物なのだという事実を嫌でも再認識させられる。
「すっごーい……。ちょっと、触ってみてもいいですか?」
「えぇ、構いませんよ」
セシルがおずおずと手を挙げて申し出ると、セツナさんは微笑みながらあっさりと了承した。
差し出された腕へ恐る恐る手を伸ばし、最初は指先でツンツンと、次に手のひら全体で包み込むようにして感触を確かめ始める。
「な、なんだろう、この不思議な感覚……! 硬いんだけど、ちゃんと感触はお肌なの! 初めての感覚……」
「ふふ、少しばかりくすぐったいですね」
「あっ、すすみませせんっ!」
「いえいえ、こんなことでよければいつでも」
見惚れていたセシルは自分が撫で回していたことに気づき、盛大に噛みながら慌てて手を引っ込めた。
「似たような例だと、鱗獣種の人たちも肌に鱗が生えていて、高い防御力を持っている人がいますよね」
「あぁ、彼らもまた違った生体特性を持っているな。だが、今はセツナ殿の兄君の話だ」
フェリクセンの言葉をエデンさんが静かに引き取り、話題の軌道を戻す。
(どうして今、この『赤皮』の話を……?)
俺の頭の隅に疑問が浮かぶ。兄は10秒しか戦えないという話だったはずだ。それがどう繋がっていくのだろうか。
「はい。我々鬼族は表面の皮膚だけでなく、内臓や骨格といった内部組織も強固に形成されており、少々の怪我や衝撃にも耐えうる造りになっているのですが……」
「……兄には、その内部の頑丈さがない、と?」
セツナさんの言葉の先を読み取ったエデンさんが、低く確認を入れる。その推論に、セツナさんはゆっくりと、肯定の頷きを返した。
「はい。鬼の繰り出す規格外の力や激しい戦闘は、それを支える屈強な内外の肉体があってこそ成立します。兄にもこの『赤皮』はありますが、それだけでは、自らの放つ絶大な力による内部への負荷に耐えきれないのです」
「なるほど……自壊を防ぐために、あえて『10秒』という極端な時間制限を設けて戦闘にとどめているってことだね!」
状況を正確に分析したピピが、納得したようにポンと手を打った。
「その通りです。ですが、その10秒間だけの戦闘において、私の勝率は十本手合わせをして2本取れれば上々、といったところです」
またしても言葉を失いそうになる。あれほどの怪力とスピードを兼ね備えるセツナさんが勝ち越せないとは余程の事だろう。
「10秒間という限られた時間の中で繰り出される、超高速かつ圧倒的な剣戟……それこそが兄の『本領』なのです。その時間内であれば、兄は誰よりも強い」
「と、言うことは……」
「お察しの通りです。相手に凌がれ、10秒間を耐え切られてしまえば……その相手には勝てない、ということを意味します」
「なるほどなぁ……。だからこその、『本領を押し付ける』って意味合いだったわけか」
セシルが深く納得したように、背もたれに体重を預けて天井を見上げた。
たった10秒間しか戦えない。しかし、その刹那の間だけならば最強と言わしめる極端な戦闘スタイル。
「……いつか、手合わせしてみたいものだな」
エデンさんが、戦士としての興味を隠しきれずにそう呟いた――まさにその瞬間だった。
『――ドォンッ!!!』
耳をつんざくような激しい衝突音と共に、凄まじい衝撃が船体を下から突き上げた。
「な、なんだぁ!?」
大きく船体が傾き、俺たちがいた談話室の世界も斜めに跳ね上がった。
「きゃあっ!」
「うおっ!?」
俺たちは激しい慣性に抗いきれず、それぞれ床や壁に向かって無防備に投げ出される。点灯していた温かな照明が、衝撃で不吉に明滅した。
テーブルの上にあった食器やグラスが次々と自由落下していく。機械国製の簡単には割れない容器が採用されているため割れて破片が飛び散ることこそなかったが、ピピが作ってくれた色鮮やかな食事やスープが無惨にも床にぶちまけられ、大きな染みを広げていく。
そんな大混乱の中、いち早く完璧な受け身をとって立ち上がったエデンさんが、即座に腕部のデバイスを操作し、小さな通信ウィンドウを展開させた。
「デンドロビウム、何があった!?」
すぐさま別室で作業をしている筈のもう一人の乗員に応答を促す。少々のノイズが走った後、緊迫した声が返ってきた。
『正体不明の熱源が船底部分に追突したみたい! 今のところ船殻の破損や浸水は確認されてない!熱源は今船の周りをうろうろしてる所を見るに、何かしらの生命体みたいだね』
「追突……!? これだけの質量を持つ船を激しく揺さぶるような、巨大な生物だとでもいうのか……?」
『とにかくみんな、戦闘準備! ピピちゃんはエンジンルームにて待機して! 準備出来次第、甲板で迎撃をお願い!』
『了解!』
温かな湯気と談笑に包まれていた食事会は、一瞬にして命を懸けた戦場へと様変わりした。
俺は談話室を後にして、すぐさま部屋に戻った。
いつもの機械剣を腰に刺す。そして部屋の一角に置かれた、紺色の武器を見やった。
乗船前にデンドロビウムから「完成したー!」と言って手渡された新たな武器。
それも左腕に装着して、看板へと走って向かった。
みなさま、どうも&初めまして。
みゃ~むら、でございます。
お読みいただき誠にありがとうございました。
感想、レビューお待ちしております!
さようなら7月。ウェルカム8月。
フォーエバー7月…。
ん…?
今年ってもう5か月しかないってどういうことですか?
私の2026年どこ行った?
持ってかれたぁぁぁあ!
時間を再錬成しようとしたら、俺の7月、持ってかれました。




