早朝の道標 sideアレン(part12)
時間はすでに早朝。
俺は口から漏れ出そうになる欠伸をなんとか噛み殺しながら、機械国のセントラルタワー内に伸びる無機質な金属の廊下を歩いていた。
今日の予定は、午後からの最終ブリーフィング以外には特に組み込まれていない。昨日、夕方までぶっ続けで行われた激しい戦闘訓練のせいで、身体の節々がまだ悲鳴を上げている。筋肉が軋むような鈍い痛みに思わず顔をしかめつつ、俺は重い足取りを進めた。
(容赦なかったなぁ、ちょっとは強くなれた気もするけれど)
明日の早朝にはいよいよ出発ということもあり、上層部からは「今日は激しい運動は控え、軽い身体の調整にとどめるように」と通達されていた。
やることが無いため部屋でストレッチでもしようかと考えていたところだった。
――それなのに、だ。
俺はデンドロビウムさんに文字通り早朝から叩き起こされ、昨日立ち寄らせてもらった彼女のラボへと呼び出されたのだった。
どうやら、昨日頼んだばかりである新しい兵装の「仮組み」ができたため、一度確かめてほしいとのことらしい。
朝早くから叩き起こされたことには少しばかり苛立ちを覚えたが、それにしても彼女の仕事の速さには目を見張るものがあった。こちらは様々な無理難題をお願いしている立場なのだ。その認識を改め、感謝しなければならない。
「えーっと……確か、こうやって開けるんだったよな」
昨日、エデンさんが見せてくれた動作を目様見真似で思い出し、重厚な金属扉の横にあるセンサーへ手をかざしてみる。すでに俺の生体データは登録されているようだが、果たして――。
「うお、本当に開いた……」
ピピッという短い電子音と共に、滑らかにスライドする自動扉。そのハイテクな操作感に密かな感動を覚えつつ、俺は静まり返った室内へと足を踏み入れた。
昨日の状況と全く変わっていない、雑多にパーツが散らばった部屋が俺を迎えてくれる。
「アレンです。失礼します」
「お、来たね! おっはよ〜! 朝早くから呼び出しちゃって悪いね〜」
「てへぺろ」とでも言いたげに、相変わらず機械らしからぬお茶目な仕草でデンドロビウムさんが出迎えてくれた。休むことなく稼働し続けているはずなのに、そのエネルギッシュな様子には頭が下がるばかりだ。
「内容は先ほど通信で聞きましたけど……もう出来上がったんですか?」
「仮組みだけどね! シミュレーションで済ませちゃっても良かったんだけどさ、実戦でいきなりぶっつけ本番ってのもどうかと思ったからさ。やっぱり、実際に装着してもらった方がいいデータも取れるしね!」
「理屈は理解できますが、どうしてもこんなに朝早くじゃないと駄目だったんですか?」
「ん? 午後からはブリーフィングだし、明日の早朝には出発でしょ? 時間的には今がベストタイミング!」
彼女は快活に笑いながら、部屋の奥へと手招きした。
「これ、ですか……?」
「そうだよ〜。急いで形にしたから、見た目が無骨でシンプルなのは許してね」
部屋の奥にある作業台。その中央に鎮座していたのは、内部機構があちこち剥き出しになった、濃紺の細長い長方形のデバイスだった。長さや大きさは、俺の引き締まった前腕部より一回り小さいくらいだろうか。
装甲の隙間から緑色に煌めくラインや、六角形の幾何学模様が覗いているのは、魔素の伝導回路か何かだろう。
まだまだ完成途中とのことではあったが、素人目にはすでにほとんど組み上がっているように見えた。周囲のデスクには、最終調整を待っているのか無数の配線や精密部品が散乱している。
俺が勝手に想像していたような、分かりやすい「刀剣」や「銃」といった形状をしていなかったことに、内心で小さく驚いていた。
「ちょっと簡単なテストをしたいからさ、早速装着してみよっか」
「はい……お願いします」
呆然と立ち尽くす俺を置き去りにしたまま、デンドロビウムさんは手際よく作業を進める。
彼女はその無骨な機構をひょいと軽い手つきで持ち上げると、俺の左腕へとあてがった。だが、そのデバイスにはベルトや留め具の類が一切見当たらない。
どうやって固定するのだろう、と不思議に思った刹那――。
「うわっ!?」
カシュカシュッ、と小気味いい金属音を立てて機構が突如として生き物のように変形し、俺の前腕へと衣服の上から勢いよく巻き付いてきた。
「ごめんごめん、驚かせちゃった? 締め付けがキツかったり、重すぎたりしない?」
「だ、大丈夫です……」
驚いた。これだけの金属塊を腕に纏っているというのに、不快な圧迫感も違和感もほとんどない。肌に触れる内装面が、俺の腕の形状に合わせて微細に硬度を変えているのが分かった。
「うん、じゃあ腕を色々動かしてみて」
促されるまま左腕を上下左右に振ってみる。見た目の重厚さに反して、想像を遥かに超えるほど軽くて動かしやすい。確かに多少の重量は感じるものの、これなら実戦の激しい立ち回りでも全く支障はなさそうだった。
だが一体、このただの細長い箱のような機構に、どういったギミックが仕込まれているというのだろう。
「ふっふーん、何が何だかって顔をしてるね。じゃ、百聞は一見に如かず! 早速動かしてみよっか」
デンドロビウムさんが奥の重厚な扉を開けると、そこは昨日の広大な訓練室に比べればかなり手狭な部屋だった。
しかし、衝撃を吸収する特殊な壁素材やホログラムの照射装置などの雰囲気は変わらない。ただ唯一違ったのは、ここには試行錯誤の残骸である金属片や失敗パーツがあちこちに転がっていることだった。
「あはは、ここでも色々と弄ってると、片付ける時間すら惜しくなっちゃってさ」
彼女はどこか照れくさそうに、ぶかぶかの袖の手で頭を掻いた。ニヘラと気まずそうに笑うその姿は、まるで悪戯が見つかった少女のようで、年相応の人間らしさを感じさせる。
だが裏を返せば、それだけ彼女が膨大な試行錯誤と失敗を重ねて、この技術を築き上げてきたということの証左でもあった。
「意外です。デンドロビウムさんなら、頭に浮かんだアイデアをパパッと一瞬で作っちゃうのかと思っていました」
「そういう時もあるけどねぇ。やっぱり実際に形にしてみると、どこかで計算の合わないエラーが出たりするものなんだよ」
「例えば……これが突然、爆発したりとか?」
俺は左腕に装着された濃紺の機構を指差して、少し引きつった笑みを浮かべた。完全無欠に見える機械の彼らも人間のように失敗するのだと知って、どこか親近感を覚える反面、少々命の危険を感じてしまう。
「あはは! 私で何回か事前起動テストはしてるから爆発はしないよ、だいじょ〜ぶ! じゃ、早速起動させてみて」
彼女はグッと親指を立てて、俺に向かってパチンとウインクしてみせた。
起動を促されたものの、デバイスの表面をどれだけ見回しても、スイッチやレバーの類は見当たらない。
「違うよ〜、目で見えるスイッチはないよ。――その腕に、ぐっと力を入れてみて」
「力……? おお……っ」
俺は言われた通り、左手で軽く握り拳を作るようにして前腕の筋肉に力を込めてみた。
すると、ウゥン……と地響きのような低い駆動音が唸りを上げ、デバイスの隙間から鮮やかなエメラルドグリーンの光が煌めいた。内部の精密機構が激しく駆動しているのか、心地よい細かな振動が俺の肌に伝わってくる。まだ外殻の装甲がすべて付いていないためか、純度の高い人工魔素の粒子が、淡い光の尾を引いて隙間から少しだけ漏れ出ていた。
行き場を失った魔素の光は、俺の周囲をフワフワと数秒ほど漂ったのち、空間へと溶けるように消えていく。
これは、ピピやエデンさん、セシルたちの高出力な武器の起動時に何度も目にしてきた現象だった。まさか、自分自身が同じような体験を味わえるなんて夢にも思っていなかった。
俺が今まで使ってきた支給品の機械剣では、こんな現象は起きない。自分の身体の一部が強大なエネルギーへと直結したかのような、体の内側から湧き上がってくる確かな高揚感に、俺の胸はドクドクと高鳴った。
「うんうん、起動波形は問題なし! 基準値も一発クリアで一安心だね」
「それで……結局これは何なんですか? シールドか何かの防御兵装ですか?」
「もちろん、シールド機構もあるよ。よし、じゃあ試してみよっか」
デンドロビウムさんはそう言うと、ブカブカの袖の先から、いつの間にか中型のブラスターを構えていた。
ニヤッと不敵な笑みを浮かべた彼女の手によって、黒い銃口が真っ直ぐに俺の鼻先へと向けられる。
「ほらー、撃つよ〜!」
「え……っ!?」
「避けちゃダメだからね!」
次の瞬間、彼女は容赦なく光弾の引き金を引いた。
水色の高エネルギー弾が無差別に幾つも放たれ、眼前に迫ってきた――。
どうも&初めまして。
みゃ~むら、です!
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました。
感想、レビュー等お待ちしております。
っく~、久しぶりのアレン回です。
でも久しぶりにアレンサイド書いたから、最初書き方わかんなかったっぴ…。
あと、最近ずっと投稿時間悩んでます。安定しなくて申し訳ない。
次回もよろしくです。




