秘策 sideラグナ(part23)
「ウッソ……でしょ~~!」
今まで経験したことがない三次元的な速度で振り回され、一瞬で胃の中がかき混ぜられるような強烈なGに襲われる。視界は上下左右が激しく回り、ただでさえ悪かった平衡感覚は完全に消失した。
「くっ、届かない…ウプッ」
足に絡みついたぬらぬらとする肉塊を切り裂こうと剣を振るおうとしても、天地の感覚すら掴めない。今はただ、手に持った細剣を遠心力で手放さないように、指が白くなるほどグリップに食い込ませるだけで精一杯だった。
だが激しく、容赦のない無慈悲な動きで気持ちが悪くなる。
「ラグナ!」
どこか遥か下方から響いた、鋭く凛とした声。それと同時に、視界の端で銀色の鋭い閃光が走った。
驚異的な跳躍力で天高く舞い上がっていたノエが、その愛用の大斧を豪快に一閃し、私を捕らえて振り回していた巨大な足を、一刀両断に切り裂いていたのだ。
私は拘束から解き放たれ、重力に従って落下し、運良く甲板の上のロープの山へと叩きつけられるようにして不時着した。
「あうっ!」
私のすぐ隣に、切断された巨大な蛸足の先端部分も行き場を失ってドサリと甲板へと落下した。断面から黒い魔素の霧を盛大に吹き散らしながら、船の上でビチビチと、まるで陸に上げられた深海魚のように狂ったようにのたうち回る。ただでさえ丸太のように太い足だ。その暴れ回る質量だけでドタバタと大きな音を立てていたが、やがて力尽きたように動きを止め、そのまま黒い霧となって空気中に霧散していった。
ノエは重厚な大斧を構え直したまま、重力を感じさせない竜人族特有の流れるような動作で私の目の前に着地した。その表情には、戦闘中とは思えないほどの冷静さが張り付いている。
「ごほ、ゴホッ……た、助かったわ……ノエ」
「ラグナ、行けますか?」
「な、何とかね……まだやれるわ」
ノエの差し伸べてくれた強靭な手を掴み、引っ張られるようにして私は何とか立ち上がる。だが、ノエの言葉に促されて前方に視線を戻した瞬間、私は驚愕のあまり言葉を失った。
ノエが今しがた両断したはずの、海から伸びる足の切断面。そこから、早くも新しい生々しい肉芽がニョキニョキと不気味な音を立てて急速に生え始めてきているのだ。
(なんて驚異的な再生速度……これじゃ、いくら切ってもキリがないじゃない!)
だが、驚いている暇など一瞬たりとも与えられない。海からの絶え間ない次の一撃が、早くも鎌首をもたげていた。私たちはすぐさま、息を整える間もなく迎撃態勢に入った。
今まで地上で対面してきた有象無象の魔物とは、明らかに格が違うことが、肌を刺すピリピリとした魔素の圧迫感から嫌というほど伝わってくる。岩のように強靭な吸盤の硬さ、海という圧倒的なホームグラウンドを活かした数、そして常軌を逸した自己再生能力。間違いなく、この過酷な海域の頂点に君臨する極悪な魔獣の類だ。
「でも、うみにもぐるわけにも、いかないぞ!」
群がる異形の眷属を、強烈な回し蹴りで海へと蹴り飛ばしながら、少し離れた場所でポポロが叫ぶ。
それは当然だった。この雑魚どもはさっきから海から這い出るようにして、次から次へと船体をよじ登ってきている。つまり、この近海そのものがこいつらの巣窟であり、黒い魔素の温床になっているのだ。そんな底の知れない濁流の中へわざわざ飛び込もうとする命知らずなど、ここには一人もいない。船の上で決着をつけるしかないのだ。
「ザビーネさん!! こんなとんでもない化け物がいるなんて、事前に聞いてないわよ!」
私は迫り来る眷属の胸元を細剣で正確に突き殺しながら、激しい焦りと共に、中央で舵輪を死守していたザビーネに声を張り上げて文句をぶつけた。
当のザビーネの足元には、彼女の能力なのか異形の魔人は石化し、活動を停止させられた哀れな灰色のアートが何体も転がっていた。
「ウミボウズなんてのが出てきたぐらいだ! その眷属か、よくわからない魔物の親玉が出てきたって不思議じゃないさね! 四の五の言わずに手を動かしな!」
ザビーネはキセルを咥えたまま、その鋭い瞳を怪しく光らせ、迫り来る魔人たちを次々と見つめるだけで石化させていく。ゴトン、ゴトン、と先ほどまでウネウネと活動していた生命体が、一瞬にして意思を持たないただの無機質な灰色に変色し、甲板へと転がり落ちて砕けていく。その様は恐ろしくもあり、頼もしくもあった。
「相変わらず、とんでもない能力ですね……」
迫り来る蛸足を大斧の腹で受け流し、捌きながら、ノエが感嘆の声を漏らす。するとザビーネはキセルを咥え直して軽く溜息をついた。
「ちょいと。感心してる暇があるなら、もうちょっと私を優しく守ってくれてもいいんじゃないのかい? 全員を固めるのなんて不可能だからね」
ザビーネはジト目で首を傾げながらも、接近してきた魔人を鋭いローキックで海へと叩き落とす。どうやら、まだ軽口を叩く余裕だけはあるらしい。
「重々承知していますよ。それに船体に取り憑いている足をこれ以上放置すれば、間違いなくこの船はへし折られます。本体を引きずり出すか、一網打尽にするしか……」
ノエの冷徹な分析に、ポポロが自身のナタを構え直して割り込んできた。
「なら、ザビーネはおれが、まもろう!」
眷属をナタで一閃したポポロが、タタッと小さな足音を立ててザビーネの前に駆け寄り、盾のようにはだかった。
「おチビちゃんがかい?」
「おう。さすがのおれでも、あのでっかいあしには、ぱわーぶそくだ。とめるにはノエとラグナがひつようだぞ。おれがここでザビーネをまもる」
「確かに、そりゃ理にかなっているねぇ」
ザビーネがニヤリと不敵に笑う。その細い瞳の奥に、冷徹な魔力の光が凝縮されていくのが見えた。
「……決まりですね」
ノエが頷く。
「わかった、合わせるわ」
私もそれに続いた。
今、船体に直接しがみついて締め上げている巨大な足は三本ほど。二本はメインマストの帆に絡みつき、一本は船体の左舷側面をギリギリと圧迫している。だが、海面のあちこちからウネウネと不気味に突き立ち、船を取り囲んでいる触手は、ざっと見ても十本は下らないだろう。
「周りを取り囲んでいる邪魔な足は、こっちがまとめて引き受けるよ」
舵輪を握るザビーネから、意外な提案が投げかけられた。十本以上の巨大な足を、彼女一人でどうにかするというのだ。だが、その声音には確かな算段と、強者の余裕が含まれている。
「何か秘策があるの?」
「あぁ、それもとびっきりのやつがね」
「ではお願いします」
「と、言うことだ。おチビちゃん、すまないけどちょいと私に時間を稼いでおくれ。最高の魔法を練り上げるからね」
「なにか、すごいやつがあるんだな! じゃあまかせろ!」
ポポロの頼もしい叫びを背に受けながら、私とノエは船首から一番近くの、メインマストに取り憑いている二本の巨大な蛸足めがけて疾駆した。
どうも&初めまして!
みゃ~むら、です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました!
感想などお待ちしております!
いや~3連休ですね、3連休!
この言葉だけで心が躍り出しそうですね。皆様はどこかにお出かけする予定などおありでしょうか。
ある友人はプチ旅行でお泊まりすると言っていました。いいね。
こう言う時に美味しいもの食べに行ったり、何かアクティビティに精を出せる方、尊敬です。
だってすごくないですか。移動する時間だったり、もちろん出費が増えたりと。
そう言うのも、既に高級志向品なのかな…。悲しいね。
自分には予定がないです!暑いので!
家で多分ゲームやら執筆に集中できたらなぁと思っております。
おそらく、と言うか多分3連休は二話ずつ掲載しようかなぁと考えております。お楽しみに。
また次回、お会いしましょう。
ちなみに2話掲載の時はどちらか片方のあとがきけっこーテキトーに書くと思います笑




