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すべての生きとし生けるモノ達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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布告 sideラグナ(part21)

「何よそれ……っ! そんな下らない理由なわけ!?」


激昂した私の声が、何もない白い空間に虚しく響き渡る。

「そうよ?あなたの期待するような、もっと大それた理由じゃなくて悪かったわね」

コスモは悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑う。本当にイラついてくる。奥歯がきりきりと不快な音を立てて噛み締められ、爪が手のひらに食い込んで血が滲みそうだった。


「その『楽しい』とかいうあんたの一時の感情のせいで、今の私たちがどれだけ理不尽な巻き添えを食らって、地獄を見てると思っているのよ!」

「あら」


私が血走った目で今にも掴みかからんばかりに睨みつけているのとは対照的に、コスモは水面に浮かぶ木の葉のように、ゆったりと落ち着いた様子で余裕を見せている。その埋めようのない温度差が、さらに私の神経を逆撫でした。私は我慢できずに、彼女の過去の失態を突きつける。

「貴方だって、自分が作ったヤツらに裏切られて、都市も滅ぼされて、千年の間ただの剣として暗闇の中で眠らされていたんじゃないの!? 少しは反省でもしたらどうなのよ!」

「喜ばしい事じゃない」

コスモは事も無げに言いはなつ。

一体全体、どこに喜ぶポイントがあると言うのか。

目の前の白髪との感覚が違いすぎて、頭が爆発しそうだ。


「私の思い通りに動く、忠実なだけの子を生み出したって、ちっとも面白くないじゃない? 変化も刺激もない、ただ私を崇めるだけの世界なんて、退屈で死んでしまいそうだわ」


コスモはぐいっと、重力を無視してこちらの足元を滑るようにして距離を詰めてきた。至近距離での覗き込むような上目遣い。その澄み切った瞳は、こちらの魂の最奥、最も隠しておきたい暗部まで容易に見透かしてくるかのようだった。私はその射すような直視に耐えかね、思わず目線を横へと逸らしてしまった。そんな私の敗北をなぞるように、彼女の言葉が続く。


「面白くない……? あんたが魔人なんて生み出さなければ、こんな狂った世界にはなってない! みんなが平和で、幸せに生きていけたんじゃないの!?」

「平和、ね」

私の言葉を反芻し、どこかおかしそうにクスクスと、鈴を転がすような声でコスモは笑う。その笑い声が、私の胸を深く抉った。


「けれど、あなた自身は、その『平和に生きる道』とやらを選ばなかったでしょう?」

「はぁ…!?」


意味がわからなかった。

同じ言葉を話し、同じ空間にいるはずなのに、まるで最初から次元の異なる対話をしているかのような深い拒絶感と断絶。


「だって、少なくとも今のあなたは、対話ではなく『剣』を手に取った。それが答えじゃない?」

「……っ!? だってそれは、あいつらが先に、私の大切なものを全部、踏みにじって奪っていったからよ……っ!」


言葉に詰まる私の動揺を、まるで子供の他愛ない駄々を眺めて楽しむかのように、コスモは再び唇の端を吊り上げて微笑んだ。そして、私の周囲をゆっくりと、獲物を値踏みする肉食獣のように歩き回る。衣服の擦れる音さえしないその歩みが、心理的な圧迫感となって私にのしかかる。

「貴方はその胸の憎悪に身を任せて剣を取り、着実に力をつけていっている。今、まさに鬼島へ向かっているのも、鬼族を助けにいこうという高潔な目的のためじゃない。……ただ魔人を殺したい、あいつらをこの手で八つ裂きにして、その返り血を浴びたいという、昏く黒き感情に突き動かされているだけよ」

耳を塞ぎたくなるような言葉が、容赦なく私の鼓膜へと注ぎ込まれる。あいつらにすべてを奪われた、あの日――。


「その憎悪の炎を綺麗に捨て去って、どこか静かな土地で土でも耕しながら、平和に生きる道を模索することだって、できたはずじゃない? それこそ、大人しく人間領に戻れば、かつての悲劇の被害者としてきちんと保護もして貰えたでしょうに」


あの紅蓮の炎に包まれた悲劇の中。

優しい人たちが全員、無残に肉塊に変えられ死に絶えた中で、自分だけがのうのうと生き残って、幸せになる道なんて選べるわけがない。

そんな都合の良い忘却、私の魂が許すはずがなかった。


「まるで復讐という甘美な衝動に囚われた、ただの人形ね」


コスモの澄んだ声が脳裏に響くたび、私の視界はぐるぐると激しく回り始めた。

船上で、ギラギラと不気味に輝く海を見たときと同じように、心の底がぐらぐらと激しく揺らぐ。

強烈な吐き気と頭痛。激しい動悸がドクドクと耳の奥で鳴り響き、視界が急速に狭まっていく。


「あなたの言うとおり、私はこの世界を作って魔人を生み出した。もちろん、人間や、他のすべての種もね」


脳裏に、あの忌まわしい光景が何度も、何度も、容赦なく鮮明にフラッシュバックする。

真っ赤に燃え上がる海上で、為す術もなく悲鳴を上げて沈みゆく一隻の船。

瓦解し、轟音と共に崩れゆく、慣れ親しんだ美しい街並み。

火の粉を散らして黒焦げに燃え落つる、大好きだった林檎の樹々。


「種も価値観も違う、皆が手を取り合い、幸せに生きていく世界を、私は望んだのよ。それこそに意味があると思ったから」


そして――私によくしてくれた、温かかった人たちの、見るも無惨な変わり果てた姿。


「それは『今でも』私の理想の世界」


目の前で、氷の塵となって私の指の隙間から崩れ消えていく――レミィの笑顔。


「う、あ……っ……う、あ……っ!」


限界だった。

私は膝から完全に力が抜け、その真っ白な床にぺたんと力なく座り込んでしまった。激しい呼吸のせいで過呼吸になりかけ、胸をかきむしる。今はプライドを保つことすら、目の前の神を睨みつける余裕すら残されていなかった。


視界の端で、コスモは私の正面に静かに立ち尽くしていた。

そのまま、折れそうなほど細い膝を折って私の目の前にしゃがみ込み、床に伏せる私の顔へと、すっと白い手を伸ばしてくる。

そして、私の右頬に刻まれた、あの日以来消えることのない忌まわしい古傷を、冷たい指の腹でそっと愛おしそうに撫でた。その指先は、凍りつくように冷たかった。

「フフフ。せっかくの可愛いお顔に、こんな醜い傷まで遺して。そんなに……過去が忘れられないのね」

「うっさい……ッ! ――今はただの、剣のくせに。あんたの言う言葉なんて所詮、今となっては到底叶わない、ただの都合のいい理想論よ……っ」

目頭が熱くなり、堪えきれなくなった大粒の涙がポロポロと白い床にこぼれ落ちて、静かに吸い込まれて消えていく。けれど、目の前の少女は、その涙すらも奇妙な果実の成熟を楽しむかのように、じっと私を見つめ続けていた。

「ええ、貴方の言う通りね。それは既に、遠く過ぎ去ってしまった理想かもしれない。だけれど……」

「……」



「私はね、私の理想と『同じ志』を持ち、この世界のために立ち上がろうとするモノ達を、どこかでずっと待っている。それこそ己の意志で、ね」



どこか遠くを見るような、物憂げな表情で語った。だが私にとって、そんな実体のない理想論は何の薬にも、救いにもならない。

「だったら……」

言葉を強く、血が出るほど唇を噛み締めて搾り出す。

ただ黙って、コスモは私の次の言葉を待っている。諦念を突き破る、新しい何かに期待するかのような、微かな輝きを瞳に宿して。



「だったら、その下らない理想を壊してあげるわ……あんたが作ったこの世界も、何もかも。運命だとか千年前からの歴史だとか、そんなの知っちゃこっちゃない!これは私の戦い…。 あんたの持っているすべての力も使って……。この不条理な因縁のすべてに、私が終止符を打ってあげる」



「……へぇ」

どこか感心したような、驚嘆を見せるコスモの声が遠のき、周囲の白い視界が急速にぼやけ、歪んでいく。

「なら貴方の復讐や破壊が先か、それとも、私の願いが誰かの手によって実現するのが先か……」

目の前にいるはずの少女の顔でさえ、歪んだ光に溶けて見えなくなっていく。

「力は貸してあげるわ。死なないように、精々足掻いてみせることね」

その冷ややかな囁きを最後に、私の意識は本格的に、真っ白な光の中へとホワイトアウトしていった。

どうも&初めまして。

みゃ~むら、です。

お読みいただきありがとうございました。

感想コメント等、お待ちしております!


今日は頑張って二本上げてみました。

朝に一本、夕方に一本してみたのですが結構大変ですね。。。

自分は決して筆が早い方ではないので、かなりきついかも…?

三連休は頑張って二本ずつ投稿したいなぁ、と思いつつ。

また、次回お会いしましょう~。

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