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すべての生きとし生けるモノ達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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灼宴 side ラグナ(Part18)

「しっかし、あんたらも中々に大変な旅路だねぇ」

「ほっといて……。というか、なんでザビーネさんまでここにいるのよ……」

「いいではないですか、ラグナ。ここまで話がスムーズに進んだのは彼女のおかげなのですから」

「たすかったぞ~!」


私たちがいるのは、港町でも一、二を争うほどの広さを誇る大衆食堂だ。

一歩足を踏み入れれば、そこはもう、怒号に近い注文の声と皿の擦れる音が渦巻く喧騒のるつぼ。

決して涼みやすく、落ち着いて長居できるような場所ではないけれど、街の持つ剥き出しの活気がそのままこの空間に凝縮されたかのようだった。


私たちは出発前に食事をとることにした。

何せ朝から、露店で買った串焼きを数本食べたっきりだ。ルハンとの息詰まる交渉や、船着き場の役人たちとの細かい手続きに追われ通しだった。それらの厄介な手続きをようやく終え、大急ぎで宿に荷物を取りに戻ってから、最後の腹ごしらえ――というわけだ。


外のじりじりとした太陽に炙られながら移動した身には、石造りの熱がこもった店内は少々応えるものがあったけれど、店員が運んできた冷えたヤシのジュースが、干からびかけていた身体に一気に潤いを取り戻させてくれた。

喉を鳴らして流し込むたび、火照った内臓の熱がすうっと引いていくのがわかる。


「ルハンの所でも上手いことはぐらかしていたけれど……どうして物騒な状態の鬼島<オニカド>なんかに行きたいんだい? ただの観光ってわけでもないだろう?」

向かいの席に腰掛けるザビーネが、細いキセルからふうっと紫煙を揺らしながら問いかけてくる。

「……言わなきゃダメ?」

「古来より鎖国の鬼島で、今は誰も近づきやしない。その上、黒い魔素の発生だ。明らかにただ事じゃない状況の場所に、わざわざ自分から首を突っ込むんだ。……ま、私だってもう船の手配を手伝った立派な関係者だろ? その理由くらい、聞かせてくれてもいいんじゃないかい」

少なからず、今日一日の彼女への恩義は感じている。ザビーネの助力がなければ、船の手配だってここまでトントン拍子にはいかなかっただろう。

そう言われてしまえば、彼女に対して理由を隠し通すのは、筋が通らないのかも知れない。

私がどう答えるべきか、脳内で言葉をこねくり回していると――。


「ラグナは、まじんをたおしたいんだ!」

「ちょ、あんた!? ――何先走って言ってんのよ!」


葛藤を一瞬でぶち切るようにして、ザビーネの隣に座るポポロがにこやかに言い放った。

「へぇ……。こりゃまた変わってるねぇ」

ザビーネはキセルを止め、ポポロを横目に面白そうに目を細めた。

「魔人から身を守るための戦いならまだわかるけれども。わざわざ自分から攻め込みに行くとはね。中々聞いたこともないさね」

「……ほっといて」

「まぁ、大かたあんたのその可愛らしいお顔についた、頬の傷が理由なんだろうけどさ」

そう言いながら、頬を深い緑色をした指でさす。そのままザビーネはちらりと自分の隣に座るノエに視線を移した。

「そう言うことです、ザビーネ。あまり彼女を詮索されないように……」

「わかったよ。むやみに人の過去を掘り返すほど、野暮じゃないさね」

右手をひらひらと振って「これ以上は聞かないよ」とジェスチャーで示すザビーネを見て、私は心の中で深く安堵の息を漏らした。

「しかし、ノエやおちびちゃんまで行くのかい? あんた達、旅の仲間ってわけでもなさそうだけれど」

ザビーネに指摘されてみれば、確かにその通りだ。ノエはディロックスからの半ば無茶振りで、このサハラド鱗皇国を横断するための「生きたガイド」としてアサインされた形に過ぎない。

ポポロに至っては、危険な鬼島についてくる明確な理由すら無いはずだった。まぁ、ただの好奇心だろうけれども、命をかけるほどの場所では無いはずだ。

「そうですね。あの鉄徹たる鎖国国家だった鬼島がどうなっているのか、この目で見てみたくはあります。いわば私も好奇心ですね」

「おれも~! おにのやつらにも、あってみたい!」

「ノリが軽いねぇ、本当に」

(……この二人は、まさか命懸けの観光にでも行くつもりなのだろうか)

思わず頭が痛くなり、私はこめかみを押さえた。


「あんた、ディロックスのオーダーはここでのガイドじゃなかった?ご主人の元に戻らなくていいの?」

隣のノエをキッと睨みつける。

「ディロックスから連絡は来ていませんし、裏を返せばここからは自由行動で良いということでしょう。彼との別行動は、珍しくありません」

「……わかってないの? 今の状況証拠からして、十中八九魔人どもと戦闘になるわよ? それに鬼族が私たちを歓迎してくれるとも限らないって、私、前にも言ったよね……?」

「えぇ、聞きました。けれどもラグナ一人よりは、人数がいればいるだけいいでしょう」

「そうだぞ~、かずはいれば、いるだけいい!」

追い打ちをかけるかのように、ポポロが反芻してくる。

「これ、私の旅なんだけど……」

「でしたら私たちは勝手に着いていくだけですので、どうぞお気になさらないでください」

「……」

すました顔のまま、端正な横顔を可笑しそうにくすくすと揺らすノエ。


この二人はよほど暇なのだろうか。出会ったばかりの、それも人間領と機械国では指名手配犯になっている私に、ここまで構う理由が本当にわからない。

「ふふ、ラグナは慕われてるねぇ」

その様子をにやにやと眺めながら、ザビーネがさらにからかってくる。

「何言って……っ!?」


「はいお待たせ! こちら定食四人前に、ワニ肉のから揚げ、羊肉の香草包み焼き! あとトビウオの丸焼きね!」

大きな声で否定しようとした私の言葉は、豚人族<オーク>の女店員の威勢のいい声にかき消された。

先ほどまで四人分のグラスしか載っていなかった寂しいテーブルの上が一気に、暴力的なまでの匂いと色彩で埋め尽くされる。

「話は食事でもしながら聞くさね。まずは頂こうじゃないか。ここの料理はうまいんだよ」

「うお~、うまそうだ!」

「いい香りですね、食欲が刺激されます」

「……頂きます」

四者四様のリアクションを見せながら、私たちは一斉に料理へと手を伸ばした。


大きなトビウオの丸焼きからは香ばしい塩の匂いが立ち上り、羊肉の香草包み焼きは、ナイフを入れた瞬間に砂漠地帯特有のスパイシーな香りが熱い湯気と共に弾ける。

一口運んでみると――驚いたことに、文句なしに美味しかった。

交易が活発な港町ということもあって、水が貴重なため生野菜こそ少なかったけれど、肉や魚の鮮度は抜群だ。長年、この過酷な環境で鱗獣種たちが培ってきた独特の調理法と強めのスパイスは、少しばかり味が濃い気もするが、意外にも人間である私の口にもよく合った。


ポポロもお腹が空いていたのか、小さな口をめいっぱい動かしてガツガツと猛烈な勢いで頬張っている。

「全く、誰も取りはしないから、もっとゆっくり食べなさいよ……」

「あんたたちが鬼島に行くっていうなら止めやしないし、そんな権利もないんだけどさ」

ワニ肉のから揚げを綺麗な所作で咀嚼しつつ、ザビーネが話を元のトーンに戻した。

「一つ、耳に入れておいてほしい情報があるんだよ」

「魔人に関して、でしょうか?」

ノエが耳元に伸びた一房の髪をさらりとかき上げながら、器用に麺類をすすりつつ聞き返す。


「いんや。実は数日前にね、あの鬼島から、一隻の小舟が脱出してきたらしいって情報さね」

『!?』


私とノエの動きが、同時にピタリと止まった。

――脱出?

私の知っている鬼族というのは、とんてもない怪力の持ち主たちの集まりだ。それこそ私など一捻りにされるだろう。だが、そんな屈強な一族の者が、永い間出てくることが無かった。例外はいるが島から脱出してくるなんて、一体向こうで何が起きているというのか。


「……脱出、ですか。それも一隻だけで?」

「モグモグ……。だれが、ゴクッ、のってたんだ?」

「あんたは口の中のものを飲み干してから話しなさい」

忙しないポポロの頭へ、思わずツッコミを入れながら私も耳を傾ける。

「かなり距離があったから、港の連中も詳細はわからなかったらしいけどね。双眼鏡で見る限りじゃ、鬼族の女性だったって話さ」

「救助はしなかったのですか?」

ノエの疑問はもっともだった。もし命からがら島を脱出してきたのなら、真っ先に近くのこの港町へ救助を求めてきそうなものだけれど。

「どうやら、そのまま真っ直ぐ機械領に向かったらしいんだよ」

「機械領……デウステクスに支援を求めた、と?」

「おそらくだけどね」

「あいつらがそう簡単に、他種族に手を貸すのかしら……」

もぐもぐと羊肉を咀嚼しながら、冷徹に推察を続ける。遥か昔から人との協力体制は在れど、他種族との交流はほとんど聞いたことがない。もちろん観光客や商人などの往来はあるが、国を挙げての協力は無かったはずだ。

「ま、あいつらがどういうジャッジを下すかは分からないけれど。最悪のケースを想定していた方が良いって事さね」

「……つまり、どういうことだ?」

ポポロは大皿のから揚げに手を伸ばしつつ、ザビーネに問いかけた。

「鬼島で鉢合わせるのは、鬼や魔人だけじゃない可能性がある、ってことさね」

彼女の頭部から何匹も伸びている蛇たちも、心なしか真剣な面持ちでこちらを凝視している。


助けを求められただけでそう簡単に機械国が動くとは思えない。

それに、同盟である人間領の領土だって、今やその三割近くが黒き魔素に汚染されて手遅れな状態だと聞く。自分たちのことで精一杯の連中が、他人のために動く余裕などあるのだろうか。


しかしもしザビーネの言う通り事が進み、連中と狭い鬼島で鉢合わせたら、面倒なことになるのは想像に難くない。何より、私は――。

「ノエから聞いたけど、あんた、人間族の領域じゃ『指名手配犯』なんだってね?」

ピキ、と私の動きが再び硬直する。

「……まぁね。何、今ここで捕まえる?」

「気を悪くさせたなら謝るさね。そんなつもりはないよ。あいつらと同盟を結んでいる訳でもないし。それに、たった数時間だけの付き合いだけど……あんたが悪人じゃないってことくらいは、肌でわかるさね」

「なんでよ……」

私は手元に置かれた包み焼きを突っつきながら、怪訝な気持ちで聞き返した。

「職業柄、様々な奴らを見てきたからねぇ。小さな子供から、とんでもない極悪人まで相手にしてきたのさ。そういう手合いの『匂い』には、人一倍敏感でね」

「あっそ」


鱗獣種特有の野生の勘なのか、それとも彼女自身の経験によるものか。自慢げに胸を張る彼女に、私は小さく息を吐いた。

「ラグナはわるいやつじゃ、ないぞ!」

「そうだねぇ」

「あんたまで……」

口の中の食べ物を咀嚼しながら、当然のように言ってのける隣のポポロの頭を、ザビーネは愛おしさを込めて撫で回した。


「けどさ、あんたが現地に行って、魔人たちをどうこうできるのかい? 言っちゃ悪いが、人間族はこの世界じゃ、身体能力的に一番『弱い』部類だろう?」

至極真っ当で、残酷なまでの正論。

事実、素の私の力では目の前のノエやザビーネはおろか、ポポロにさえ勝てないだろう。それほどまでに、この世界における他種族と人間の能力差は絶対的だ。

しかも脱出の目撃情報を加味するならば、あの屈強な鬼族の島が、すでに魔人によって蹂躙されている可能性すら高い。そんな化け物たちを相手に、ただの人間である私が太刀打ちできるのか、ザビーネはそれを確認したいのだろう。


「ラグナの腕の良さは、この私が保証しますよ」


豪勢に箸を進めていたノエが器を空にしながら、きっぱりと言い切った。

「私が今まで見てきた中で、彼女は一番強い『人間』だと思います。……それに、将来的には私よりも強くなるかもしれませんしね」

細身のザビーネがそれを聞いて、意外そうに少しばかり目を見開いた。あのプライドの高そうなノエが、人間をそこまで評価するとは思っていなかったのだろう。

「そりゃあ、この目でその戦いを見るのが楽しみになってきたねぇ」

「無理だから。期待しすぎだから…」

私は箸を止め、正面に座る蛇頭の女性をじっと見据える。ザビーネもまた、ふっと箸を置き、手元のグラスに手を伸ばした。その表情は、どこか面白がっているような、妖艶な笑みを湛えている。

「じゃあ、少しは頼りにさせてもらうよ?」

「頼りって、何の話?」


「私も少しばかりではあるけれど、同行させてもらう」

「ゴフッ、ゴフッ…は……!? なんでよ!」


思わぬ申し出に、飲んでいたジュースを吹き出しそうになる。いや、実際驚きのあまり、せき込んでしまった。

「鎖国国家とはいえ隣国だからねぇ。そこで何が起きているかは知っておきたいし、この国の土地神が魔素に侵された原因もわかるかも知れない」

「また増えたんだけど……!」

困惑する私を尻目に、隣のノエはどこか嬉しそうに表情を緩めていた。

「私は大歓迎です。彼女がいれば、船の操縦は全て任せられますし、戦闘員としても優秀ですから」

「そうなのか!? すごいぞザビーネ!」

ポポロがびっくりしたように、長い耳をぴょこぴょこと跳ねさせて問いかける。

「着いて行くと言っても、あくまで船頭としてだけだよ。船を動かすのにあんた達三人だけじゃ無理だろう? 船でお留守番する人員だって必要なんだからさ」

確かに、船頭は絶対に必要だけれど……。


「ザビーネじゃなくても、その辺の港の人を雇うとかじゃ駄目なの?」

「寂しいことを言うんじゃないよ。忙しいから人員は割けないって、さっき船着き場で言われたばかりだろう?」

「うぐ……」

さっき船着き場で、爬人族<リザードマン>の役人に言われた内容を思い出し、言葉に詰まる。


海の化け物――通称『ウミボウズ』が荒れ狂う外海を渡るため、ルハンの勅命によってそれなりの大きさの中型船を貸してもらえることにはなった。整備や物資の補給も街が持ってくれるらしいが、「実際の運航に関しては自分たちで何とかしろ」と、にべもなく突き放されたのだ。

日々忙しくて人員が足りないというのは勿論だが、いくら町長の命令とはいえ、魔人と戦争中だという噂の鬼島へ行くなど自殺行為に等しい。誰もそんな死地に文字通り「乗りたがる」者などいないのだと、断られてしまったのだ。


「ノエの膂力もなければ、このおちびちゃんの様にすばしっこく動き回れる訳じゃないけどさ、お荷物にはなるつもりはないよ。ま、これは私の『仕事』でもあるからね。お互い利害の一致と思ってくれていいさ。どうしても不満なら、こちらからの公式な依頼ってことにして、褒章金を出してもいいけど?」

「……いや、いいわ。結構」

「そうかい? ま、気が変わったら、いつでも言ってくれて構わないからね」

そう言って、ザビーネは再びもぐもぐと箸を動かし始めた。

ノエもポポロも、それに釣られるようにしてもしゃもしゃと食事を進めていく。

気がつけば、私の不満なんて誰も聞いていやしない。

(それにしても、本当に暑いわね……)

ジリジリと肌を焼くような熱気の中、私の小さな嘆息は、大衆食堂のけたたましい喧騒の中に静かに消えていった。

皆さま、どうも&初めまして!

みゃ~むら、です。

今回もお読みくださり、誠にありがとうございます!

感想、コメントお待ちしております。


今回は一つお知らせがございます。

今週より投稿曜日を火、木、土曜の週三日に変更致します。

ようやく落ち着いたので。。。


気づけばもうかなり暑い季節になっておりました。

お待ちいただいた方々には大変お待たせしました。これからも頑張って投稿していきますでの。


話題と言えば最近、友人の結婚式に行ってまいりました。大変素敵な式でした。

今回式をしたのは高校からの同級生だったわけですが。

こうやってみんな結婚して、それぞれ家庭を持って、子供が生まれたりなんかして。

私の相手なんてしてくれなくなるんだろな~とかメンヘラチックなことを考えておりました。

嘘です。ちゃんと忙しい合間を縫ってみんな私の相手をしてくれています。

優しすぎんだろ。


ここで皆さんに一つ、注意喚起したいことがあります。

もし、日程が合うなら友人知人の冠婚葬祭は出てる方がいいですよ。

確かに祝儀とか遠くにお住まいの場合は移動代で出費は痛いですが、みんなが一堂に会えるタイミングって大人になったら中々ないんですよ。呼ばれるうちが花とも言いますし。

GWやお盆、年末年始でも仕事の人はいますから。

タイミングが合えば、行くことをお勧めします。

自分は今回の結婚式で10年ぶりの同級生に会いました。これだけでも今回出席した価値があると思ってます。


人とは生きているうちにしか会えません。自分も他人も。

後悔が無いように人との良い関係を築いていきたいものですね。


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