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すべての生きとし生けるもの達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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27/33

到着 sideラグナ (Part14)

一休みののち。

ラグナたちは本来の目的地であるはずだった、鱗獣種の港町へと転移させてもらうこととなった。


「わーぷなんて、はじめてきいたぞ!」


ポポロが目を輝かせ、興奮気味に声を弾ませる。先ほどまで爆睡しており、出発のために起こしてもビクともしなかったのが嘘のようだ。


「私も初耳でしたし、体験するのも初めてです。……一体、どの様な感覚なのでしょうね」

ノエも珍しく、少女のように胸を躍らせているのが伝わってくる。


「……ちょっと、酔ったりしないわよね?」

ラグナだけが、少し不安そうに眉をひそめて首をすくめた。


「お主ら、ビビりすぎじゃ。着くのは一瞬じゃが、怖ければ目でもつむっておれ」


三人の前に佇む巨獣は、先ほどまでの刺すような敵意を完全に消し去り、どこか穏やかな眼差しを向けていた。

獣がフッと息を吐き、その巨躯を微かに震わせる。体内で膨大な魔素がチャージされていくのか、その体毛が再び鮮やかなオレンジ色に発光し始めた。

それに呼応するように、ラグナたちの周囲を囲む空気へ、無数の粒子のような魔素がパチパチと飛び交い始める。


「なんか……とらうまに、なってるかも……」


ポポロが小さく身を固くする様に近くに立っていたノエの脚にしがみついた。気持ちは痛いほど分かる。つい先ほど、これと同質の光の爆発が、自分たちの命を奪わんばかりに襲いかかってきたのだから。

だが、肌に触れる光の感触は、先ほどとは全く違っていた。どこか包み込むような、暖かさすら感じる光。


「心配せんでええ、黙って見とれ」


獣はラグナたちの動揺に構うことなく、粛々と魔素を練り上げていく。逆立った体毛から眩い光が溢れ、太い尻尾の切先が激しく明滅を繰り返す。

その神々しくも美しい姿を見つめているうち、ラグナの口から、無意識に言葉が零れ落ちていた。


「あなた、名前は!?」


自分でもなぜそんなことを聞いたのか分からなかった。ただ、この1人寂しくこの神殿で時を待ち続けている獣の名を知らぬまま別れるのが、心のどこかで嫌だった。

光の奔流の中で、獣はふっと目を細めた。

「久しく呼ばれておらんからもう忘かけておったわ。――だが、呼びたければ『ハティ』と呼ぶがいい」

「ハティ……。また……お互い生きていたら、会いましょう?」


ラグナの言葉に、巨獣はフンと鼻を鳴らした。

「ふん、小娘が……。お前たちの旅路が良いものになることを祈っとるぞ…」


その落ち着いた声を最後に、視界がぐにゃりと歪んだ。

世界の輪郭が融解し、上下左右の感覚が消失する。なるほど、確かにこれは生まれて初めての感覚だ。というより、二度と経験したくないほどの不快感が、胃の腑をきりきりと雑に雑に雑にかき混ぜる。

しかし幸いなことに、その悪夢のような不快感は長くは続かなかった。


「……っ、ハァ、ハァ……」


次にラグナが深く息を吸い込んだとき、天井を覆っていた遺跡の鬱蒼とした木漏れ日は消え去り、視界いっぱいに、降るような満天の星空が広がっていた。

ザザ、と足元で崩れる、見慣れた砂の感触。

周りには、転移の名残である橙色の魔素の粒子が、夜風に吹かれて力なく消え失せていくだけだった。ただそれだけが、あの砂中の遺跡にいたことが夢ではなかったという唯一の証明のようだった。


少し先を見遣れば、人工的な街の明かりと思われる松明の炎が、夜の闇の中でいくつも優しく揺らめいているのが見える。それと同時にこの闇夜でも確かに見える遥かな地平線を描いている海がその明かりの先に広がっている。

吹き付ける夜風は驚くほど冷たく、日中のあの肌を焼くような酷暑が、まるで嘘のようだった。


「ようやく、着いたわね……」


ラグナは衣服に入り込んだ砂を軽く払い落としながら、もはや懐かしささえ覚える砂の足場に、安堵の溜息を漏らした。


「本当に、長い長い冒険をしたような気分ですね。さすがに疲れました」

ノエがふぅと息を吐き、肩の力を抜く。

「う〜、まだ、ねむいぞぉ……」

ポポロは目をこすりながら、今にもその場にひっくり返りそうな足取りで歩いている。


「とりあえず、私も一刻も早く休みたいわ……。ノエ、宿は?」

休息を取っていたとはいえ、三人の疲労は既に限界を迎えていた。日中の砂漠越え、遺跡の探索、そしてあの激しい戦闘。おまけに夜もすっかり更けている。満身創痍という言葉がこれほど似合う状況もないだろう。


「出発したタイミングで、予約は事前に取ってあります。少なくとも、野宿ではありませんよ」

「ノエ、ないすだぁ〜……」

「……こればっかりは、素直に褒めざるを得ないわね」


***********************


港町へ近づくにつれ、夜の涼しさに混じって、特有の磯の香りが鼻腔をくすぐった。砂漠の乾燥した空気に混じる、湿った潮風が妙に心地いい。ラグナの鮮やかな赤髪が、風に流されるようにして夜の闇にたなびいていた。


宿の受付には、タバコの煙を揺蕩わせながらワニのような顔を持つ、いかつい亜人種の宿主が座っていた。ノエが手際よく手続きを済ませ、鍵を受け取って部屋へと向かう。


到着したのは、石造りの簡素な、悪く言えばかなり年季の入ったボロ宿だった。

部屋は二人部屋。中央に小さな木のテーブルと年季の入ったソファがあるが、どれもギシギシと悲鳴を上げそうだ。この間泊まらせてもらったバー『ハイドアウト』のベッドといい勝負が出来そうなくらいのボロさだったが、今の自分たちに贅沢を言う資格はない。

簡易的な風呂もあるようだが、湯を沸かす気力すら残っていなかった。


「うおーー、おやすみーー!」

「「え」」


ラグナとノエが荷物を床に置いた瞬間、ポポロが弾かれたように跳んで部屋に二つしかないベッドのうち、一つのど真ん中を占領した。そして、文字通り秒速で泥のような眠りについた。

ただでさえ、決して広くはないシングルサイズのベッドだ。ポポロが大の字で寝てしまえば、もう大人は入れない。残されているのは、それと同じサイズのベッドが一つと、座るだけで沈み込みそうなボロい二人掛けのソファが一つだけ。


「……はぁ」

ラグナは思わず深い溜息を吐いた。まぁ、後で無理やりにでも端へどかせばいいか。

「っていうか、ノエ。こんな所じゃなくても、あなた町長と知り合いなんだったら、もうちょっとマシな宿は無かったわけ?」

自分の愛刀を壁に立てかけながら、ラグナは半分八つ当たりのような文句を口にした。もちろん、宿を確保してくれていたことには感謝しているのだが、疲労のせいでどうにも口が尖ってしまう。


「ないことはないですが、あまり個人的に『恩』を売りたくなかったものですから」

ノエはラグナの毒舌を意に介した様子もなく、淡々と腰のタクティカルベルトを外していった。ポーチや予備の弾倉が擦れ合い、ガチャリと重い金属音が響く。


「そうなの? たとえば……どんな恩よ?」

「昔、熱烈に求婚されたりしましたね」

ノエは至って真面目な顔で、まるで明日の天気のことを話すかのようなトーンで言った。

「はぁ!? ……そんな奴から船なんて借りて大丈夫なの?」

「まぁ、大丈夫でしょう。こちらもそれなりに貸しはありますから。船一隻くらいは、貸してくれるはずです」

「……あなたって、もしかしてモテるの?」

「私というより、私の身体に流れる血の方がモテてますよ」


笑えない様なジョークにノエはふふっと小さく笑うと、日中の戦闘で少し乱れていた艶やかな髪を無造作に解き、今度は邪魔にならないよう後ろで一つに固く束ねた。その仕草の最中、彼女の視線がふと真剣なものに変わる。


「どちらかと言えば、心配すべきは『鬼島オニカド』に着いてからのことでしょう」

「え……?」

「実際、あのディロックスの情報通りかは行ってみないと分かりませんよね。情報通りと仮定して、島に着いてからの展望というか、あなたの計画を聞いておきたいのですが」

「あ、あ〜……」


ラグナは視線を泳がせ、気まずそうに頬を掻いた。

何も考えていない――と正直に答えたら、この生真面目な竜人族の娘は怒り狂うだろうか。正直、これまでの旅は、目の前に現れた敵を行き当たりばったりに叩き切るという、至極単純なことしかしてこなかった。計画性など微塵もない無鉄砲な旅を続けてきた弊害が、ここに来て一気に噴出している。


「……それより、あなたやポポロは、一体どこまでついて来る気なのよ? てっきり船を借りる手配をしたら、あなたの役目は御免なんだと思ってたんだけど」

話を逸らすようにラグナが尋ねると、ノエは束ね終えた髪を軽く揺らし、小首を傾げた。


「ディロックスからは、そこまで細かな指示は受けていませんからね。何か追加の命令があるまでは、基本的にはあなたに同行する予定ですが……。――嫌ですか?」


少しだけ悪戯っぽく、覗き込むようにして尋ねてくるノエ。

「ん〜……。嫌、かも……」

ラグナはわざとらしく顔を背け、生返事をした。

「まぁ、何を言われようとついて行きますが」

「じゃあ、なんで聞いたのよ!?」

「ラグナは少々、単独行動への思い入れが強すぎるきらいがありますから。これくらい多少押しが強い同行者の方が、バランスが良いかと思いまして」

「もう……っ」


師匠以外と旅をした事がなかったし、師匠と別れてからは今まで1人でしか旅をしてこなかったのだ。落ち着かない気持ちも少なからずまだあった。

何も言えないラグナを前に、ノエはふっと口元を綻ばせ、残されたもう一つのベッドを見つめた。


「なんだったら、今夜は一緒に寝ますか? 幸い、ベッドは残り一つしかありませんし」

「んなわけないでしょ!? 私、ソファで寝るから!!」


真っ赤になって怒鳴るラグナの声を子守唄代わりに、ボロ宿の夜は静かに更けていった。

どうも&初めまして

みゃ~むらです。読んでいただき、ありがとうございます。

感想、コメントお待ちしております。


えー早速で申し訳ないのですがやはり毎日投稿は無理そうですのでコミケの作業期間中はですね、水曜と土曜の18時投稿に切り替えようと思います。

やっぱ無理です、イラストも文も同時並行は…。

キッツイ。まぁ私がイラストを描くおててが遅いという致命的な欠点があるからなのですが。

早めにコミケ作業を終わらせて来月の上旬にはなんとか……。


ようやく本腰入れて小説も書いてますし。

やっぱり読んでくださる方もいらっしゃいますから。

頑張っていきたいなと思います。

質はこれまで以上に上げていきたいと思います。

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