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すべての生きとし生けるもの達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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20/33

機械領の戦局 Sideアレン(Part5)

煤けた夜の闇広がる機械領〈デウステクス〉。


普段であれば、車道と歩道を明確に分ける美しい街灯の列がシックな茶塗りのレンガ街を穏やかに照らしているはずのその文明都市に、今はそれにはおよそ似つかわしくない、鼓膜を震わせる爆音と金属音が響き渡っていた。


「一匹残さず、一網打尽だー!」


戦場にはあまりにも不釣り合いな、高めで幼気いたいけな可愛らしい声が轟く。

たった135センチメートルという極小のボディでありながら、誰よりも果敢に最前線を駆ける少女――三機神の一角、デンドロビウムである。

彼女の号令に呼応するように、街中に張り巡らされた防衛システムが自動展開オートメーションし、レンガの道路や建物の外壁から数多の機銃がガシャガシャと音を立てて競り出し、応戦を続けている。

だが、この戦場を支えているのは防衛システムや兵士たちだけではない。

「野郎ども、俺たちのデウステクスを舐めるなよッ!」

「自慢の最新機構ギミック、見せつけてやるサ!」

避難を促されていたはずの一般市民たちまでもが、それぞれの相棒である「義肢」を武器へと変形させ、前線に加わっている。

突如、平和な昼間から始まった強襲に対し、果敢に迎撃を続けて、気がつけば辺りはすっかり暗くなっていた。だが、疲れを知らない両雄の戦いは夜になってもなお、一歩も引くことなく続いている。


つま先から頭のてっぺんまで精密なネジや歯車で埋め尽くされた純粋な機械人の市民たちが、特大の重圧重機を唸らせて魔人たちを吹っ飛ばす。戦場で喪った片腕にゴツく無骨な金属機構を剥き出しにしたライオンの獣人――普段は細工工場で働く職人だ――が、自らの体躯よりも巨大な大槌へと右腕を変形させ、激しく叩きつけた。

ズドォォン! と、ただの破裂では済まないような衝撃音が響き、レンガの床が景気よく爆ぜる。魔人が汚い嗚咽を漏らしながら黒い霧となって霧散する中、獣人は大槌を肩にもたれかけさせ、苦笑い混じりに隣の機械人へ声をかけた。

「おい、攻め込まれてるとはいえ……俺たちまでこんなに景気良く街をぶっ壊していいのかよ? あとが大変だぞ?」

近くの機械人が、迎撃の手を緩めずに軽快に答える。

「大丈夫デス! デンドロビウムさんも言ってたデショウ? 『壊れたらまた造ればいい』ト!」

「ははっ、相変わらず執着がねえなぁ!」

「当然デス。私たち機械人の本能は、いつだって『創る』ことを本懐にしていますカラ!」

腕部の作業用グラインダーを急造ブラスターへと切り替え、強烈なエネルギー弾をお見舞いしながら、機械人の市民はさらりと言ってのける。


この赤茶色の美しい街並みが破壊されていくことに生身の獣人は一瞬の罪悪感を覚えるが、彼らにとって「破壊」は悲劇ではない。生命という概念を持たない彼らにとって、形あるものは「なければまた、より良いものを創ればいい」だけの話なのだ。


「そうそう! その意気!」


前線で一頻り暴れてきたデンドロビウムが、猫のようにシュタッと軽快な動作で彼らの前に着地した。

ガチャガチャと足部の機構が滑らかに格納され、傷一つない綺麗な白色の装甲が現れる。ぱんぱんと、お気に入りのスカートについた砂埃を軽く払った。

その膝の関節部分は剥き出しのボールジョイントで構成されており、彼女の身体が人間ではなく、精巧なギミックの塊であることを無機質に主張していた。


「私たちは今、侵略されてる最中なんだから! 返り血とか跳ね返りに怯えてちゃ、闘いなんてできない! 壊れたら、またいーっぱい創り直せば解決!」

親指を立てて可愛らしくウインクしてみせるが、口にしている内容はとんでもない暴論だ。

「……へっ、わかったよ大将! あんたがそう言うなら思いっきりぶっ壊して、次はもっと頑丈で最高にイカす街をみんなで創らなくちゃなぁ!」

「そうそう! ビルド&スクラップ! 破壊の混沌の中でこそ技術は急速に発達するのだ! えへん!」


ちんちくりんな腰に手を当て、それが自身の座右の銘であるかのように胸を張る。まるで新しいオモチャを自慢する子供のような無邪気さだった。

デンドロビウムの部下たちはその可愛らしいドヤ顔を微笑ましくスルーしながら、テキパキと現場の戦況報告を読み上げる。


「報告します。現在、一般市民を含め前線に重軽傷者は出ていますが、戦死者はゼロ。……ですが、強襲で通信施設が物理的に大破。他の戦場やセントラルタワー、およびヒューメブルグへの緊急連絡が一切行えない状況です」

「あー、それもまた創り直せばいいけど……流石に連絡が途絶えたのは、ちょっとまずかったかな〜? お昼に出発する予定だったお姫様も、あの通り正門が占拠されちゃって出発できなくなっちゃったし」

チラリと闇に包まれた正門を見やる。もはや夜の闇夜なのか、邪悪な魔素に包まれているのか分からないくらいには、昏い渦がそこにはあった。

それに機械国歴史が始まってから有史、攻め込まれたことがなかった為、有事の際の通信施設の予備などは用意していなかった。国内部だけで運用できる緊急回線はあるのだが、それすらも潰されたようで、復旧にはまだ時間がかかりそうだった。

たはは、と頭の後ろで手を組んで苦笑いするデンドロビウム。お茶目な仕草を見せるものの、その黄金色の瞳には焦りの色は微塵もない。むしろ、お気に入りのパズルが難しくなった時のような、好奇心に満ちた笑みさえ浮かべていた。


「他所と連絡取れないのは流石に不便だな。他がどんな状況か分からねぇ」

「んー、それは大丈夫じゃない? ここが一番正門に近いから、敵の物量から見てもここが一番の激戦地のはず!」


デンドロビウムは眼前に装着した観測用の特殊ルーペをクイクイと指でいじりながら、まるで名探偵のような素振りを決めてみせる。その人間そっくりの豊かな感情表現やコミカルな仕草は、他の機械人たちを遥かに圧倒していた。


「何かあれば、どうせギアとエデンが動くでしょ」

「とはいえ、セントラルタワーとも連絡が取れないのは、非常にマズイかと」

「今現在、緊急用の通信回線を接続中です。もう少しだけお時間を……」

「いいよいいよ、急がなくて! 毎日毎日、あっちからあーだこーだ連絡ばっかりで嫌気がさしてたんだから! むしろ解放された気分! あの小うるさいギアから通信が来ないなんて、サイコーの休暇じゃん!」


あはは、と戦場にはおおよそ似合わない、濁りのない屈託のない笑顔で笑いながらダボダボの袖をブンブンと振り回す。

だが、その一時の平穏を切り裂くように、街の正門側の闇から――「ぐぉぉぉぉぉぉッ!」と地響きのような、悍ましい咆哮が鳴り響いた。


全員が一斉に視線を向けた先。

正門の残骸から姿を現したのは、何本あるかも分からない無数の異形の脚を生やした、巨大な胴長生物。肩からは肉厚の不気味な翼が羽ばたき、頭部は邪悪な牛の形をした、およそこの世のものとは思えない醜悪な魔獣だった。

それに呼応するように、夜闇の奥から、再び黒黒とした魔人の大群が津波のように押し寄せてくる。


奔流のごとく攻め込んでくる敵の軍勢を見つめ、デンドロビウムは少しだけ困ったような苦笑いを浮かべた。

それは恐怖や疲労からくるものではなく、ただ純粋に「面倒くさいなぁ」という表情だった。

「まだ来るか〜、お相手さんもなかなか頑張るねぇ。でも、こんなところに攻めてきて、彼らにどんなメリットがあるんだろ?」

「我々の持つ、人工魔素を応用した技術デハ?」

「えー? でも私たちって、本物の魔素を真似っこして模造品を造ってるだけだしな〜。今更あいつらが欲しがるもの、何かあったっけ?」

「大将がわかんねぇなら、俺ら一般市民にわかるわけねえだろ!」

「ん〜、ま、いっか! そういう難しいことを考えるのはギアの領分だしね!」

深く考えるのを放棄するように頭を振ると、デンドロビウムは楽しそうに目を細めた。


「じゃ! あのデカブツは私がやっつけてくるから、周りの雑魚はみんなでよろしくね!」

『了解!!』


皆の力強い怒号と、一斉に開始された銃撃の火線を背に受け、デンドロビウムの小さな身体が地を這うように爆走する。

その瞬間、彼女の背中、そしてだぼだぼの右腕部袖口の中から、ガシャガシャガシャシャッ!! と驚異的な速度で複雑に組み換えを始めた。

ミリ秒単位でパーツがスライドし、極小の身体から、彼女の全高とそう変わらない魔素推進器スラスターと、重火器ポートが瞬時に創り出されていく。それは機械領の技術の粋を集めた、超小型決戦兵器としての姿だった。


――ドゴォォン!!


青白い魔素の爆炎を吹き出し、重力を無視して超高速で空中へと垂直に跳ね上がり、デカブツに向かって急降下。

彼女の接近を阻むべく、周囲の魔人たちから全方位的な魔弾の雨が襲いかかるが、デンドロビウムは頭部のリボン型センサーと特殊ルーペを連動させ、リアルタイムで全ての弾道を計算。弾丸の隙間を縫う「最適ルート」を瞬時に弾き出していた。あえて薄く目を瞑るほどの余裕さえ、今の彼女にはあった。

「そんなんじゃ、かすりもしないよ!」

針の糸を通すような、身体捌きで危なげもなくかわしていく。

そして滞空したデンドロビウムの左袖口から、彼女の頭身ほどもある特大の銃火器を急速展開。

ルーペは即座に照準を動かし、異形のデカブツを捉えた。

小さな身体から放たれたとは到底信じられない、極太の肉厚なレーザーが夜空を貫く。

だが、デカブツは奇声を上げ、小癪にもエネルギー弾に対するシールドを展開してそれを受け止めた。


円形に生成されたシールドはデンドロビウムの放ったビームを確かに防ぎ、主人の身を守った。しかし、周囲への余波は甚大。反射し、大小様々な角度へ屈折したビームの残滓が、周りの有象無象の魔人たちへと容赦なく襲いかかったのだ。激しい衝撃に耐えきれなくなったのか、やがて魔素のシールドはパキンとヒビが入り、音もなく霧散した。

「いいバリアだね~、けど残念」

巨大な牛頭の魔獣も身体の節々からウネウネとした触手を生やし、その先端に凝縮された濃密な魔素ビームをデンドロビウムめがけて一斉に照射した。

「おっと」

撃ち終えた銃火器を瞬時に格納。重力や慣性を無視したジグザグの立体起動で、夜空に青い光のステップを踏みながら、彼女は異形の化け物の懐へと一気に肉薄していく。

閃光が夜の街を焼き尽くさんばかりに炸裂するが、彼女は美しく回転しながらすべての熱線を回避してみせた。

推進力を活かしたままデンドロビウムは身体をコマのように高速回転させながら、難なく巨躯の真下へと滑り込み、死角である懐へと忍び寄る。


「くらえぇぇぇーーー!!」


足のブレードから出力された最大出力の魔素エネルギーが、無慈悲な一閃となって襲いかかる。

全ての脚を一瞬で切り裂かれた衝撃で、巨体を支えきれなくなった魔獣がグラリと傾く。再生を試みようと新たな脚を肉壁から生やそうとするが、デンドロビウムは回転の勢いを微塵も殺さず、すれ違いざまにその巨大な牛頭を、真っ二つへと一刀両断した。

半分に切られたことで形を保てなくなった異形の魔獣は、悲鳴を上げる間もなく、黒い霧となって派手に霧散していく。

「ん〜、案外大したことない? おっきいだけだったなぁ」

近くの二階建ての建物の屋上へと軽やかに着地。

デンドロビウムはフシューと熱を排気させながら、展開していた機構達をガシャガシャと音を立てて背中へと格納し、元のちんまりとした少女の姿に戻る。


そこから戦場全体を見下ろす。物量こそまだまだ黒き魔人たちの方が多いが、市民たちの奮闘と防衛システムの迎撃性能により、戦況は完全に優勢。

夜闇を切り裂く、黒い魔素と青い火線の応酬。破壊の最中にあるその光景が、彼女の目にはどこか、不謹慎にも美しく映っていた。


「……ん~?」


ふと、デンドロビウムは違和感を覚えて視線を落とした。

先ほど倒したはずの、あの巨獣の残骸。……いつもなら即座に消え去るはずの魔獣の肉体が、途中で崩壊を止め、ドロドロとした肉塊のままそこに留まっている。

「――っ!?」

その瞬間、肉塊の節々からにゅっと無数の触手が再び生え変わり、屋上の彼女めがけて容赦のない魔線ビームが照射された。

驚異的な反射神経でかろうじて跳躍したものの、直後に起きた大爆破の烈風に巻き込まれ、デンドロビウムの小さな身体が夜空へと吹き飛ばされる。


(崩壊し始めた魔獣が反撃してきた……!? そんな特性、聞いたことないけどな……っ!)


空中できれいに受け身を取りながら、瞬時に自己診断を実行する。

服の袖が少し燃焼し、爆風によるダメージを受けたものの、その全てが軽微。フレームや関節に問題はない。

彼女は慌てて背中のバーニア機構を展開させ、地上に着陸した。


「 無事デスカ!?」

「びっくりしてちょっと不意打ち喰らっちゃった! でも、どういうこと……? あいつ、死んでないの?」


景気よく返事するが、警戒を強めながら件の残骸へと鋭い視線を向ける。

すると、おぞましく蠢く魔獣の肉塊が内側から裂け、ドロドロとした黒い体液を滴らせながら――そこから、一体の「明確な人影」が、ぬるりと這い出てきた。

そいつは、何がおかしいのか、不敵にそして妖艶に嗤っていた。

みなさま、初めまして&コンニチハ!

みゃ~むらでっす。


とうとう6月になりました!6月と言えば何もない、ただただ面白みのない一週間✖️4つもあるイメージですがみなさまいかがお過ごしでしょうか。今週はどうやら台風が来るらしいですね。いやはや恐ろしい。みなさま自然災害にはお気をつけください。

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