激戦 sideラグナ(part42)
囚われの身である鬼の首領・ラセツは、ただじっと目の前で繰り広げられる死闘の様子を見つめていた。
いや、見つめている、という表現は彼にとって正確ではないかもしれない。
視覚を持たない彼は、全身の肌を鋭く突く魔素の揺らぎで、その異様な光景を『感じ取って』いる。
(どういうことだ……?)
ラセツが抱いた違和感は、挑発的に微笑む女の魔人・メリアでもなければ、ラグナたち上陸者に対するものでもなかった。
無論、ラグナたちの素性については、この窮地を脱したあとにじっくりと問いただす必要があるだろうが、今は非常事態。この囚われている現状を打破できる突破口になるのであれば、多少の不審には目を瞑る腹づもりだった。その程度の人心くらいはラセツにもある。
彼が胸の奥で深々とした疑問を拭えずにいたのは——メリアを庇うように立ち塞がった、全身を強固な漆黒の魔素甲冑で包んだ「もう一体の魔人」に対してだった。
間違いなく、禍々しい魔素を全身から放つ異形の存在。メリアと同種の、人理を外れた化け物であることに違いはない。
だというのに、なぜなのだ。
(この、甲冑の奥底からかすかに漂ってくる……懐かしさは、一体何だ……?)
脳裏を掠める不穏な予感。だが、深く思考を巡らせる余韻など、いまの戦場には残されていなかった。
檻に閉じ込められている彼の悩みを嘲笑うかのように、戦況は刻一刻と苛烈さを増していく。
やがて、囚われの彼の元へ、瓦礫の影を縫うようにして一つの深緑の影がそっと忍び寄りつつあった。
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ガギィィィンッ!! と、戦場に悲鳴のような甲高い金属音が響き渡る。
漆黒の鎧の魔人は、左右から同時に押し寄せていたヤシャとポポロの連携を、圧倒的な腕力と体術で力任せに弾き飛ばした。
「うわぁっ!?」
「くそっ……!!」
二人は真逆の方向へと派手に打ち上げられ、それぞれの方角へと弾かれる。
巧みな連携で攻めていた二人を強引に分断し、個別に撃破する算段へ切り替えたのだ。
空中で体勢を崩したポポロが、無防備なまま後方へ吹き飛ぶ。
本来であれば、この無慈悲とも言える圧倒的な体格差と質量の暴力の前に、一瞬で肉塊に変えられていてもおかしくはない。ポポロは獣人種特有の並外れた身体能力と野性の直感で、奇跡的に直撃を回避し続けていた。
しかし、敵は隙を見逃さない。
鎧の魔人は太い脚に凄まじい脚力を溜め込むと、ポポロを追うようにドッと跳躍。その落下の勢いを余すことなく巨大な大剣に乗せ、上段から一直線に一刀両断の振りを叩き落とした。
ドガァァァンッ!!!
爆辞。まるで巨大な鉄槌で大地を砕いたかのような凶悪な破壊音が炸裂する。
かつて集落の広場だった場所は、もはや原形をとどめぬ巨大なクレーターへと変貌し、濃密な土煙が視界のすべてを覆い尽くした。
だが——その白煙の真っ只中。
寸前で垂直の斬撃を紙一重でかわしたポポロが、勢いそのままに鎧の魔人の太い装甲腕を、獣のごとき素早さで駆け上がっていた。
「!?!?」
驚きながらも鎧の魔人が即座に反応し、左手に漆黒の大太刀を滑り込ませて払い落とそうとする。
しかし、至近距離でのポポロの踏み込みの方が一瞬早かった。
ガギィンッ!!
すれ違いざま、ポポロの全身のバネを乗せた渾身の一撃が、鎧の魔人の兜部分へ強烈に叩き込まれた。
ズシリと重い衝撃波が走り、さしもの巨大な魔人も体勢を大きく後ろへと崩す。
そこへ畳みかけるように、土煙の奥から一本の影が揺らめいた。
ヤシャだ。
「切り刻む……っ!!」
老練なる刀技が疾風のごとく閃き、空気を切り裂く幾重もの赫い弧が描かれる。
文字通り舞っていた土煙でさえも切り裂いて、魔人を襲った。
ガガガガインッ! と連続した硬質音が響き渡り、激しい火花が甲冑の表面を散らす。
連撃の衝撃に耐え切れず、ついに鎧の魔人はその場に踏みとどまり、ドスンと膝をついた。
立ち込める砂埃が風に流され、間一髪で間合いを取ったヤシャとポポロが合流する。
「し、しぶといぞー……っ!!」
ポポロが激しく肩を上下させ、滲む汗を拭いながら苦々しく吐き捨てる。
「ふむ……ワシも長いこと生きておるが、ここまでタフな奴と刃を交えるのは初めてじゃ……」
ヤシャもまた、呼吸を乱しながら刀を構え直す。
体力、速度、膂力、そして洗練された剣術——どれをとっても敵ながら隙が存在しないハイスペックな化け物だ。
膝をついた鎧の魔人は、疲弊する素振りすら見せず、すでに体勢を立て直していた。
そしてまるで何事も無かったかの様に溜めも予備動作もない完全なノーモーションから、左手に握る大太刀を水平に一閃する。
ドッ……シュヴァッ!!
『!?』
二人の間を割るようにして、漆黒の斬撃が走った。
大地の赤土をザクザクと削り取りながら迫るそれは、技量というより純粋な魔素と腕力で無理やり飛ばしてきたような、暴虐そのものの遠距離攻撃だった。
「うおっと!」
ヤシャとポポロは悲鳴のような風切り音を感じながら、再び二手に分かれるように跳躍して回避する。
次に敵が標的に定めたのは、着地の瞬間を狙われたヤシャだった。
(やはり、個別に潰しにかかる気か……っ!!)
眼前へ一瞬で肉薄した巨躯の魔人が、右手に構えた大剣を荒々しく横一文字に振るってくる。
「ふんぬぅぅぁぁッ!!」
ヤシャは太刀を斜めに滑らせ、渾身の力で受け流しを試みる。
重い。骨が軋み、全身の筋肉が悲鳴を上げるほどの凄絶な重圧。軽々とノエの巨躯を吹き飛ばした膂力は伊達ではない。腕の皮膚が裂け、朱い血が滲み出したが、老将は歯を喰いしばって耐え切った。
「おりゃあぁぁッ!!」
その頭上から、空を舞っていたポポロが弾丸のように跳んできた。
口に咥えた重厚なナタに自重を乗せ、敵の胸元——無防備な胴体部分めがけて一直線に突進する。
ガギィィィンッ!!
重く鈍い金属同士の衝突音が激しく空気を震わせる。
鎧の魔人は左手の大太刀で即座に対応しようとしたが、完全な死角からの奇襲を防ぎきれず、ポポロの一撃をまともに胸元へ受けた。
だがポポロの刃と漆黒の甲冑が衝突したものの、敵の巨躯はピクリとも揺るがなかった。
鋭い火花が散り、表面にわずかな引っかき傷が残る程度で、実質的なダメージは通っていない。圧倒的な装甲の硬度だ。
「なっ……!?」
懐に入り込んできた小さなポポロを払い落とすため、鎧の魔人が強烈な裏拳気味の横薙ぎを繰り出す。ポポロは咄嗟に体を丸め、間一髪でその腕を華麗にかわして後方へ離脱した。
間髪いれず、敵がポポロを追撃しようと一歩大きく踏み出した瞬間——
「させんッ!!」
ヤシャの刀から放たれた赫い気刃が大地を奔り、ポポロと鎧の魔人の隙間を切り裂いた。
一直線に伸びた斬撃は、背後にそびえていた廃墟の民家へ直撃。建物は真っ二つに両断され、ガラガラと無惨な大音響を立てて崩れ去った。
その間隙を突いた牽制に警戒したのか、鎧の魔人は追撃を諦め、すっと身を引き間合いを取った。
「はぁ、はぁ……たすかったぞー……っ」
後ろへ跳び退いたポポロに大きな怪我はなかったが、小さな胸を大きく上下させて肩で呼吸している。浅くかすった傷口から、可愛らしい茶色の毛並みが痛々しい朱色に染まっていた。
「なんの……ワシがもう少し若ければ、あれくらいの速さに翻弄されたりはせんのじゃがな……」
ヤシャの鬼の衣装もまた、至る所が切り裂かれ、血が滲んでいた。
「くっそー……かたすぎるぞぉ……!」
ポポロは苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
彼の持ち味は小柄な体躯を活かした瞬発力とスピード勝負だが、あの怪物のような重装甲の前では、決定打を与えることが極めて難しい。
「動きには慣れてきたものの……この硬さでは致命傷まで持ち込むのは至難の業じゃな」
ヤシャが苦々しく太刀を構え直す。
対する鎧の魔人もまた、両手の二刀を滑らかに構え直した。魔人特有の無尽蔵な魔素のせいか、これだけの攻防を繰り広げながら疲労の色すら見せていない。
「やれやれ……これは、えらい貧乏くじを引き当ててしまったのう……」
ヤシャがそうぼやき、覚悟を決めて再び足を踏み出そうとした——まさにその瞬間だった。
目にも留まらぬ、圧倒的な質量の疾風が駆け抜けた。
ドドォンッ!!!
鎧の魔人と同等の巨躯を誇る「竜人種」の女性が、空を裂いて飛び蹴りをその土手っ腹へと一穿ちしたのだ。
メキメキッ、、、ッ! バキバキッ!!
甲冑が激しく歪み砕ける様な、明らかな破壊音が集落跡に響きわたる。
直後、その余波が広場中を駆け巡る。
吹き飛ばされた鎧の魔人は、何重もの瓦礫を突き破って遙か後方へと転がっていった。
もうもうと立ち込める砂煙の中。
先程まで鎧型が立っていた場所には、ノエが静かに佇んでいた。
皆様どうも&初めまして!
みゃ〜むら、と申します。
お読みいただき、ありがとうございました。
感想、レビューお待ちしております。
ちょい前回の投稿から日にちが経ってしまって申し訳ないです。
中々どうして執筆する時間が確保できずにおりました。
ストックはあるにはあるのですがまだまだ確認&編集が出来てなかったのです。
ちゃんと安定して投稿できる様に気をつけます。
でも気づけばトータル100話まで投稿してたのですね。
ちまちまと続けてきた甲斐があります。
今後も皆さんにお手に取ってもらえる様に邁進していきたいなぁと思いつつ。
次回もよろしくです。




