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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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心配

「でも私は冒険者じゃありません。救助隊にレベルは関係ないって思っていますから」

「最近、冒険者たちが増えている。中層に入る者も多くなる。そこから下層に入る者も今後増える。救助隊のレベルが低かったら、誰が助けに行くのさ」

「そ、それは、レベルの高い救助隊の者が……」

「でしょ。良い機会だと思うよ。怖いかもしれないけど、私がいるから大丈夫。絶対に安全だよ。今回のレベル上げ研修は冒険者ギルドだけじゃなくて、救助隊ギルドの力の底上げにもなる」


 ドリミアはヴィミの手をぎゅっと掴み、真っ直ぐ見つめる。押しに押して、強引にでもヴィミをレベル上げの研修に参加させようとしていた。


「わ、わかりました。確かに、レベルが上がれば助けられる人も増えると思いますから……」

「ありがとう。さすが、ウルフィリアギルドの主力だ。じゃあ、明日の朝、出発するから『落とし豚』の前に集合して。一緒に強くなろう」

「は、はい」


 二人の会話を目にしたレオンは胸に手を当てる。息苦しそうにゆっくりと呼吸した。両者のもとに足先が向かない。


 ドリミアは話を付けた後、立ち上がり、食堂を出る。


 レオンは柱の裏に潜んだまま、やり過ごす。その後、柱の裏から出て、ヴィミのもとに向かう。

 彼女の表情が、氷のように固まっていた。彼氏が別の女と寝ていた現場を見つけてしまった時のような顔だった。


「ヴィミ、大丈夫だった? どうしても嫌なら、断ってもよかったんじゃない」

「ちょっと、考え事していただけ」


 ヴィミの鼻がヒクヒクと動く。すると固まっていた表情が余計険しくなった。鋭い視線がレオンに向く。


「レオンから沢山の女のにおいがするんだけど……。なに、キャバクラにでも行って来たの?」

「あ、そ、その……、悩みを聞いてもらおうと思って」

「別に、レオンがどこに行こうがどうでもいいんだけど、香水のくっさいにおいを纏って近づかないでくれる。す~っごく不愉快っ」


 ヴィミはレオンを突っぱねて、食堂を後にした。


 レオンは弁解しようとしたが、口ごもる。

 ヴィミの背中から話しかけないでと言わんばかりのとげとげしい雰囲気が発せられていた。

 今日はこれ以上刺激しないように手を引いた。


「僕もLv.2なら参加できたのに……」


 レオンは唇をかみながら、手をギュッと握りしめる。すぐに肩に入っていた力を抜き、ため息をつく。

 食堂でお湯を買い、部屋に戻って体と服を綺麗にした後、現代語訳された日記を読む。


 ――昔の凄い人々の記録を見ていると、ブラッドウルフを倒して喜んでいたのがちっぽけに感じてくる。ほんと皆、深い層まで潜れるほど強くて凄い。僕も『インフィヌート』の攻略に挑戦したい、という気持ちはある。ただ、上層で困っている人を助ける方が性に合っているんだよなぁ。


 彼は日記帳を閉じ、椅子にもたれかかった。


「僕は欲張りな性格なのかな……」


 眠る準備を終わらせてからベッドに寝転がる。


「明日からヴィミに数日間会えなくなってしまうのか。ヴィミに一七層のことを伝えておいた方がいいかな」


 早々にベッドに寝ころんだが、中々寝付けず、深夜にようやく眠りに落ちた。


 次の日、レオンは性格上、部屋の中でだらだらできない。いつも通り、動きやすく着慣れた冒険者服を身に纏う。

 手入れされた革のブーツを履き、靴紐がほどけないよう強く結ぶ。ナイフホルスターも全て装着した。

 ウルフナイフの鞘は腰ベルトに付け、右手で引き抜けるように携帯した。

 その後、食堂に足を運んだ。

 寝付きは悪かったが二日酔いになっておらず目覚めはいい。


 食堂にヴィミの姿があった。サンドイッチをお腹が膨らむほど食べている。


「おはよう」


 ヴィミはレオンの挨拶に答えず、そっぽを向く。嫌いな臭いがする物体に近づきたがらない猫のよう。


「お、怒っているみたいだから、手短に言うね。一七層に危険な魔物が出るかもしれないから、気を付けて。まあ、ドリミアさんがいるから大丈夫だと思うけど」


 レオンはその場から離れようとした。

 だが、その前にヴィミが彼の方を向かないまま口を開いた。


「……あの男、なんか辛気臭い。私の勘がそう言っている」

「ドリミアさんが辛気臭い? もの凄く、いい人だよ」

「私はレオンほど簡単に他人を信用したりしない。それより、冒険者に戻るか救助隊を続けるか決めたの?」

「それって、どちらかに絞らないといけないのかな?」

「はぁ、話しにならないわね。決断力のない男は嫌い。私がレベル上げの研修から戻ってくるまでに決めておきなさいよ。まあ、悩むまでもないと思うけど」


 ヴィミは席を立ち、レオンから逃げるように食堂を出て行こうとする。

 彼女の全身から梅雨のような雰囲気が漂っていた。雨に打たれ続けながら拾ってもらうのを待つ捨て猫のようだ。


 ――物凄く抱きしめてあげたい。


 レオンがヴィミに近づいた。だが、彼女に鋭く尖った琥珀色の瞳を向けられ、体が委縮する。


「私に構わないでいいから」

「僕はヴィミが心配なんだ。仲間は僕だけだし、一人で行かせるのが申し訳なくて」

「力がへっぽこなレオンに心配されるほど、私は弱くないわ。Lv.3になって一人でも中層に行けるようになってやる。それで、レオンも無駄な心配する必要はないでしょ」

「そういうことじゃなくて、僕は、大食いで、短気で、大雑把で、協調性がないヴィミが心配なんだ。上手く言えないけど、すっごくザワザワするんだよ」

「何を知った口で。もういい。私の方からLv.1の仲間なんて切り捨ててやるわ。一人の方がずっと気楽だもの……」


 ヴィミは歯を食いしばりながら前を向き直した。モデルのようにスラッと長く綺麗な脚を前に動かし、ウルフィリアギルドを出て行く。尻尾は今までにないくらい下を向いていた。


「仲間を心配するのにレベルは関係ないよ」


 レオンはヴィミの姿が見えなくなるまで、背中を見送る。

 彼女が言うように、Lv.1がLv.2の者を心配する必要は一切ない。逆に心配される方が正しい。


「僕が弱いから、仲間の無事を祈ることしかできないんだ。もっと強くならないと」


 レオンは眉を寄せ、唇を硬く結ぶ。気温は暖かいが、肩が震えた。

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