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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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手紙

 レオンはウルフナイフを受け取る。


 下層で生きていたブラッドウルフの素材から作れた武器なら、下層の魔物全般に攻撃が通用する。ブラッドウルフの力は深層でも通用してしまう。


 罠を解除できるシーフ、深層の魔物にも攻撃が通る武器、でたらめな俊敏の高さ、Lv.1で下層に住むブラッドウルフと戦える冒険者としての素質。

 周りがその能力を持ち合わせていると聞けば、なんで冒険者活動していないの? と百発百中で質問が飛んできそうな状態。


 それでもレオンは笑っていなかった。


「どうした、やけに浮かない顔だな」

「エルツさんは〈スキル〉が付いた素材をナイフにしてしまえるだけの技術を持っているのに、なぜ包丁屋を続けているんですか? この技術があれば、武器屋になって冒険者に武器を売れば、大儲けできると思うんですけど」

「俺は包丁を作りたくて作っている。理由は単純、それがどうしてもやりたいことだからだ。別に武器が作りたいわけじゃない。これはただの趣味だ」


 エルツは受付台に置かれている三本のアントナイフに視線を向けた。


「どうしてもやりたいことと、趣味……って、そんな中途半端な考え方でいいんですか?」

「まったく、新人みたいなこと言いやがって」


 エルツは肩を上げ、首を振るう。


「仕事と趣味を混ぜて何が悪い。冒険者だって、仕事しているだけじゃないだろう。女遊びしたり、酒を飲んだり、楽しんでいる」

「そうですけど……」

「どうしてもやりたいことから目を背けて、したくもないことに時間を掛るな。失った時間は戻らない。取返しが付かないと知って、人間はやっと後悔する」

「後悔……」


 人生経験が豊富なエルツの言葉を聞き、レオンはじっと受け止める。

 持っていたナイフを全てエルツにひん剥かれ、勝手に研磨された。

 エルツは長時間の作業で死にそうになっていたのにも拘わらず、また研磨している。


 ――どれだけ研ぐのが好きなんだ。


 レオンはナイフに拘わることがエルツのどうしてもやりたいことなのだと知り、止めさせるわけにもいかず、立ち尽くした。


「僕のどうしてもやりたいこと……」


 彼はアントナイフの研磨が終わるまで待った。午後九時に研磨が終わり、アントナイフをナイフホルスターにしまい、包丁屋を後にする。


 ウルフィリアギルドの食堂でサンドイッチを食べて腹を満たす。

 お湯を買って部屋に戻り、体と衣類を綺麗にする。

 清潔になった状態で椅子に座り、リンが手渡してくれた日記帳をウェストポーチから取り出して机の上に置いた。


 新しい日記帳の方を手に取り、一通り流し見る。全部、翻訳されていた。

 最初のページに戻ると一枚の手紙が挟まっていた。


『拝啓……、とかあんまりかしこまるのも変だし、普通に書くね。今、冒険者ギルドの中で噂になっているブラッドウルフを倒した救助隊って、レオンと銀髪の泥棒猫でしょ。なんてね』

「銀髪の泥棒猫ってヴィミのことか? でも、何で僕たちがやったって思われているんだろう」

『六層で二人に助けられた冒険者の数、ここ最近だけで二〇人くらいいると思うよ。あの二人ならやれるかもと思えるくらい、凄い活躍しているね。元! パーティーメンバーとして鼻が高いよ』


 リンが怒りが、まるで香水の残り香のように文字から伝わってくる。


『私たちも順調だけど、パックスがちょっと変……というか、レオンほど信頼がおけないの。あと、すっごいエッチなの。痴漢が酷いの。ぶん殴りたいけど、躱されるのっ』


「こういう男がいるからシーフの印象が悪くなってしまうんだよな」


 レオンは苦笑いし、溜息をついた。


『私はまだマシだけれど、おっぱいが大きいダルシーに対してはすっごい顕著で、カリーとすっごく仲が悪いの。カリーはダルシーが大好きだから怒るのも無理はないと思う。ダルシーは優しいからちょっと触られたくらいじゃ強く怒らないし、パーティー内がギクシャクしちゃって。私はやっぱりレオンに戻ってきてほしい』


 冒険者論にも書かれていた通り、信頼できる仲間を得るのが最も大切だ。

 急ごしらえのパーティーメンバーだと、打ち解けるのが難しい様子。


「今なら、戻れる。けど……」


『このまま、パックスの態度が変わらないなら一八層の安全地帯まで行けるようになった時点で、パックスと手を切るつもり。一七層を突破できるくらいパーティー全体が強くなればレオンのレベル上げもしやすくなるでしょ。私たちが戻ったら一緒に飲みに行こう。そこで、もう一度話し合おう』

「やっぱりリンは仲間思いだな……」


 レオンは手紙を見つめた。薄い紙を持つ手に力がこもる。


「皆にヴィミと救助隊に対しての気持ちを打ち明けてみよう。今度は自分だけで決めない。皆としっかりと話し合うんだ」


 リンが書いた手紙を読み終わってから一度落ち着き、現代語訳された日記帳を読んでいく。


 一〇層でロックアントに襲われたり、一二層のボス部屋でフレアリザードと戦ったり、レオンと同じ状況に陥っている研究者たちの内容が記されている。

 層の地形状況や出現する魔物、危険な場所なども記されていた。

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