ウルフナイフ
キアズは後頭部を摩り、小さく息を吸った。
「冒険者の素質があり、くすぶっていて、戻る場所があるやつが大切な仲間だったら応援したくなるもんだ。まあ、言い方は下手くそだが、レオンに後悔してほしくないんだろ」
「確かに冒険者に未練はあります。英雄ルークスのようになりたいという子供のころの夢は、冒険者の時に出来なかった。戦いの中で『聖者の騎士』を助けられなかったから……。でも、今は戦いの中でヴィミを助けられる。それがすごく、こう……、誇らしいというか」
レオンは服の皴を伸ばしながら恥ずかしそうに笑った。
――逆に僕は救助隊を辞めて後悔しないか? 突発的な判断は駄目だ。時間を開けて考えないと。
彼は冒険者でもなく、救助隊員でもない状況で歩き、北大通りまで移動する。行きつけの包丁屋に足を運んだ。
「こんにちは……。エルツさん、いますか」
レオンは薄暗い店内を歩き、受付の前までやってくる。作業中の文字が書かれた板が置かれていた。
「さ、さすがにずっと作業しているわけじゃないよな」
ドワーフ族は仕事に集中しすぎて仕事をやり遂げた瞬間に死ぬ者もいる。それくらい、極限まで追い詰める。
レオンが前に来たのは八日前。
「もし、ずっと飲まず食わずで作業していたら」
彼の表情から血の気が引いていく。
受付を飛び超えて、エルツの仕事場にすぐさま入り込んだ。
妙な静けさの中、ナイフで髭を剃るような音が響く。
音が出ている方に視線を向ける。
すると、万力で挟んだ魔石に漆黒の刃を一定の間隔で擦り続けているやせ細ったお爺さんがいた。
それは胡坐姿でナイフを研磨しているエルツだった。
「よし、上出来だ……」
エルツは残り一枚の花弁がはらりと落ちるように背後に倒れ込んだ。死んだように眠っている。
レオンは倒れ込んだエルツに駆け寄る。息があるのを確認して、肩から力を抜いた。起こさず、そのまま眠らせる。
エルツが目を覚ますのを待つ。生憎、時間は十分ある。
午後七時頃、エルツが目を覚ました。
「なんだ、レオンか」
「ああ、エルツさん、起きたんですね。よかった」
レオンは椅子から立ち上がり、受付の前に移動する。
エルツは店内の薄暗い照明に照らされる。頬骨が浮かんで見えるほどやせ細っていた。百歳を超える老人のようだ。
彼は新たに作った大型のアントナイフ三本と鞘に納められた一本のナイフを受付台に乗せる。
「ブラッドウルフの爪で作ったウルフナイフだ。上質な素材で〈スキル〉が付いていた。魔道具で確認済みだ」
「〈スキル〉が付いた武器って、ルークス金貨八〇枚以上する超高級品ですよね?」
「ブラッドウルフの爪がそもそも超高級品なんだっ」
睡眠不足に拘わらず、エルツの声はいつも以上に張りがあった。
「おかげで神経と精神をゴリゴリ削りながら作る羽目になったんだぞっ。まあ、その分、傑作だと確信している」
エルツは腕を組み、笑顔を浮かべながら何度も頷く。
素材を生かすも殺すも職人しだい。彼は素材を無駄にせず、作成をやり遂げた。
「〈スキル〉の効果は……」
「簡単に言えば破損しても魔力で戻る。ウルフナイフが纏った魔石の力も戻るだろう。まあ、死なないナイフといったほうがいいか。これで、武器が壊れて戦えなくなる心配をしなくていい」
「Lv.1の僕なんかが使っていいのでしょうか」
「ナイフは飾り物じゃねえ。周りを見てみろ、全員しけたツラしちまっているだろう」
店内に飾られた包丁たちは、すねた少女のようにツンっとした雰囲気を纏っていた。
ずっと飾られている状態で、つまらないとでも言いたそうだ。
「道具は使われて魂が宿るもんだ。こいつが働きたくないと思うくらいに使いこんでやれ」
「……わかりました。ありがとうございます」




