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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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ヴィミの後押し

「フレアリザードってあんなに遅かった?」

「レオンが前より速くなっただけでしょ。Lv.1でフレアリザードを一人で討伐できる冒険者はほぼいない。やっぱり、レオンは冒険者の素質があると思う」


 ヴィミは笑顔だった。だが、尻尾が垂れ下がり、すぐに表情が暗くなる。


「僕に冒険者の素質がある? いやいや、二年間も冒険者をやってきてLv.1なんだよ。ちょっと戦えるようになったからって、素質があるかどうかなんて、わからないでしょ」

「罠で魔物を倒せたり、ロックアントに追われて咄嗟に飛び出したり、シャドウウルフを何十体も倒したり、ブラッドウルフと交戦して一人で数分間持ちこたえた挙句、止めを刺したり、している男が冒険者の素質がないって言うの?」

「そ、素質はないよ。僕はただ他の人より足が速いだけだ。Lv.1だし、冒険者としてやっていけると思えない。それなら、救助隊ギルドで仕事をこなしていた方がいいんじゃないかな」


 レオンはヴィミの目を見ずに小さく笑い、首の後ろを摩る。


「レオンに冒険者の素質がないって言った奴、見目がないわ。レベルが低いからって冒険者の素質が関わってくるの?」

「素質に拘わってくるかわからないけれど、レベルは大事だよ。高ければ高いほど強い。当然の話だよ」

「私はそう思わない。冒険者も救助隊も本質は同じ。必要なのは、前に進む勇気を持っているかどうかでしょ」

「……じゃあ、僕は冒険者になおさら向いていない。って、この話はやめやめ。今は仕事中だよ。救助カードを早く回収しにいこう。ここは一三層。一瞬の油断が命取りになる」


 レオンはヴィミの話を切り、仕事に意識を向ける。

 中層で仕事を終えると、ウルフィリアギルドに戻り、事後報告。


「ねえ、ギルドマスター。レオンを冒険者に戻せない?」


 ヴィミはキアズに向って親に結婚を切り出す前の娘のように真剣な口調で聞く。


「いきなりどうしたんだ?」

「レオンが冒険者に戻りたそうだったから、ギルドマスターに聞いたの」

「ま、まあ、戻ろうと思えば戻れるが……」

「ヴィミ、僕は別に冒険者に戻りたいなんて一言も言ってないよ」

「でも、今もくすぶっているでしょ。今のレオンなら中層でも十分通用する。Lv.1だから何だっていうの。シーフの仕事も完璧だし、魔物とも戦えるなら問題ないわ。抜けた冒険者パーティーの皆も生きているし、救助隊ギルドで働いていてもレオンの才能を生かしきれない」


 ヴィミは琥珀色の瞳に涙を溜め、声を力強く出した。

 鼻すじに皴を寄せ、笑顔を歪ませながら唇をぎゅっと結ぶ。


「今なら戻れる。冒険者として再出発できる。レオンの冒険者としての素質は私がこの目で見てきた。絶対にやっていける。私が保証する」


 ――どうしてそこまで言ってくれるんだろう。確かに今なら冒険者としてやり直せる気はしている。でも冒険者が正解とは限らない。僕は救助隊ギルドの仕事に誇りを持てるくらい人を助ける仕事が好きなのに。


「私は一人でも仕事ができる。気にしてくれなくていい。確かに、レオンがいてくれたら罠を踏まず、周りに迷惑を掛けずに済む。強敵が現れても戦えた、仕事も楽しかった……」


 ヴィミは唇を舐め、肩や腕をこわばらせながら拳を震わせた。


「やりたいことを我慢してまで、救助隊の仕事をする必要はない。レオン、他人の言葉に惑わされないで。一時でも仲間だった私を信じなさい。あなたは冒険者の素質がある。だったら、冒険者を続けるべきよ」


 彼女はレオンに背を向けたまま落ち着かない声を上げる。つま先を見つめ、腕を摩る。


「ヴィミ……」


 レオンは頭を左右に振るう。手が小刻みに震えた。彼女に手を伸ばそうとするが、途中で戻す。


 ――仲間の言葉に耳を傾けるのも、仲間の役目。『聖者の騎士』を抜ける時も、僕一人で勝手に決めて勝手に抜けた。


 彼はズボンを撫でさすり、つばを飲み込む。背中を丸め、うなだれた。


 ――冒険者を続けていたら、いずれ魔物を倒せて、強くなれたかもしれない。でも、今の僕になれなかった。ヴィミと共に救助隊ギルドの仕事をこなしたから、今がある。当時の選択が間違っているとは思わない。ただ、仲間の声をもっと聴くべきだったのは確かだ。


「ヴィミ、弱い僕の背中を押してくれてありがとう。でも、少し考えさせて」

「わかった……、答えが出せるまで、私はレオンと仕事しない」


 ヴィミはレオンと初めて会った時と同じくらい、寂しそうな背中のままウルフィリアギルドを出た。


「どうして、ヴィミはあそこまで僕を冒険者に戻したいと思ったんでしょうか……」


 レオンは近くにいたキアズに無意識に話しかけていた。


「まあ、俺の憶測でしかないが……。ヴィミも冒険者だったのは知っているだろう」


 キアズは腕を組みながら、細々と呟く。


「ヴィミがここに来た時もレオンと同じで冒険者に未練たらたらだった。冒険者になって一年でLv.2になった才能の持ち主だ。でも、あの性格だ。最初に組んだ冒険者パーティー以降、新しい冒険者パーティーに馴染めなかったらしい」


 レオンが所属していた『聖者の騎士』の四名は二年でLv.2になっている。それでも早い方だ。

 その半分の速さでLv.2になっていたと聞かされ、レオンは開いた口が塞がらなかった。


「救助隊ギルドの仕事を通して、ヴィミはこの場に居場所を見つけた。聞こえはいいが、ここしかなかったとも言える。冒険者の方に戻る選択肢も取れたが、すでに居場所がなかったんだ。だが、レオンには戻る場所がある。だから、ああ言ったんだろう」

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