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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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日記交換

 ブラッドウルフの討伐から八日ほど経った。


「少なくとも、犯人は下層に潜りブラッドウルフと戦えるだけの実力を持ったLv.3以上の者だ。でも、それだけじゃ、何もわからない。早く犯人を見つけないと」


 レオンは誰がどんな意図でブラッドウルフをどのようにして下層から六層に運んだのか、考え続けていた。だが、答えは出ていない。


 もし、前回と同じ状況になれば多くの被害者が出るのは確実だった。それにも拘わらず問題解決は先送りにされた。

 六層にブラッドウルフが出現した稀な状況と上層にいた救助隊員二名が倒したという、あまりにも嘘臭い情報のため、ほとんどの冒険者ギルドが信用しなかった。


 バルディアギルドのギルドマスター、シグマもキアズに説明された時は首をひねった。

 だが、キアズに念押しされ、頷いた。

 何万人といる冒険者の中、冒険者以外の可能性も考慮し、Lv.3以上の者で調べるとしても、証拠が一つもない状況のため手が付けられない事案だった。


 今はダンジョン内で異変を感じたさい、すぐに避難するように呼び掛ける程度の対策しか取れていない。


 懸念されていた中層で被害を受ける冒険者の数も、増加傾向にあった。

 今に始まったことではなく、昔から『インフィヌート』内で犯罪はよく起こっていた。

 殺害、強姦、窃盗、など、治安は決して良いといえない。魔物による被害と処理されてしまう可能性も高い。

 冒険者ギルドといえど、ダンジョン内、全ての層を見張れるわけもなく、犯罪者は今もなお、のうのうと生き延びている。

 そのため、新人冒険者に冒険者パーティーを組ませ、冒険者ギルドが信頼を置く上級冒険者に指導させている。

 新人教育を行っていなかったころに比べ、犯罪率死亡率共に減少しており、大きな効果を生んだ。

 それでも、犯罪はなくならない。


 冒険者活動で最も大切なのは「背中を任せられる仲間の存在を作ることだ」と『冒険者論』の中に記されている。

 それができないならば、己が誰よりも強くなるしかない。


 レオンは腕を組み、首をひねりながら険しい顔で歩く。

 早朝にヴィミと共に『落とし豚』に向かう。


「あ……、レオン」

「あ、皆」


 レオンは『落とし豚』の入口付近で『聖者の騎士』とはちあった。

 苦いゴーヤを生で食べたように顔をしかめる。


 ――前は逃げてしまった。レベル上げの努力を怠り、後ろめたさが残っていたから……。今は違う。仲間のために強くなると決めた。出来る努力をこなしている。それに、僕はブラッドウルフに打ち勝ったんだ。


 レオンは冒険者だったころのように気楽に挨拶を掛ける。


「おはよう、ノーリス。冒険者の仕事は順調?」

「ああ、おはよう。前以上に慎重に行動しているおかげで、怪我もなく無事に強くなれている。今は一八層の安全地帯を目指しているところだ」

「へぇー、さすがだね。怪我だけ気を付けて。救助カードもちゃんと持っておいてよ」

「心配するな。ちゃんと持っている」


 ノーリスは腰に付けられたウェストポーチを叩き、他の者にも視線を向けた。

 リンやカリー、ダルシーは小さく頷く。

 パックスはあくびしていた。


 あまり長話すると待たされるのが嫌いなヴィミの機嫌が悪くなるため、レオンはこの程度で済ます。


「レオン、これ……」


 リンは古い日記帳と新しい日記帳をレオンに差し出す。神妙な表情で笑っていない。いつもなら『凄いでしょ、褒めてもいいのよっ』と自分を棚に上げるが、今日は違った。


「ありがとう。じゃあ、気を付けて」

「レオンもね」


 リンがレオンにハグしようとすると、ヴィミが口を開く。


「レオン、早く行くわよっ」


 レオンはヴィミの言葉を聞き、軍隊で上官にベルを鳴らされた騎士の如く大きく反応した。すぐさま彼女にしたがう。


 ――ちょ、ちょっとくらい日記を読みたかった。ウルフィリアギルドの部屋に戻ってからゆっくりと読むか。


 彼は受け取った日記をウェストポーチにしまう。


「あの冒険者パーティーにいる金髪の女がレオンの好みなの?」


 ヴィミは歩きながら目を細め、隣にいるレオンに針を刺すような鋭い視線を向ける。


 彼女から始めて向けられた稀有な視線に、レオンは虎に睨まれた鼠の如く身震いした。


「なんでそうなるの?」

「なんでって……、交換日記するなんて、好きな人としかしないでしょ」

「交換日記じゃないよ。この前に見つけた古い本の現代語訳をリンにお願いしていたんだ。もう、終わらせてくれるなんて、凄くありがたいよ」

「ふーん、交換日記じゃないのね。まあ、私にはどうでもいいことなんだけど……」


 両者は中層の依頼に向かうため、一二層のボス部屋の前に移動する。

 救助隊ギルドの仕事を始めたばかりのころはヴィミに置いて行かれていたレオンだったが、今では彼女と同じ、またはそれ以上の速さで到着出来ていた。


 レオンはボス部屋の扉を堂々と開け、広い空間に鎮座しているフレアリザードの姿を見据える。


 ――やっぱり、大きい。でもブラッドウルフに比べれば、怖くない。


 彼は皮膚の薄い部分を狙い、大型のアントナイフで抉るように攻撃。


 巨体から黒い血が噴き出す。暴れるフレアリザードだったが攻撃は一切当たらない。


 レオンは《スキル》【血狼の牙】の効果とアントナイフの連続攻撃により、ヴィミの攻撃がなくともフレアリザードを討伐した。


「か、勝てたっ」

「やっぱり。そうなるわよね」


 ヴィミは小さく微笑み、腰に手を当てながら開いた中層に続く扉に歩いていく。

 レオンはドロップアイテムのフレアリザードの鱗と魔石を魔法の袋にしまい、彼女のもとに駆ける。

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