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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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冒険者か救助隊か

「レオンくんは冒険者を辞めたのに、なんでまだダンジョンに入り浸っているんだい?」

「そ、それは……」

「救助隊は君がやりたかったことじゃないだろう? 大怪我を負って働けなくなる前に、田舎に戻って可愛い奥さんを貰って慎ましく暮らす生活も悪くないんじゃないかな」

「確かに、僕は英雄ルークスのようにダンジョンの中を探検して宝箱を見つけてレベルを上げてみんなにチヤホヤされる。そんな色々な夢を抱いて頑張ってきました……」


 レオンはお湯に沁みる両手をぎゅっと握り合わせ、ゆっくりと開く。

 手の平に出来ている硬い豆や、血豆、皮が捲れた傷の数々が彼の努力を物語っていた。


「僕は英雄ルークスが人を助ける姿に憧れました。だから、誰かを助けられ冒険者になりたかった。でも、なれなかった」


 彼は苦笑いし、後頭部を掻く。


「救助隊は非力な僕でも人を助けられる仕事場なんです。凄くやりがいがありますし、守りたいと思える守りたいと思ってもらえる仲間も出来ました。ダンジョンの中で救助を求めている人がいるなら、僕は僕の気が済むまで働くつもりです」


 レオンは清らかな笑顔を浮かべ、ドリミアに視線を向けた。


「よっぽど救助隊ギルドの仕事が気に入ったんだね。実に素晴らしい心意気だ。私はお金と名誉欲しさに冒険者をやっているから、レオンくんの心意気を聞いて尊敬してしまうよ」

「Lv.6のドマリスさんに尊敬してもらえるほど、僕は凄くありませんよ。逆に僕がドマリスさんを尊敬しています。恐怖渦巻く深層に潜って傷一つ受けずに生還してくる武勇伝なんて、伝記の中の話みたいです。さすが現代最強と名高い冒険者ですね」

「いやぁ、それほどでもあるよー」


 ドマリスは湿った前髪を右手でかき上げる。鼻高々になり、背を反らせた。

 その際、レオンはドリミアの右肩に掛けられていた布に視線が向いた。すると、うっすらと傷のような線が入っているのが見えた。


「ドリミアさん、その肩の傷はどうしたんですか?」

「ん……、あ、ああ、これ? なんだろう、傷を負ってもすぐに治ってしまうから」


 ドリミアは今気づいたようなそぶりで、右肩についた線を布で擦る。


「『鉄壁の要塞』の二つ名を持つドリミアさんが傷を負うなんて、どんな凄い魔物と戦ったんですかっ」

「いやぁ、あんまり覚えていないんだよね」


 ドリミアはヘラヘラと笑い、傷を隠すように布の位置を直す。その後、水しぶきが上がるほど勢いよく立ち上がり、お湯から出た。


「じゃあ、レオンくん。最後に一つだけ質問するよ。レベルが二にあがった時、君は冒険者に戻りたいと思っているのかい?」


 レオンはすぐに答えられなかった。


 ――冒険者に未練がないといえば嘘になる。英雄への憧れはそう簡単に消えない。


「……戻れるなら、また、挑戦してみたいと思っています」

「……そうか。答えてくれてありがとう。じゃあ、またどこかで」


 ドリミアは笑顔を絶やさずに手を振って風呂場から出ていく。


 冒険者の体は大概、傷を負っている。

 傷は名誉の勲章という者や戦いが下手という者もいる。ドリミアの背中は彫刻のように傷一つなく、艶々だった。


 レオンは新人冒険者のころ『聖者の騎士』の皆と一緒にドリミアに指導してもらっていた。

 ドリミアの傷を見てから、彼は腕を組み、唸る。

 ドリミアは二つ名に恥じない鉄壁の耐久力を誇っている。それは《アビリティ》だけで成し得られる耐久力ではなかった。


 ――ドリミアさんが教えてくれた〈ステイタス〉の内容は……。


〈ステイタス〉

《アビリティ》

 力:B728 耐久:S950 器用:E440 俊敏:D510 魔力:A810

《魔法》

【風鎧】・風属性魔法。風の鎧に攻撃を受けると風属性魔法の斬撃が放たれる。・詠唱『ウィンドアーム』により発動。

【防壁】・魔力の壁を生成する。・魔力の値によって耐久性が変わる。・任意発動。

【予知】・敵の攻撃を予測し、回避する・魔力が高いほど範囲拡大・任意発動。

《スキル》

【自然回復】・毎分固定回復。・自動発動。

【カウンター】・攻撃回避時発動。・攻撃、魔法の命中率上昇。

《レアスキル》

【英雄の盾】・敵の力が本来の値の一割になる。・常時発動。


 ――ドリミアさんは《レアスキル》を持っているから相手の『力』の値を気にせずに戦える。魔物の『力』が一割になってしまうなら彼の『耐久』が高いから傷一つ付かないはずだ。


 レオンが腕を組みながら首をかしげている間に、肌が少しずつ赤くなり汗があふれ出てくる。


「考えれば考えるほどわからない。どうしてドリミアさんの体に傷がついていたんだろう? 『力』の値が一割でもドリミアさんの『耐久』を超えるやばい魔物がいるのかな……」


 レオンの顔はにやりと笑っていた。黒い瞳は暖色光を反射し、らんらんと輝いている。


「深層に行けば、そんなやばい魔物がうじゃうじゃいるのかも」


 お湯に浸かっている状態で、体に鳥肌が立つ。


「いつかドリミアさんのように深層で活躍できる冒険者に……、って、僕は、まだ冒険者の仕事がしたいんだろうか?」


 レオンは今日までヴィミと一緒に救助隊として働き、冒険者の時に味わえなかった達成感を何度も得ていた。

 救助隊はLv.1でも活躍できる。

 レベル上げに勤しみ、深層まで潜り強敵を倒してお金や宝を手に入れるというのは、一種の自己満足に過ぎない。

 自分のために働くのが冒険者。他人のために働くのが救助隊。


「僕、冒険者よりも救助隊の方が居心地がいいんだよな」


 腕を伸ばし、緊張と疲労で固まっていた筋肉を解す。


「戻るか戻らないかなんて、まだ、Lv.2にも上がっていないのに考えることじゃない。今は冒険者じゃなくて、救助隊員なんだ」


 レオンもお湯から出て、体を洗ったあと脱衣所に戻り、乾いた布で水気を拭き取る。

 焼き肉臭い服を身に着け、ウルフィリアギルドに戻った。

 夕食を得てから服の洗濯をこなし、ベッドで眠る。

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