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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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お風呂

「威圧してすまなかったな。もともと趣味で作った品だ。どう扱おうとレオンの自由。こいつらも主の命を守るために役目を終えたのなら本望だろう。ロックアントの素材でまた、似た品を作ってやる」

「本当ですか……、あ、ありがとうございます。じゃあ、この素材でも武器を作ってくれると嬉しいんですけど、お願いできませんか?」


 レオンは魔法の袋からブラッドウルフの爪と魔石を取り出して、エルツに見せた。


 素材を見せられたエルツは油を踏んだように後方に転がる。すぐに起き上がれない。

 ぎっくり腰になった老人のように受付台を支えに立ち上がり、素材を凝視する。彼は表情を引きつらせた。


「ぶ、ブラッドウルフの爪だと……。レオン、お前、まさか、倒したんじゃないだろうな?」

「僕も、まさか倒せるとは思いませんでした。仲間のおかげです」

「ドロップアイテムは魔物を倒した時にしか得られない。つまり、本当に倒してしまったということか……、信じざるを得ない」


 エルツは大きくため息をつき、ブラッドウルフの爪を撫でる。


「この超高級素材を包丁屋に持ってくる救助隊員はレオン以外にいないだろうな」


 難しい仕事を受けるのが大好きな変態ばかりのドワーフ族は上質な素材を見ると、顔がにやける。

 エルツの顔も絶世の美女を見たように表情が気持ち悪いくらい緩む。


「ナイフでいいんだな」

「はい。ナイフがいいです」


 レオンはアントナイフを入れている四つのナイフホルスターをエルツに差し出す。

 お金を渡すのはエルツが嫌うため、シャドウウルフのドロップアイテムを麻袋一杯分、手渡した。


 エルツは素材の提供を受け、少々とまどる。レオンのごり押しにより、渋々受け取る。

 一本の大型のアントナイフと八本の小型のアントナイフを研ぎ直し、レオンに返した。


「構想を練ってから作りたい。新しい武器の生成は数日かかる」

「わかりました。楽しみに待っています」


 レオンはエルツに頭を深々と下げた後、店を出た。

 研ぎ直しに時間がかかり、すでに夕方。

 王都は働き盛りの若者が多く、夜になっても明りは絶えない。

 逆に、より一層煌びやかになっていく。


「くっ……。ヴィ、ヴィミのせいで獣族の風俗に行ってみたくなってしまった。人の風俗にも行った覚えがないのに」


 レオンはヴィミに何度もキッスされた頬に手を当てる。


 ――ヴィミの甘々な姿が、脳内から全然消えない。


 成人してから二年。レオンも男だった。男冒険者たちの金の使い道は酒と仕事道具と風俗が大半を占める。

 死が身近にある冒険者は子孫を残そうとする性欲が強く働き、必然と風俗に通ってしまうものが多い。

 冒険者を二年間こなしていたにも拘わらず、童貞のレオンが普通ではない。

『聖者の騎士』という仲間が近くにいた状況と、自信のなさが足を引っ張り、風俗から足を遠ざけていた。


「ぐぬぬ……、行ってしまったらヴィミにどんな顔して会えばいいんだ」


『これだから男は。冒険者の男なんて、全員ヤリチンなのよ。ほんと、死ねばいいのに』


 ――ヴィミは夜の店に入り浸る冒険者に良い印象を持っていなかったよな。関係がギクシャクするのも嫌だし、銭湯にしておくか。


 レオンは西大通りにある銭湯に足を運ぶ。

 ブラッドウルフを倒した事実は貧弱な体のレオンを、鋼の肉体を持つ冒険者ばかりがいる風呂場に向かわせるだけの強さがあった。


 銭湯は案の定、ガタイがいい冒険者であふれている。

 線が細いレオンは明らかに浮いていた。だが、引かない。


 ――今日、僕はブラッドウルフを倒したんだ。シャドウウルフもたくさん倒した。他の冒険者に負けない実績だ。ビビる必要はない。


 レオンは受付でルークス小銀貨五枚を堂々と支払う。そのまま、男用の脱衣所に向かう。


「あれ、レオンくん。奇遇だね」


 線の細いドリミアが男湯の脱衣所で服を脱いでいたレオンの近くにきた。

 すでに服を脱いでおり、右肩に布を乗せている。


「ドリミアさん、こんばんは。奇遇ですね」

「ほんとほんと、でも、レオンくんが銭湯に来るなんて珍しいね」

「たまにはいいかなと思いまして」


 レオンは鍵付きのロッカーに荷物をしまい、布で股部分を隠しながら風呂場に逃げ込む。


「ふふふっ、まだまだ子供だねー」


 レオンとドリミアは白い湯気が漂う広い風呂に浸かり、体を温めた。

 周りは体に鎧をまとっているのかと思うほどむきむきの男達ばかり。

 冒険者ギルドが多く立ち並んでいる西大通りにある銭湯のため、仕方がない。


「今、レオンくんは何をやっているの?」

「救助隊ギルドで働いています。ドリミアさんに言われた通り、僕は冒険者に向いていなかったみたいです。でも、救助隊ギルドで少しでも活躍出来て、毎日が充実しています」

「そうなんだ。レオンくんが満足しているなら、それでいいんだ」

「『聖者の騎士』の皆は最近どうですか?」

「皆、優秀だよ。ほんと、凄く優秀だ……。このまま成長したら中層は一年も経たずに突破しちゃうかもね。ノーリスくんなんて、もうLv.3に上がってしまいそうだよ」

「凄い……、さすがノーリス。じゃあ、他の皆も順調に強くなっているんですね。よかった」


 レオンは『聖者の騎士』が強くなっていると知らされ、口角を上げた。表情が全体的に明るくなる。


 ――皆に追いつくのは凄く大変だ。でも、ドワーフ族の考え方を借りるなら、難しいからこそ、やりがいがある。強くなるために近道はない。

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