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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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あまあまのヴィミ

 音に近い速度で走ると強烈な慣性力が働き、岩壁に立てる。

 そのままの速度で走り抜け、天井に靴裏を付けた。ブラッドウルフの頭上に位置どる。


 ブラッドウルフはヴィミにしか意識を向けていない。

 弱ければ弱いほど無視される。

 一匹の鼠が走っていても、巨大な魔物は一切気にしない。

 その鼠が命を刈り取る鋭い牙を持っていたとしても、強者は弱者に油断する。


 ――ブラッドウルフの攻撃を逆にやり返してやる。


 アントナイフを振りかざしただけでは火力が足りない。


 ――火力は『俊敏』と『器用』で補う。


 レオンは細いアントナイフをブラッドウルフの脳天に投げ込む。

 それと同時、太ももとふくらはぎがはち切れんばかりの脚力で天井を蹴り押す。

 氷柱から水滴がしたたるように静かに落下。

 その速度はハヤブサの如く、音を置き去りにする。


 激しい戦闘を繰り広げている地上と違い、レオンの周りは静寂に包まれていた。


 投げたアントナイフの鋭い穂先はヴィミにしか意識が向いていないブラッドウルフの脳天にチクりと刺さる。

 目の前の虎から意識を反らせば死ぬ、そんな状況の中で痛みも感じない攻撃に意識を割けるほど、ブラッドウルフに余裕はなかった。


「はぁああああああああああああっ」


 レオンが持つ大型のアントナイフの刃先はブラッドウルフの脳天に突き刺さっている細いアントナイフの柄尻に直撃する。


 全力で走りながら針の穴に糸先を一発で通すような繊細な一撃。

 常人ならば真面に当てられない速度で落下しているが、『器用』の値がSS1005のレオンにとっては造作もなかった。


 音の速度に近い人間が突き出した一撃は、アントナイフの切れ味と組み合わさり、ブラッドウルフの脳天を貫くほどの威力を出した。


 細いアントナイフが地面に深く突き刺さる。

 同時、ブラッドウルフは叫び声をあげることすらできず、肉体が蛍のような光の粒となって散り散りに消滅した。


 ブラッドウルフの爪と魔石がドロップアイテムとなり、レオンと共に地面に落ちる。


「や、やったぁ……」


 レオンは体力の限界を迎え、着地と共に後方の地面に寝転がる。

 ヴィミが統率を失ったシャドウウルフを全て殴り倒していく姿を遠目で見つめた。


 散り散りになっていた光が集まり、一枚のカードになる。そのまま、レオンの胸に落ちて消えた。


 ――今のは、スキルカードかな……?


 スキルカードは宝箱以外からも得られる。

 魔物を倒した時にドロップアイテムとして得られる場合が報告されている。

 ただし、上層中層の魔物程度では現れず、下層深層に住む魔物から稀に得られる。


 ――Lv.1とLv.2の救助隊員が下層に住まうブラッドウルフを倒した。前代未聞だ。加えてスキルを手に入れるなんて、もっと稀なのでは? って、それよりも今は素材を回収しないと。


 レオンは赤子のように手足を振り回し、力尽きる。


「ヴィミ、僕の体が真面に動くようになるまで、素材の回収を……」

「レ、オ、ン~」


 ヴィミがハチミツのように甘ったるい声を出し、レオンに近寄る。

 全身に汗を掻き、白い肌の褐色がよくなっていた。

 寝ころんでいる彼の体に布団のように覆いかぶさる。

 溶けた飴玉のようにトロトロの琥珀色の瞳を彼に向けた。


「いまぁ、す~っごく、チュウしたい気分~」

「ちょ、ヴィミ、意識を確かに持ってっ」


 レオンはヴィミに覆いかぶさられ、身動きが取れなくなった。


 ――ヴィミに手を出せば、殺される。そもそも《レアスキル》の影響が出ている相手に手を出すなんて、男の風上にも置けなぞっ。で、でも、ヴィミが甘々になっているの、可愛い……。


 彼の表情は少しずつ赤らんでいき、口角があがる。


 ヴィミは自分の所有物だと主張する動物のようにレオンに体を擦りつける。

 彼の頬に唇をチュッチュと当てた。鼻息を荒げ、細長い尻尾がのろしのようにうねうねと持ちあがる。

 彼のにおいを嗅ぐたび、安産型のお尻を左右にぷりぷりと振った。


「体が熱いの、燃えちゃいそうなのぉ。レオンの体、ひんやりして、気持ちいぃにゃぁ~。喉もカラカラ……、水のみたいぃ」


 ヴィミはレオンの首すじに流れる汗をチロリと舐めとると、ムフフっと微笑む。

 味を占めたのか、何度も汗を舐めとっていき、息が粗くなるばかり。


「レオンの汗、しょっぱいけど……美味しぃ。でも、全然足りないニャァ」


 ――ど、どれだけの間、この状態が続くんだ。これ、僕の理性が持つのか。い、いや、保たせるんだ。大切な仲間に手を出すなんて、仲間失格だっ。


 レオンは腕を動かし、ヴィミを抱きしめて固定。このまま何もせず時間が流れるのを待つ。

 ヴィミの体は筋肉が発熱しているような状態で、風邪を引いた時に近い。


「レオンにギュってされるの……、大スキィ~」


 ヴィミもレオンに抱き着き返す。

 両者はダンジョンの中で大きな隙を作っていた。周りに魔物がおらず、事なきを得ている。


 ――これは罠。これは罠だ。新しい一種の罠だ。


 レオンは歯を食いしばり、ヴィミが元に戻るまでこらえ続ける。


 一五分ほど経つと、ヴィミの動きが穏やかになった。

 彼女は表情をしかめながら立ち上がり、体を見回している。

 小さく息を吐き、頬の筋肉が和らいだ。

 ただ、汗でベトベトになっているレオンの姿を見て、顔が赤らんでいく。


 レオンは動くようになった体を起こした。


「ヴィミはどこまで覚えているの?」

「だ、だいたい覚えているわ……」

「じゃあ、僕に抱き着かれるのが大好きって、本当だったりするの?」

「さ、さぁ。そんなことより、素材を回収して地上に戻ろう」


 ヴィミはレオンの話を切り、地面に転がっているドロップアイテムを拾い集める。

 レオンも取り掛かり、魔法の袋がパンパンになるまで詰め込んでいく。


 ――ブラッドウルフの爪と魔石があれば、壊れたアントナイフの代わりになるかもしれない。


 倒した魔物の素材の配分は仲間と話し合って決めるのが普通だ。

 そのため、ヴィミと相談する必要があった。


「ヴィミ」

「レオン」


 レオンが話しかけた瞬間にヴィミも声を上げ、言葉が被る。

 一時の静寂が訪れ、レオンはヴィミに話を譲った。

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