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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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ブラッドウルフ

 レオンがシャドウウルフを倒すたび、牙や爪などのドロップアイテムや紫色の魔石が地面にごろごろと散乱していく。


 敵が新人冒険者殺しという異名を持つ魔物ながら、レオンは体力が減り続けても一歩も引かなかった。


 ――今、僕が攻撃を受ければ戦えなくなってしまう。そうなれば、ヴィミ一人でこの場をどうにかしなければいけなくなる。何が何でも倒れるわけにはいかない。


 四方八方を敵に囲まれ、一歩間違えれば致命傷を受ける極限の状況。

 そんな中、彼は集中力と身体能力を、鋭利なナイフのように研ぎ澄ませていくよ。


「す、すごい……」


 ヴィミは視界に移るシャドウウルフをあらかた倒したころ、背後を振り返る。ふと、手が止まった。

 彼女は無意識にレオンに背中を預けながら戦っていた。

 今まで守ってきた者が、いつの間にか共に戦い、仲間と呼べる存在になっている。


「なによ……、やればできるじゃない」


 ヴィミはうっすらと微笑み、力強く拳を作る。すぐさまレオンの加勢に入る。


 両者は互いに背を合わせ、背後を仲間に任せながら迫りくるシャドウウルフを倒し続けた。

 だが、シャドウウルフとの戦いもつかの間。

 溶岩のように粘性の高い液体が空間に入り込んでくる。

 シャドウウルフの動きは止まり、液体の中に次々と飛び込んでいった。


「もっと、数を減らしておきたかったんだけど」

「十分でしょ。問題は、あいつに攻撃が通るのかどうかってことね。多分、逃がしてくれないだろうし……」


 シャドウウルフと合わさったドロドロの液体から、血と墨汁を混ぜたような赤黒い毛並みを持つ魔物が現れる。

 シャドウウルフの上位種であるブラッドウルフだった。Lv.3以上でなければ入れないほど危険な下層に住む魔物だ。

 体長は一〇メートル近くあり、シャドウウルフの一〇倍の大きさはあった。

 姿は似ているが雰囲気は別物。子供と鬼くらい違う。


 鋭い爪はどんな剣よりも切れ味がよく、牙は鎧など紙同然に貫く。

 音以上の速度で移動し、冒険者パーティーを意識外から襲う。

 知覚出来た時、すでにそばにいる。気づいた時には全滅している場合がほとんどだ。


「回避っ」


 ヴィミは大声で叫んだ。

 移動音もなく、レオンとヴィミの背後に回っていたブラッドウルフは振り上げた前足を地面に叩きつける。

 とっさに避けていたレオンとヴィミは風圧だけで、吹き飛ばされる。

 そんな中、レオンはシャドウウルフがいなくなり、出入り口が空いている状態だと確認した。


 ――逃げるなら、今しかない。でも、ブラッドウルフの速度は僕たちを超えている。二人同時に逃げたら恰好の的だ。


 シーフは仲間を危険から守るのが仕事だ。やることは瞬時に決まる。


「ヴィミ、偽宝部屋に救助カードを取りに行ってそのまま地上に逃げるんだ。できればシグマさんに応援要請をお願いっ」


 レオンは左手に持っていた大型のアントナイフを空中に軽く放り、レッグホルスターから二本の細いアントナイフを抜き取る。

 何のためらいもなく、ブラッドウルフの目を狙って投げた。

 その瞬間、空中に放った大型のアントナイフを掴み直し、直進。

 常人からはブラッドウルフの移動は目視出来ない。

 だが『俊敏』の値がSSS1185のレオンは敵の動きがはっきりと見えていた。


「ちょ、それって、この化け物をレオン一人で足止めするってこと……」

「二人ともやられてしまったら、この状況を誰にも伝えられないでしょっ」


 レオンが投げたアントナイフはブラッドウルフに命中せず、容易く躱される。

 だが、先に攻撃したレオンを敵と見なしたブラッドウルフはヴィミを無視した。


 空中で壁に向かって真っ直ぐ飛ぶアントナイフがのろのろと進む中、レオンはブラッドウルフの体にアントナイフを突き刺し、切り裂き、連続攻撃をお見舞いする。


 巨大な体から黒い血が吹き出す。


 細いアントナイフが空中を進み、黒い血しぶきが浮いた状態で、レオンとブラッドウルフは互いの武器を連続で重ね合わせた。


 ☆☆☆☆


「……っつ」


 ヴィミは仕事をこなすため、表情をしかめながらレオンの言葉通り、偽宝部屋に向かう。

 予想通り、四枚の救助カードが落ちていた。

 加えてレオンが投げたアントナイフに赤い血が付いた状態でその場に落ちている。

 拾い上げて血のにおいを嗅ぎ、舌で舐めて脳裏に何者かの存在を焼きつけた。

 魔物は赤い血を出さない。

 ダンジョンに普通の動物は存在が確認されていない。外の世界からダンジョンの内部に潜る人族や獣族は例外だった。


「ブラッドウルフがいた偽宝部屋にだれかがいたの? って、今は早く応援を……」


 ヴィミの足なら数分で人を呼びに行ける。

 ただ、その間、レオンが生き残っている保証はない。


「レ、レオンは救助カードを持っているから大丈夫……」


 偽宝部屋の前にありありと残っている巨大な爪痕がヴィミの目に入った。

 レオンが助けていなければ、彼女はこの攻撃で死んでいた。


 救助カードの仕様上、重症にならなければ発動しない。

 強さが違い過ぎる相手と戦った場合、救助カードが反応する前に死ぬ可能性はゼロではなかった。


 左に行けば地上に行ける。あの化け物から逃げられる。

 だが、レオンが化け物と奥の空間で残っている。

 彼が言った通り、上級冒険者を連れてきた方が確実に対処できた。


「レオンが死ぬかもしれない……」


 ヴィミはすぐに左側に進めなかった。


「また私は一人の仲間も助けられないの……」


 息が荒くなっていき、震える両手を胸に当てる。脚は頑なに動かない。尻尾は太ももの間に入る。


 ――私だけ生き残って仲間と会えなくなる経験は、二度と味わいたくない。


 右を向くと、自然に体の震えが止まった。この先にレオンが待っている。


「仲間を見捨てるくらいなら辱めを受けた方がマシだ。レオンなら、信頼できる」


 ヴィミは鋭い眼光を薄暗い通路の中で輝かせ、広い空間に向って走った。


 ☆☆☆☆

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