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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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偽宝部屋

「やっぱり、気持ち悪いわね。ほんと、どうなっているのかしら」

「長居は厳禁。偽宝部屋に行って、早めに帰ろう。上級冒険者たちが六層の異常の原因を突き止めるまで、僕たちは六層の仕事を受けない方がいい」

「そうね。でも、今回受けた仕事は絶対にこなす。誰も助けに来ず、死ぬなんて辛すぎるもの」


 ヴィミは息を吐き、精神を六感に集中させる。


 両者は共に走り出し、速度で危険を回避するべく最速で偽宝部屋まで到着。


 レオンは偽宝部屋の入口を開けるために壁の一部を押し込もうとする。


 ――バラバラに散らばっていた救助カードの状況は、この六層の状況と関係していたりするのか? 今、考えても仕方がない。でも……。


 危険を回避するのがシーフの仕事。

 曲がりなりにも、二年間もシーフとして仕事してきた。

 直感だけでシーフの仕事は成り立たない。だが、今回は起動ボタンから手を引く。


「どうしたの?」

「いや……、なんか、嫌な予感がして」


 レオンはウェストポーチから六層の地図を再度開く。

 偽宝部屋は六層の八分目辺りに位置し、七層に向かう道と別方向。

 七層に向かう道の最後の分かれ道に位置している。

 ただ、六層で一番広い空間に繋がっているため、六層で魔物の素材を取る冒険者からすれば一番通る道だった。


「ここで襲われたら、広い空間に逃げるか、引き返すか。でも、先は広い空間で行き止まり。なら、戻る。分かれ道が多く、魔物の脅威から逃れるため、意思疎通が取れなかった冒険者たちはバラバラに逃げてしまった」


 レオンは考えを口に出していく。


 ――現実味のない話だな。色々とこじつけが多すぎる。やっぱり、人の直感は大して当てにならない。


 ウェストポーチに地図をしまう。もう一度起動ボタンに視線を向けると、いつの間にか凹んでいた。


「え、ヴィミがここの起動ボタンを押したの?」

「押していないわ。私から見たら、ただの壁だし、何もわからないわよ。でも、どうせ入る予定だったんだし、別に……」


 偽宝部屋の壁が開くと、光を吸収し、真っ黒に見える何かがあった。

 黒い染み、黒い液体、黒い陰と呼称してもそぐわない、奇妙な物体。

 有機物か無機物かすらわからない。

 それを見た、両者は瞬時に警戒態勢を取り、全身に鳥肌を立たせた。


 レオンは敵が見えていない状況ながら、咄嗟の判断でレッグホルスターから細いアントナイフを引き抜き、偽宝部屋に投げ込む。軽い牽制だった。

 その後、異常事態に体が固まっているヴィミを抱きしめるように飛びつく。

 それと同時、彼女が立っていた背後の壁に三本の巨大な爪痕が生まれる。

 爪痕の大きさが成人男性と同じか、それ以上。明らかに六層の魔物が放つ威力ではない。


 墨汁が零れていくように地面が黒く染まる。

 水辺から泡が浮かぶように黒い液体が隆起し、毛が生えだした。

 耳と尻尾、四本の足、三本の爪、狼に似たマヅルが現れ、口が開く。何本もの牙と赤い舌が光ゴケの明りに照らされる。

 黒い液体は数秒もしない間に、シャドウウルフの形になった。


 このまま真っ直ぐ進むと広い空間、すぐに行き止まり。

 引き返そうにも通路を塞ぐほど大量のシャドウウルフが偽宝部屋から現れ、逃げ道がなかった。

 不意打ちを受け、ヴィミの一撃で塞がれた道に穴をあける隙もなかった。

 以前のロックアントに襲われた時より、状況が悪い。


 ――このままだと戦闘は避けられない。狭い通路で全方位から狙われるより、視界が広い空間で戦ったほうが勝機があるか。


 レオンはヴィミの手を握って走り、一二層のボス部屋に似ている広い空間に出る。

 背後を振り返ると真っ黒なシャドウウルフがとめどなく流れ込んでくる。


「ヴィミ、どうやら逃げさせてもらえないらしい。戦わないといけないみたいだ」

「さっきの攻撃、シャドウウルフじゃないわよね……」

「そうだね、あんな攻撃はシャドウウルフに出来ない。でも、上位種なら出来るかも」

「シャドウウルフの上位種って、中層よりさらに下の魔物なんじゃ……」


 ヴィミの顔が引きつり、白い肌は青白くなっていく。


 何十体ものシャドウウルフは低姿勢で走り、両者が会話するのを邪魔するように襲い掛かる。


 レオンはヴィミよりも先に動き、両腰のナイフホルスターから大きめのアントナイフを二本引き抜いた。

 シャドウウルフの攻撃を小さく回避し、カウンターの一撃で喉元を掻っ切る。

 黒い血が吹き出し、肉体は光の粒になりドロップアイテムと魔石が地面に落ちた。


 シャドウウルフは『力』と『俊敏』の値が高いが『耐久』はさほど高くない。そのためアントナイフの攻撃が十分通った。


「た、倒せる。ヴィミ、最悪の事態になる前に通常個体を多く倒しておこうっ」


 レオンは、シャドウウルフ数体から攻撃を受ける。だが、噛みつき、切り裂き、衝突など、非常に素早い攻撃を全て完璧に回避した。

 その都度、喉に刃先を突き刺し、首元を刃で掻っ捌き、脳天を穿つ。両手に握られているアントナイフの餌食にしていく。


「言われなくてもっ」


 ヴィミは鬱憤を晴らすように拳を振るい、シャドウウルフを突き飛ばし、岸壁に衝突させて倒していく。


 一体ずつならば、問題なく戦える。ただ、数が異常だった。


 ――いったい、どれだけいるんだ。六層に出現するシャドウウルフを全てかき集めても、これだけの数にならないでしょ。明らかにおかしい。


 ロックアントのように仲間を呼ぶ習性は、シャドウウルフにない。

 ただ、シャドウウルフの上位種のブラッドウルフならば、下位種を引き寄せる習性があった。


 ――ブラッドウルフがいるのは、下層の二五層以降のはずだ。なんで、そんな魔物が六層にいるんだ。訳がわからない。


 レオンは身の回りに飛び交う攻撃を『俊敏』の高さで無理やり回避し続ける。『器用』の恩恵で手もとが狂わず、急所を的確に攻撃できる。

 攻撃が通用する武器があるだけで、冒険者の戦闘職とそん色ないほど戦えた。

 魔物の大群の中でひたすら動き回り、鬼神の如く黒い瞳に光を宿す。


 ――ヴィミを守る、死にたくない、ヴィミを守る、死にたくない、ヴィミを守る、死にたくないっ。


 視界に映るシャドウウルフを手足のように扱えるアントナイフで確実に倒していく。

 その姿は、飛び回る羽虫を鎌のような手で摑まえるカマキリのよう。

 シーフとしての経験により、魔物が大量発生するモンスターハウスのような空間でも冷静さを失わなかった。

 野山、街中、どんな環境でも素早い動きを維持する、ずるがしこい鼠のような身のこなしで動き続ける。

 その間、敵の攻撃を一度も受けなかった。それでも体力は減り続け、敵の数は一向に減らない。

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