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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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支える

「ヴィミ、少し休憩しよう」

「……そうね」


 ヴィミは細い顎に伝う汗を手の甲で拭い、ゆっくりと立ち止まる。休憩といえど、その場に腰かけるわけにはいかない。


 レオンはヴィミの手を握り、以前見つけた宝部屋に足を運んだ。

 宝部屋の位置は変わらない。

 宝部屋は魔物がいないため、見つけた者にとっては絶好の休憩場所となる。


「つ、疲れた……」


 宝部屋に入ったヴィミは体から力を一気に抜き、壁に背を当て座り込む。

 全身に汗をかいており、気疲れている表情と熱のこもった吐息が妙に色っぽい。


 ――ヴィ、ヴィミがいつもより可愛く見える。


 レオンはヴィミから視線を反らし、目頭を揉みながら壁にもたれかかる。


「僕も疲れているみたいだ」

「最近、ずっと調子が良かったから、流れに乗って依頼を受け過ぎちゃったのが悪かったわね」

「ダンジョンの様子がおかしいのも原因としてあるから、ヴィミは悪くないよ。休憩したら、また、探しに行こう」


 集中力が伴う仕事は長時間続けられない。

 ヴィミが午前中で仕事を終えるのも、集中力が午後まで持たないからだ。

 長引けば長引くほど、直感も衰えていき、仕事の効率が悪くなる。


「にしても、宝部屋で休憩なんて、よく考えたわね」

「冒険者のころはよく使っていた方法だよ。ヴィミも冒険者だったなら、知っていると思っていたけど?」

「ぼ、冒険者だったのは数年前だから、忘れちゃってたわ……」


 ヴィミは視線を下げ、尻尾と耳をヘたらせる。

 貧民街で暮らす物乞いたちのように、未来が見えていない濁った瞳になっていた。


 レオンは彼女の隣にさりげなく座り直す。仲間の悩みを聞くのも仲間の務めだ。

 心に曇りがあると、仕事に支障をきたしかねない。


「ヴィミ、どうして冒険者を辞めたの?」

「べ、別に、レオンにはどうでもいいことでしょ……」

「どうでもよくないよ。今、僕はヴィミの仲間だ。仲間が辛そうな顔しているのに放っておけるわけがない」


 レオンはヴィミの手を握り、澄んだ瞳を彼女に向けた。

 真っ直ぐすぎる瞳に当てられたヴィミは目を丸くし、表情が緩む。


「はぁ、わかったわよ。言えばいいんでしょ」

「無理にとは言わないけれど」

「もうっ、はっきりしない男ねっ」

「ご、ごめん。ヴィミがあまりにも辛そうな顔していたから」

「あぁっ、もう、そういう不意な優しさも、体がくすぐったくなるからやめて」


 ヴィミは頬を赤らめながら、握られている手を振りほどこうとする。

 だが、レオンは彼女の手を放そうとしなかった。


 やがて観念したヴィミは小さく呟き始める。


「私が所属していた冒険者パーティーは私以外がインフィヌートの中に潜ったままなの。魔物に襲われて、皆が足止めしている間に足が一番早かった私だけ逃げて……、バルディアギルドのシグマさんを呼びに行ったわ。戻ったら、皆、いなくなっていた」

「そ、それって……、ヴィミ以外、もう」

「ええ、わかってる。わかっているわ、そんなこと。でも、まだ誰も見つかっていない。なら、どこかで生きているかも、しれないじゃない……」

「だから、救助隊になってまでインフィヌートに潜っているんだね」


 ヴィミは小さく頷く。その反動で目尻から垂れた滴が頬を通り、筋が生れた。


「話してくれてありがとう。安心して、僕はヴィミと同じ速度で逃げられるから、絶対に一人にさせないよ」

「うぅ……、だから、そういうの、うざいっ。鼻水のせいでにおいがわからなくなるじゃん」


 ヴィミは僕から視線を反らし、反対の腕で目元を擦る。鼻をすすり、何度か深呼吸した。


 ――ヴィミは仲間を助けるためとはいえ、戦わずに逃げてしまった自分が許せないんだ。少しだけわかる。逃げずに戦える強さを持っていたらと思ったことは何度もある。僕は彼女の心を軽くしてあげることはできないけど、仲間として彼女の心を支えることはできる。


 二〇分ほど休憩した後、ヴィミが先に立ち上がった。


「もうそろそろ、行きましょう。あと八枚の救助カードを見つけないと」

「そうだね。焦らず慎重にでしょ」

「わかってきたじゃない」


 両者は宝部屋から踏み出し、仕事を再開した。


 救助カードは冒険者が拾ってもお金にならない。

 無駄な行為は冒険者が嫌う性分のため、ほとんど拾われない。

 中には善意で拾う冒険者もいるが、他人の命を背負うという重圧があるため、無駄に体力を削られる。そのため、危険が伴う。

 冒険者ギルドは救助カードを冒険者が拾わないように忠告していた。

 いつもなら、救助カードが地面に置き去りにされているため、数時間移動していれば見つけられる。

 だが、残り四枚となったところで救助カードの場所がヴィミにわからなくなってしまった。


「あと四枚もあるのに、勘が働かないなんて、初めてよ……」

「一度、ウルフィリアギルドに戻って調べてもらったほうがいいんじゃない?」

「そうね、その方が確実だわ」


 レオンとヴィミは六層から出て、ウルフィリアギルドに戻り、残り四枚の救助カードがどこにあるのか調べてもらう。


「未だに六層にあるみたいだ」


 キアズは救助カードの反応を調べる魔道具を見ながら眼鏡を掛け直す。


「もしかすると、冒険者が救助カードを持っているのかもしれない」

「なるほど、その可能性はあるな」


 ヴィミでも、落ちている救助カードと誰かが保有している救助カードの区別は出来なかった。


「他の救助隊員に再度調べてもらう。六層を巡りすぎて疲れただろ、今日は休みなさい」


 キアズは、別の者を六層に向かわせる。


 今まで完璧に仕事をこなしてきたヴィミにとって、初の依頼未完遂になってしまった。

 ただ、今日はすでに一八枚の救助カードを見つけているため、大仕事をこなしたといっても過言じゃない。

 それでも、ヴィミの尻尾は床すれすれに垂れ下がる。


 ――仲間を慰めるのも仲間の仕事だ。


 レオンはヴィミの手を掴み、焼き肉屋に連れて行った。


「仕事を完璧にこなせなかったのに、焼き肉なんて……」

「はいはい、つべこべ言わずに食べて食べて」


 レオンは炭火で焼いたヴィミ好みの半焼けの牛肉を皿に盛っていく。

 腹が空いていたら、イライラする彼女の性格を鑑み、とりあえずお腹いっぱいになってもらう。


 ――大好きな肉を食べていたら心も多少軽くなるはず。


「仕事で失敗などよくあるよ。ヴィミが精一杯努力していたのは、僕が一番よく知っている。ヴィミの失敗は同じ仕事をこなしていた僕の失敗でもある。だから一人で背負い込まないで。報酬と同じで失敗の責任も半分こしよう。そうすれば、多少は軽くなるでしょ」

「……もう、上層の魔物も倒せないよわよわのレオンの癖に生意気」


 ヴィミは琥珀色の瞳をぼんやりと赤色にともっている炭火に向ける。その後、俯いていた視線を少し上げる。

 

「食べないと、肉が冷めちゃうよ」

「……食べる」


 ヴィミはトングを使って半焼けの牛肉に食らいついた。

 初めは重かったトングの動きが少しずつ軽くなっていく。それと比例して、彼女の暗かった表情も明るくなっていった。


 ――やっはり、小食のヴィミより、大食いのヴィミの方がしっくりくる。ヴィミも落ち込むときがあるんだ。こんな僕でも少しは役に立てたかな。


 レオンは肉を大量に食らうヴィミを見て、穏やかな笑顔を浮かべた。


「あと、四枚の救助カード、見つかってくれるといいんだけど」

「もし、移動しているのなら誰かが持っているってことだし、変わっていないなら、見つけにくい場所に落ちているのかもしれない。ヴィミの勘だけ頼るのは限界があると思う。見つけにくそうな場所を六層の地図を見ながら絞ってみよう」

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