ドリミアとパックス
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夜中、西大通りに立てられているバルディアギルド内の食堂で酒盛りしている『聖者の騎士』たちをよそに、人気のない酒場の中で酒を飲んでいる男が二人いた。
「まさか、あの数のロックアントから生き延びるとは。レオンくんが想定以上の速度で強くなっている」
ドリミアは眉間に深いしわを作りながら、握りしめていたジョッキの底をカウンターに叩きつける。
振動がジョッキに伝わり、エールの泡がマグマように吹き溢れた。
「でも、ただ速いだけじゃあ、今以上は強くなれないでしょ。鼠やゴキブリに才能を感じるって、俺としてはどうかしていると思いますけどぉ」
パックスはドリミアの愚痴を聞きながら隣で串焼きを頬張っていた。
手に持った一本の竹串を厨房の方に投げ、盗み食いしていた鼠を串刺しにする。
「『聖者の騎士』たちは順調そのもの。中層でも普通に生き残っていますぅ。そっちが失敗しちゃったってことは、まだ『聖者の騎士』に手出しできないってことかぁ。ダルシーが犯されている場面をカリーに早く見せてやりたいなぁー」
「私は何も失敗していないよ。今回は様子見だっただけさ」
ドリミアは笑顔だが、ジョッキの持ち手を握りしめる手の甲に血管が浮き上がっていた。
「あ、あははー。まあ、そういうことにしておきましょうかぁ」
パックスは両手を上げ、敵対の意思はないと腹を見せる犬のように話す。
「あぁ、そうそう。リンのパンツを盗もうと思っていたら面白い日記帳を持っていましたぁ。現代語訳を盗み見た限り『インフィヌート』の情報が書かれているみたいでぇ。出来る限り書き写しましたけど、書かれていたのが古語で全くよめなくてぇ。学園を首席で卒業したあなたなら、わかるんじゃないかと思いましてねぇ」
パックスはウェストポーチから手記を取り出し、ドリミアに手渡す。
ドリミアは手記をパラパラとめくる。すると固まっていた頬の筋肉が緩み、表情が明るくなっていく。
「これは面白い。こんな国宝級の品をリンちゃんは一体どこで手に入れたんだ?」
「さぁ、そこまでは。なにが面白いんですかぁ?」
「情報源は相当古いが、今でも十分使える。これなら今度は確実に殺せるはずだ。少々面倒臭いが……、致し方ない」
ドリミアは腕を組み、数分無言になった。指先で銀色の鎧をリズミカルに叩き、集中している。
「パックスくん、ちょっと頼みたいことがある。六層で人の血を大量に流させてほしい。ある程度たてば内部の雰囲気が変わるはずだ。そこからは私が受け持つ」
「まったく、自分の手は汚したくないんですかぁー」
「なにを言っているんだい? ダンジョンの中で血を大量に失うほどの大怪我を負うなど、よくあるじゃないか。死ぬのも日常茶判事だろう」
ドリミアはパックスにルークス金貨一枚を手渡した。
「はぁ、まあ、俺は女とえっちらおっちらやれれば別にいいんですけどぉ」
パックスは受け取ったルークス金貨に掘られた女王の横顔にキッスし、懐にしまう。
ジョッキを手に持った二人はエールの泡が波打つ強さで一度打ち付け合い、大きくをあおった。
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