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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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武器屋?

 千差万別の武器がある中で『力』の値が伸びる武器を探す。

 素早く取り出せて、身軽に戦えるナイフが理想だった。


「んんー、ぱっとしない……」


 ナイフは多くの冒険者が使う。そのため、品質はともかく種類が無数にある。

 ナイフを一番使うのはシーフだが、魔物との戦闘は戦闘職に任せる。戦いに利用するのは稀だ。

 そのため、大きな収入が見込めず、ナイフ作りを本職にしている職人が全くいない。

 その影響で、剣を作るついでに作りました感の強い品ばかりだ。


「ナイフを戦闘に使いたいですけど、剣よりもよく切れるナイフってありませんか?」


 レオンは武器屋の店主に話しかけた。


「何言ってんだ? ナイフで戦うくらいなら剣を使った方がいいだろ」

「剣は使い慣れていないので、ナイフがいいんです。剣よりも切れるナイフを作ってくれませんか?」

「あほらしい、こっちは忙しいんだ、さっさと帰んなっ」


 店主はレオンを店から追い出した。武器屋の誇りは一級品の剣であって、ナイフではない。


「鉄も切り裂けるようなナイフは売られていないのだろうか。北大通りにないなら、王都のどこにもないよな。どこかに物好きな武器職人がいるかもしれないし、もうちょっとだけ探そう」


 夕方からずっと武器屋を巡っていたレオンは、全部の店を回らないと気が済まなかった。

 月あかりが輝きを増すころ、照明が薄暗い店の前に来た。

 最後の店。開いているのか閉まっているのかすら判断がつかない。

 ただ、ガラス張りの奥に視線が吸い寄せられた。

 月明りを吸収するように光っている鈍色の品が展示されている。


「これだ……」


 レオンは商品を見て、口角を上げた。同時、腕に鳥肌が立つ。

 すぐさま店の扉を開けようとするが、閉まっていた。

 だが、店の中から明りが漏れているため、誰かがいるのは間違いない。


「すみません、ちょっとお話したいことがあるんですがっ」


 レオンは扉を強めに叩き、内部にいる者に声を掛けた。

 少しでも早く強くなるために出直すという選択肢はなく、何度か声をかけ続ける。

 すると、扉が爆発したように勢いよく開け放たれた。


 レオンは弾かれた玉のように転がり、身を石畳に横たわらせる。


「なんだ、冒険者か。また、嫌がらせでも言いに来たのか?」


 扉が閉められそうになり、レオンは咄嗟に扉を掴んだ。


 レオンよりだいぶ背の低いドワーフ族の者は、倒れていた彼がいきなり目の前に現れ、目と口をぱっくりと開ける。


「す、すみません。《アビリティ》の『力』の値が低くてもよく切れるナイフが欲しいんですけど、どこにも売ってなくて。あの包丁を打った方に冒険者用のナイフを作ってもらいたいんですけど」


 レオンはガラス張りの奥に展示されていた包丁を指さし、目の前のドワーフに早口になりながら伝える。

 ドワーフはしっかりと生えそろった白い歯が見えるほど空いていた口がふさがる。

 見開かれていた目も細くなり、三白眼のように威圧感が増す。


「……お前、焼き肉臭いな」


 ドワーフはレオンの顔をじっと見つめた。


「あぁ、すみません。昼間に焼き肉を食べたので」

「まあ、いい。さっさと入れ」


 ドワーフの男はレオンを店に入れた。

 店内は、料理人が使う様々な包丁が並んでいた。

 包丁の形状は剣よりナイフに近い。そもそも包丁もナイフの一種だ。ただ、冒険者らしさは微塵もない。

 それでも、剣同様、何ならそれ以上の切れ味がある。


 ――包丁職人に、戦闘用のナイフを作ってもらえばよかったんだ。


 着眼点は良かったが、問題は作り手がドワーフという点。

 少々小難しい職人気質の性格が多く、だれかれ構わず品を売る者は少ない。


 ドワーフはレオンを簡素な造りの受付の前に連れて行く。

 背は低いが、体格がずっしりとしておりブルドックを思わせる背中だった。


「包丁みたいなナイフが欲しいだなんて、ダンジョンの中で料理でもする気か?」

「いえ、そういう訳じゃありません……」

「俺は冒険者の武器を作る職人じゃない。だが、お前は追い払ったところで何度もやってくる面倒な奴の目をしてやがる。年食った分、人を見る目はあるつもりだ」


 褒められているのか貶されているのか、曖昧な所だがレオンは深く考えない。

 話を聞こうとする態度を示すだけ、目の前のドワーフは他の武器屋の店長より良心的だった。


 レオンが自己紹介すると、ドワーフは「エルツ」とだけ呟く。自分についての話はどうでもいいと言いたげた。


「《アビリティ》の『力』の値はどれくらいだ?」

「100未満です」


 エルツは顎に手を当て、首をひねる。

 レオンの『力』の値は新人冒険者並。


「お前からは新人冒険者特有のしょんべん臭さがない。新人じゃないのにその数値は、おそらく訳ありだ」


 レオンは大きく頷いた。


「なぜナイフを戦闘で使う必要がある。剣じゃダメなのか?」

「僕の職業がシーフで、剣だと仕事の邪魔になります。持ち運びが楽で、使い慣れたナイフがいいんです」

「シーフなら、戦う必要ないだろ」

「僕はどうしても強くなりたいんです。レベルを上げるには、魔物と戦うしかない。魔物を倒せる武器が必要なんです」


 レオンは拳を握り、エルツをまっすぐ見る。


 エルツは腕を組み、手入れされていない眉を上下に動かしながら、レオンの話に耳を傾ける。


「ナイフっつーのは、力を加えなくても切れる品のことを言う。力が必要なナイフはナイフとは言わない」


 エルツはにんまりと微笑んだ。

 職人気質のドワーフの血が無理難題で騒いでしまう。

 楽な仕事などくそくらえ、無理難題の方が燃えてしまう変態をドワーフ族などといったりするのは、彼らが実際に変態だからだ。


 頭のてっぺんからつま先まで、すべてがドワーフの遺伝子で構成されているエルツは並のドワーフ族ではない。

 久しぶりに舞い込んできた手ごたえのある話を断る理由はなかった。

 今、レオンの問題解決に必要不可欠な素材の名前を口にする。


「ロックアントの顎があれば、何とかなる。ただ、今の冒険者たちが腑抜け過ぎて、ロックアントの素材が枯渇していてな。普通に流通している品を買うと、めちゃ高い」

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