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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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お叱り

「これなら逃げ続けるより、倒した方が速いわね」


 ヴィミはレオンから手を放した。

 追ってくるロックアントの胸に【獣拳】を叩き込み、粉砕。

 通路の壁を足場に利用し、速攻で三匹を屠った。

 ロックアントの顎がドロップアイテムとして転がる。


「ヴィミ、他のロックアントたちは追ってきている?」

「ううん、大半が罠に引っかかってくれたみたい」


 レオンはその場で止まり、大きく息を吸って吐き出すと同時に脱力した。冷や汗が止まらず、手が少し震えている。

 両手をぎゅっと握りしめ、少しだけ笑った。

 走っている間力を入れ過ぎた結果、握力がなくなっていた。手を開くと血が指先に巡り、じんわりと赤みが増す。


 ――よかった、僕もヴィミも生きている。でも、なんで通路が塞がっていたんだろう……。不思議だ。


 両者は救助隊の使命を全うするため、生きてウルフィリアギルドまで戻らなければならなかった。

 多数の冒険者という情報しかないため、具体的な人数はわかっていない。

 ヴィミの鼻や耳は怪我人に反応しておらず、キアズに報告するために一度戻る判断を下した。


 両者は走って来た道を警戒しながら戻ると、罠の攻撃によって斃されたロックアントの魔石やドロップアイテムが通路の中に転がっていた。


「これ、中々いい報酬になりそうね。お金に困っている冒険者に魔物を大量に倒す方法として教えてあげたら喜ぶんじゃないかしら」

「こんな危険極まりない作戦、誰も真似しないよ」


 ロックアントの顎と魔石を拾い集めながら、冒険者たちが倒れていた広い空間に入る。

 ロックアントの群れは霧散しており、危険は去っていた。

 逆に、ご褒美といわんばかりに人間の持ち物やロックアントのドロップアイテムが落ちている。


「見て、魔法の袋が四袋も落ちていた」


 レオンは魔法の袋を掲げる。高級品が無償で手に入り、嫌でも表情が緩む。


「こっちは、財布がこんなに」


 ヴィミは一切悪びれることなく、財布を拝借していた。茹でたてのジャガイモのようにほくほくした顔で笑っている。


 ロックアントの顎や魔石を換金しやすいように麻袋を分けて入れていく。

 銀行強盗かと思うほど麻袋をパンパンにしてから魔法の袋に詰め込む。すると大量の素材を集めても、袋四枚分の重さで持ち運びができる。


 両者は素材の回収を終え、霧がかかっていた通路に向かう。

 通路は晴れていた。

 風が通り、塞がっていた状態が解除されていると確信を得てから進む。


 両者は『インフィヌート』を出ると、ウルフィリアギルドに駆け込んだ。


「二人共、無事だったか」


 ウルフィリアギルドで両者の帰還を待っていたキアズは、情報を聞くために二人のもとに駆け寄る。

 レオンはウェストポーチにしまっていた二〇枚以上の救助カードを彼に手渡した。

 あまりの数にキアズは、レオンの顔と救助カードを何度も見回す。


「誰も、救助カードを持っていない冒険者だったのか?」

「冒険者の数がはっきりとわかっていないので、それで全員かわかりませんけど、くまなく探しても市販の救助カードは見つかりませんでした」

「そうか……。まあ、市販の救助カードがダンジョン内で落ちていれば、連絡が来るはずだ。心配する必要はない。それにしても、二〇人以上が救助カードを持っていないとは、冒険者の癖に危機感がなさすぎる」


 キアズは肩に力を入れ、目を細めた。


「酔っ払いながら一〇層に行ける冒険者たちですから、持っていない方がおかしいと思います。でも、魔物に食われる前に間に合ってよかったです」

「ああ、そうだな。二人の足が速かったおかげだ。助かった」


 キアズはレオンにルークス金貨二枚とルークス銀板二枚を手渡した。


 あまりの大金に、レオンの体は手の平に氷を乗せているように震える。

 気持ちを少しでも軽くするため、ルークス金貨一枚とルークス銀板一枚をヴィミに素早く手渡した。

 その後、レオンはウェストポーチから魔法の袋を四袋取り出す。詰め込んだ麻袋を引き抜き、受付代に乗せた。

 木製の受付代が古びたベッドのように軋む。


 キアズは麻袋の口から少し出ているロックアントの顎を見た。額に冷や汗を掻き、表情が引きつる。

 レオンとヴィミを交互に見回した。


 二人が事情を説明すると、受付に静けさが訪れる。


 沈黙の数秒後、キアズの眼鏡に照明が反射した。

 その瞬間、レンズに稲妻のような罅が走る。

 巨大な入道雲から吐き出される雷のごとき速度で二人の頭にげんこつが落ちた。


「バカ野郎っ、何を考えていたんだっ」


 キアズは顔を赤くし、拳に血管を浮き上がらせながら叫んだ。

 普段、穏やかな人間が切れると、手の付けようがないほどの爆発が起こる。


 レオンとヴィミは罠を踏んで槍が降って来た時よりもぎゅっと抱き着き、涙目になりながらギルドマスターの変貌に打ち震えていた。


 キアズは危険行為を取った二人に指導という名の叱りを入れる。

 ただ、二人が無暗にロックアントの群れに突っ込んだわけではないと知り、頭に昇っていた血の気が少しずつ引いていく。


「逃げ道が塞がっていたからといって、ロックアントの大群に追われながら通路に突っ込むなど、博打にも程がある。まあ、今、生きているのはそのおかげなのかもしれないが、今回の指示は状況確認だったはずだ。今後はもっと慎重に行動するように。焦りは視野を狭くするからな」


 キアズのお小言が終わり、レオンとヴィミは解放された。


 すでに昼頃。

 両者とも長時間、床に座らされており、足が麻痺したように動きにくくなっていた。


 叱られている間に受付に提出した素材の鑑定が終わっていた。

 ロックアントの魔石が八〇個でルークス銀板八枚。

 ロックアントの顎が八〇個でルークス金貨八枚。

 魔石の方が取れやすいため、価格は抑えめ。


 ――ロックアントの顎が想像以上に高く売れた。利用価値があるってことか。それにしても、高すぎる……。

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