表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/65

逃げる

 同じ速度で走り、互いの得意分野を生かしきった二人は、五分足らずで霧の中を抜けた。


 白く濁っていた視界が一気に開ける。ボス部屋のように広い空間だった。

 地面に倒れ伏す冒険者の集団と、壁を埋め尽くすほど大量の魔物がいた。


 レオンとヴィミは互いに顔を見合わせ、アイコンタクトを取った。その瞬間、真剣な表情で大きく頷いた。


「おらああああっ、弾けろっ【獣拳】」


 ヴィミはロックアントと呼ばれる一〇層から現れる魔物の群れに突っ込んだ。

 岩壁を殴り、その反動で集団をばらばらに弾けさせる。


 ロックアントは胸が岩、それ以外は鉄の外骨格を持つ。

 耐久が非常に高く、生半可な物理攻撃は通らない。

 魔法を覚えている者がいて真面に戦える。

 近距離職業ばかりの冒険者パーティーで挑めば最悪の場合、壊滅する難敵だ。

 レオンは戦力外、ヴィミは近距離で戦うスタイル。真正面から挑むのは自殺行為に近しい。


 レオンは地面で血を流しながら倒れている冒険者たちを救助カードに入れていく。

 ロックアントに攻撃されそうな者から優先した。重症を負っている者ばかり。それにも拘わらず、初めから救助カードに入っている者はいなかった。


 ――一〇層に来られる冒険者たちが、誰も救助カードを持っていないなんてありえるのか?


 今は一刻も早く怪我人を救出する必要がある。無駄な考えは切り捨てた。

 目視できる者は全て救助カードに入れ、回収を終えた。


「ヴィミ、目視できる冒険者全員を救出完了。一時撤退するよ」

「わかった」


 霧がかかっている通路に戻ろうとすると、ヴィミがレオンの手首を力強く掴む。


「ここは駄目……、空気の流れがない。通路が塞がっている」


 ヴィミの耳は風の音を聞き漏らさなかった。


「なんで……、移動中に罠は一回も踏んでいないよ」

「知らないわよっ。でも、この通路は今、使えない。道は前だけ……」


 ヴィミの表情が険しくなり、手に力が入る。


 両者は排水溝に詰まった無数の毛のように存在しているロックアントに視線を向けた。

 今のところ推定二〇〇匹以上。

 ただ、この魔物の恐ろしい所は仲間を呼ぶ点にある。

 ロックアントの大群は一体のフレアリザード以上に脅威になる時がある。そのため群れに遭遇したら、逃げるのが得策だった。

 だが、逃げようにも、背後に逃げ道はない。


 ロックアントが近づいてくるたび、ヴィミの尻尾が下がる。

 彼女の綺麗な琥珀色の瞳が隅っこで尻込みしている子猫のように小さくなる。


 レオンは弱々しく縮こまるヴィミの姿を始めて見た。

 フレアリザードを一撃で倒す怪力、目にもとまらぬ速度を出す足、開けば愚痴しか出てこない口、Lv.2で自分よりはるかに強い同年代の女の子。

 だが、震える姿は普通の女の子と何ら変わらなかった。


 ――僕に、なにができる? 彼女の仲間としてなにができる?


 レオンにロックアントを倒す力はない。

 足が震える。それは戦っても勝ち目がない敵を見たら当然のこと。

 英雄なら、こんな状況簡単に覆す。だが、彼は英雄ではない。ただのシーフだ。


 ――仲間一人守れない男が、英雄になりたいとか、言えない。ここで止まっていたら、死ぬだけだ。


 レオンはヴィミの震える手を再度、力強く握った。

 迷子の女の子に手をさし伸ばす紳士の如く、迷いは一切ない。


「ロックアントは執着が強い。一度でも目を付けられたら、ずっと追ってくる。その習性を利用するよ」

「ちょ、まさか……」


 ヴィミは目を見開き、やけに男らしく顔が引き締まったレオンを見つめた。

 さっきまで震えていた体が止まる。下がっていた尻尾が少し上を向く。

 息を吸い、大きく吐き出す。一度目を閉じ、小さく頷いた。


「手だけは離さないでよ。レオンだけで逃げたら呪い殺すから」

「逃げられないよ。ヴィミの方が速いんだから」


 刃物同士を擦り合わせるような不快な音を鳴らしながらロックアントが威嚇してくる。


 レオンとヴィミの視線は前方の通路の入口に向けられていた。

 広い空間から狭い通路に入ってしまえば引き返すのは不可能。

 行き止まりに差し掛かれば死を覚悟するほかない。

 両者共に、この数のロックアントを一撃で葬れる広範囲攻撃や魔法を持っていない。

 ロックアントの仲間を呼ぶ連鎖が起これば、今いる個体の何倍にも増える。そうなっても、おしまいだ。

 詰む前に詰ませなければ勝負に勝てない。


 ヴィミが「【獣拳】」と叫びながら右拳を突き出すと、ロックアントの大群の間にバージンロードのような一本の道が生れる。

 左右、天井、どこを見渡してもロックアントしかいない。

 こんなバージンロードは嫌だ、と思う暇もなく、一瞬の隙に二人は迷わず突っ込んだ。


 ロックアントは金属の体にも拘わらず、移動が滅茶苦茶速い。この場にいる個体全てが通路に突っ込んだレオンたちを必要以上に追いかける。


 昨日、散々罠を探し回り、魔物を嵌め倒す練習を積んでいたレオンは、通路の中で罠の起動ボタンが光っているように見えた。

 全て迷わず踏み抜くと、槍が振り、落とし穴が現れ、鉄球が飛んでくる。全て発動する前に通り抜ける。


 片っ端から罠を踏み抜いていくと、長い通路の壁に魔法陣が展開された。鉄をも溶かしそうな熱さの炎が吹き出す。

 

 背後にいた大半のロックアントが鍛冶場の竈に入れられた鉄の如く燃え盛り、仲間を呼ぶ前に力尽きる。


「今ので、かなり減った……」

「でも、まだ数体が残っているわ」


 レオンとヴィミにぺったりくっ付いてきている数体が未だに振り払えなかった。

 迷路のように入り組んだ地形が多く、最高速度が思うように出せないのが原因だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ