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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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濃い霧

 この上になると、金額がつり上がる。レオンは合金の小盾で十分と判断し、購入した。

 合金の小盾を左腕に装備。少し重たいが、使っている武器がナイフのため、大した影響はない。


 ウルフィリアギルドに戻り、受付に設置されている魔道具に触れて〈ステイタス〉を確認してみる。


〈ステイタス〉

《アビリティ》

 Lv.1

 力:I52→I68 耐久:I43 器用:B745→B785 俊敏:S915→S965 魔力:I18


『力』の値が伸びている。だが『器用』と『俊敏』が想定以上に伸びすぎていた。

 このままでは《アビリティ》の合計値がフロックバックと離れ、値を上げられなくなる。

 次のレベル上げの魔物候補は初心者殺し。

 それはレオンにとって、レベル上げと自殺行為がほぼ同じ意味になる。


『俊敏』と『器用』の値を上げないように立ち回るのは、攻撃を躱すな、いなすなといわれているのと同じこと。

 痛みを伴うか、狂暴な魔物と戦うか、二択を迫られる。


 レオンは食堂で夕食を取り、桶に張られたお湯を購入。

 部屋に持って行き、綺麗な布をお湯で濡らして汗ばんだ体を綺麗に拭いた。


「たまには大きな風呂場に行きたいな。でも貧相な体をゴリマッチョだらけの風呂場で曝すのはなぁ……」


 筋肉質といえない体を撫でる。凹凸は少ないが、しなやかな筋肉がついていた。


「今の《アビリティ》の合計値が1679。フロックバックが1500だとすると、もうギリギリだな」


《アビリティ》の合計値が200ほど離れると、成長が見込めない。

 層を一つ下げて六層にいるシャドウウルフを倒すための推奨アビリティはEからD以上(400から500)。

 そこから、シャドウウルフの《アビリティ》の合計値は2000越えと予想できる。


 魔物の〈ステイタス〉も人間同様に個体によってさまざま。

 大きな成長を望むならシャドウウルフと戦わなければいけない。

 冒険者パーティーで戦うなら、全ての《アビリティ》が高くなくとも、それぞれが補えば勝てる。その分、経験値も当分される。


「レベルを上げるのが目的なら、魔物と戦う時は一人か二人が適当。おすすめはしないか……」


『冒険者論』にシグマがレベルを上げるために無理して何度も死にかけた体験談が生々しく書かれていた。

 レオンは、その過程を読み、血の気が引いていく。本を閉じ、決して無理だけはしてはいけないと心に刻む。

『インフィヌート』で体を動かし続けたため、すでに疲労困憊。早めにベッドに入り、朝までぐっすりと眠る。


 次の朝、二階の自室から一階の受付に移動した。

 多くの怪我人が救急搬送されてきた病院のように慌ただしい。

 あくびを噛み締めながら寝起きの頭を軽く叩く。


「レオン、今すぐ一〇層に行くわよ」


 ヴィミはレオンの手を掴み、引っ張りながらウルフィリアギルドを飛び出す。

 未だに状況を上手く理解できていない彼はとりあえずついて行った。


 二人は『落とし豚』に到着。


「そろそろ、状況を話してくれる?」


 レオンはヴィミから詳しい詳細を聞く。


「早朝から『インフィヌート』に潜っていた冒険者たち数十名が普通ではあり得ない数の魔物に遭遇し、壊滅的な被害を受けたらしい」


 大量の魔物が現れる現象をモンスターハウスという。

 一〇層からモンスターハウスが発生する確率が増し、冒険者たちを恐怖のどん底に陥れる。

 罠以上に厄介で、初心者からしたら死を覚悟する状況だった。


「冒険者の数が多いなら、モンスターハウスに対抗できたと思うんだけど」

「情報によれば、酔っぱらったまま皆で一狩り行こうぜって、軽い気持ちでダンジョンに潜っていったらしいわ」

「……それはやばいね」


 レオンも状況の悪さを『落とし豚』の中に入ってやっと理解した。

 ウルフィリアギルドの救助隊総動員で救助に当たる。その中でも最速の二人が、一早く状況を確認するよう、キアズから指示が出されていた。


 レオンとヴィミは一分一秒を争う緊急事態で、とろとろ歩いている冒険者たちの横を駆け抜ける。

 他の者たちが、追い越しに気付けない速度だった。


「これ、渡しておくわ」


 一〇層に到着後、ヴィミはレオンに三〇枚近い救助カードを手渡した。

 人を救助カードに入れてしまえば魔物から襲われる心配はない。

 瀕死に近い重症でも命をつなぎ止め、地上で助けられる可能性がある。


「私たちの足の見せ所よ」

「それは、腕の見せ所って意味?」

「そうともいう」


 ヴィミは露出された美脚を手で叩き、レオンを置き去りにする速度で駆け始めた。


 レオンは彼女が突発的に飛び出すと予測していたため、彼女の背中にぴったりとついていく。

 一瞬の判断で罠の箇所を見抜き、的確に指示を飛ばした。

 道が塞がれる罠に阻まれることなく、ヴィミの感覚が捉えた人の気配に向っていく。


「霧が出てる。こんな時に限って運がないわ」


 一〇層からダンジョン内の環境が刻々と変わる。

 特に霧は魔物の発見を遅らせ、罠の位置を誤認する可能性を高める厄介な状況だった。


「ヴィミは魔物に気を配って、僕は罠に集中する」


 レオンは霧の中ではぐれないよう彼女の手を一瞬で握りしめ、同じ速度で並走した。

 琥珀色の瞳が大きく見開かれている状況が霧の中でも見える。


 ヴィミは口角が少しだけ上がり、前を向き直した。


「遅れないでよ」

「ヴィミについていけるのは僕くらいでしょ」


 二メートル先も見えない霧の中、握り合っている手が命綱だ。

 手を離せば濃い霧の中で取り残され、互いの長所が生かしきれず、命の危険にさらされる。


「……ねえ、今、だれかいなかった?」

「え、何かいた?」

「気のせいかしら……」


 ヴィミは濃い霧の中で、背後に視線を向けた。だが、最優先事項は冒険者の状況を把握することだ。


「怪我人?」

「血のにおいやうめき声がないから、怪我人ではないと思うわ。この先のほうがずっと深刻よ」

「じゃあ、先に進もう」


 レオンの言葉にヴィミは小さく頷く。

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