レベル上げのために
レオンは同じ作戦を二回、三回とこなしていく。
冒険者たちがレオンとフロックバックの戦いを見て、こそこそと話し合っていた。
「フロックバックに時間かけすぎだろ」
「独りぼっちで冒険者活動しているなんて効率が悪い」
「あんなに攻撃しても攻撃が通らないって、弱すぎでしょ」
冒険者の弱い者を罵る風潮が、曲がりなりにも冒険者を二年続けていたレオンに降りかかる。
多くの者が初心者だったころの苦労を忘れ、まるで自分は初めから強かったと言わんばかりだ。
「気にしない、気にしない。イら立って下の層に潜っても痛い目を見るのは明らかだ」
『冒険者論』に周りの声ではなく、己の心の声にしたがえと書かれている。レオンはレベルを上げるため、本に書かれていることを忠実に守った。
「誑されるな。僕は威勢を張りに来たわけじゃない、レベルを上げるために来たんだ」
体力が許すまでフロックバックを討伐し続ける。
ただ、罠を使って一体ずつ倒すのは効率が悪かった。
それでも『力』の値を上昇させるために、うだうだ言っていられない。
五時間近くかけて八体ほどしか倒せなかった。
効率は悪いが、何もしないよりは《アビリティ》が確実に上昇する。
レオンは『インフィヌート』から出て、額に滲む汗を袖で拭う。冒険者特有の楽しさはない。
レベルを上げるため、ただただ単純作業を繰り返すだけ。単純作業を楽しいと思える者は少ない。
それでも、春の夜風が熱った体を冷ます。
「初心に返ったみたいだ……」
他の冒険者は魔物のドロップアイテムや魔石、宝部屋を探し回り『インフィヌート』の中で、楽しさと恐怖、達成感を混ぜ合わせた至極の時間を味わっている。
ただ、レオンは楽しんでいる冒険者たちが憎たらしいと思わなかった。
ヴィミとの救助隊活動で満足感を得ており、苦行に近い訓練もこなせた。
「これを続けていたらヴィミに少しでも追いつけるだろうか」
レオンはLv.2の者を数名見てきたが、その中でもヴィミは目を見張る実力を持っている。
冒険者だったら中層でさらに実力をつけ、Lv.3、Lv.4、と成長していく優秀な人材だとわかる。
あのフレアリザードを一撃で屠れる冒険者は中々いない。
今は『聖者の騎士』より身近にいる強者のため、わかりやすい目標になっていた。
「い、いつまでも女の子に守られているのはやっぱり悔しい……」
仕事中に魔物を倒すのはヴィミばかり。
レオンはいつも守られて、すでに男としての沽券を失っている。
同い年の女の子に守られるというのは、レオンにとって訓練をバカにされるより、ずっと歯がゆい現実だった。
レオンは夜遅くなる前に、地上に戻る。午後七時を過ぎても魔道具の明りが輝き、『落とし豚』の近くで星の光は見えない。
そんななか、日中は『インフィヌート』で働き、夜は酒屋をはしごする冒険者たちが三〇人ほど集まっていた。
「よし、皆。今日も飲み明かすぞっ」
「ちょっと~、ドリミアさん、勘弁してくださいよ~。そんなこと言われたら、乗っちゃうじゃないですか」
「そうですよ、そうですよ。それで、今日はどこのお店に連れて行ってくれるんですか?」
上級冒険者のドリミアと、他の冒険者たちが集団になって西大通り方向に歩いていた。
稼いだお金を使い、他の者たちと飲み交わす。その中で情報を交換し、ダンジョン攻略に役立てる。冒険者にとって大切な交流だ。
「まあ、皆、お酒が飲みたいだけだろうけど……」
レオンは陽気な雰囲気が漂う西大通りではなく、街灯の明りに照らされている静かな北大通りに向かう。
夜の時間帯でも、店は開いていた。
冒険者の武器を扱う店から、騎士の鎧を扱う店まで様々。
レオンが入ったのは、主に盾を専門に売っている防具屋だった。
フロックバックの攻撃を盾で受け止めれば、『耐久』の値が上がる。
今のままでは、攻撃を受けただけで致命傷になりかねないため、身を守る盾が必要不可欠だった。
「大きすぎると動くのに邪魔になる。重すぎても力がないから扱いにくい。小さな盾がいい。出来れば、シャドウウルフの攻撃でも問題ない耐久力がある品が欲しいな」
レオンは大型中型の盾を無視して、高級な皿を飾るように展示されてい小型の盾の前に立つ。
大型中型の盾に比べ、値段は大分落ち着いていた。
冒険者はパーティーを組むのが一般的。盾士は必ず一人はいる。そのため、他の者が盾を持つ場合が少ない。
需要が少ないと商品の数も少ない。小型の盾は五種類しかなかった。
木製の安い品から、希少金属を使った高級品まで。
たった五種類といえど専門店なだけあり、質のいい品が陳列されている。
レオンが盾を睨むように見つめていると、大男の店長が彼の肩を叩く。
「なんだ、兄ちゃん。小さい子がお好みかい? 盾士にしては珍しいな」
「い、いえ、僕は盾士じゃありません。『耐久』の値が低いので盾を使って底上げしようと思って。攻撃をいなせる小型の盾が欲しいんですけど、どれもいい品で迷っていました」
防具屋の店長はレオンの悩みを聞き、シャドウウルフの攻撃に耐えられる合金の盾を進めた。
値段はルークス銀板一枚で、今なら無理なく手が出せる。




