現代語訳
「リン、どうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないわよ。こっちが聞きたいわ。レオンが図書館にいるなんて思っていなかったもの」
リンは魔法使いのローブ姿ではなく、春を彷彿とさせる綺麗めな服装だった。
「中層攻略のために準備を念入りにこなしているの。体力の回復も兼ねて休みを取り入れたのよ。最近、中層で被害にあっている冒険者が多いってギルドマスターに言われてね」
「なるほど……。良い心掛けだと思う」
「で、レオンは何しているの?」
「調べもの中。宝箱から日記を見つけたんだけど古い文字で書かれているから全然読めなくて」
「へぇー、見せて見せて」
リンはヴィミと違って日記に興味津々だった。
古びた黒い日記帳を手に取ると、パラパラ捲り始める。すると、少しずつ顔が険しくなっていく。
「こ、これ……、やばいかも……。こんな古い時期の手記や精密な地図、情報は王都の学園の図書館にもなかったわ。大、大大大大発見かも」
「リンはその文字が読めるの?」
「完璧という訳じゃないけど、学園で古文の授業もあったからある程度読めるよ。家にある古語辞典を使えばもっと詳しくわかると思う」
リンは日記をぱらぱらと素早くめくり、流し見る。
「す、すごいっ。Lv.7のシグマさんが所属していた冒険者パーティー『奈落の番犬』が到達した六〇層よりさらに下の層の記録がある。現代の化け物たちがようやく到達した層より下の記録が載っているなんて奇跡よっ。英雄ルークスたちは、さらに下の層にもぐったと言われているけど、八百年以上前だから、真相は定かではないのに……」
リンは早口でしゃべりながらひまわりのような笑顔になり、古い日記に熱い視線を向ける。
「流し見ただけでそこまでわかるなんて、さすがリンだね」
「ふふふっ、もっともっと褒めてくれていいわよ」
リンはない胸を張って鼻高々にのけぞる。
「その日記の現代語訳をお願いしてもいいかな。お金はもちろん払うよ」
「いいっていいって、お金なんて。私たちの仲じゃない」
「でも……、無償はやっぱり悪いよ」
レオンはリンに肩を叩かれ、苦笑いする。
「無償が嫌なら、一つ質問してもいい?」
「うん。何でも聞いて。僕が答えられることなら、何でも教えるよ」
「じゃあ……、銀髪の虎人の女とどういう関係か、超絶詳しく教えてくれる?」
眩しかったリンの笑顔が質問と共に真顔になっていく。
レオンは隠す必要もないため、ヴィミとの関係を教えた。
「なるほど、ただのパーティーメンバーね。中層でデートしているのかと思ってた」
「……そんな人間はいないと思うよ」
リンの天然も相変わらずで、レオンは思わず突っ込んだ。
――リンのおかげで日記の解読に時間を取られずに済む。これでレベル上げに専念できるぞ。
彼は静かに握り拳を作った。
「ね、ねぇ、レオン、その、えっと、あの、もしよかったら……、この後……」
「じゃあ、リン、日記の現代語訳をよろしく。僕はレベル上げのために『インフィヌート』で訓練してくるよ」
レオンは椅子から立ち上がり、リンに日記を預けて図書館を吹き抜ける春風の速度で出て行った。
取り残されたリンは頬を風船のようにパンパンに膨らませ、涙目になる。
☆☆☆☆
レオンは午前中に発見した罠で魔物を倒す方法を再度試すべく『インフィヌート』の五層に潜っていた。
シーフの経験からどのような罠か、ある程度予想ができる。ただ、安全といい切れない。
どちらかといえば危険、いや、超危険。
シーフといえど、罠の内容まで完璧に当てるのは難しい。
魔物をおびき寄せたとして、罠が不発だった場合、返り討ちに会う可能性もあった。
それを考慮し、二重、三重と、罠の位置を確認しておき、場合に応じて機動させると決める。
生憎、足だけは速いため、罠から逃げられる自信はあった。
後は、周りに人がいないかしっかりと確認して準備完了。
「よし、フロックバックを何度も攻撃して倒しまくるぞ」
レオンは禍々しい魔物の前に躍り出る。
拾った石をフロックバックの体に当て、意識を向けさせた。
周りに他の魔物がいないのを確認した後、自ら攻撃を仕掛ける。
洞窟の内部を吹き抜けるつむじ風のように走り周り、フロックバックの体を数十回切りつけた。
フロックバックの体は相変わらず無傷。
ただ、レオンの移動速度が速すぎて、魔物の方が目で追えていない。
「よし、こっちだ、ついてこいっ」
レオンは把握していた罠がある位置までゆっくりと戻る。
フロックバックが自分の姿を見失わない速度で走り、拍子よく罠を踏み抜く。
壁に発生した魔法陣から幾千もの矢が射出され、フロックバックを針山に変えた。
レオンは矢が射出される前に別の通路に退避しており、無傷。
様子を見に戻ると、フロックバックはおらず『フロックバックの舌』が落ちていた。
「よ、よし。成功だ」




