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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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レベル上げ

 レオンは『インフィヌート』の五層にいた。

 洞窟に似た湿度の高い空気を吸い込み、肩を上下に動かす。

 普段なら無視して走り抜ける階層だが、ナイフを逆手に持った状態で立ち止まっていた。


「はぁあっ」


 レオンは微笑んでいるように見えるほど間抜けな表情で口を開けるフロックバックの体にナイフの刃を当てる。

 だが、柔らかいつるりとした皮膚を撫でただけで、傷一つ付かない。


 フロックバックは体長一メートルほどのカエルのような魔物。

 煙が渦巻いているような毒々しい模様が付いた皮膚が特徴的。

 他の魔物に比べたら温厚だが、音に近い速度で飛び出してくる長い舌の攻撃は鉄製の鎧や盾をへこませる威力を持つ。

 粘性のある柔らかい皮膚は刃物や打撃が通りづらく、初心者一人で討伐するのは難しい。


「ねえ、そんなことして何か、意味があるのー?」


 仕事終わりのヴィミが腕を組みながら右足で地面を叩く。

 お腹が減ってイライラしている様子だ。


「レベルを上げるために攻撃しているんだよ。少しずつ強くなろうと思って」


 フロックバックの口がふわりと開くと、ピンク色の舌が勢いよく射出される。

 レオンはナイフの刃を当てながら躱すが、柔らかい舌にもダメージが入らなかった。

 ナイフの切れ味は新品同様に近い。それでもフロックバックの『耐久』の値がレオンの『力』の値よりはるかに高いためダメージが一切通らない。

 ヴィミが付き添ってくれているため真正面から戦えているが、本来なら逃げ一択である。


「ダメージが入る魔物と戦えばいいのに」

「それが『器用』と『俊敏』が高いせいで、弱い魔物と戦っても《アビリティ》が全然上がらないんだよ」

「訳がわかんない。どうしてそうなるの?」

「《アビリティ》の値を上げる際、値に偏りがあるとレベル上げに悪影響が出ると『冒険者論』に書かれていたんだ。そもそも、《アビリティ》の合計値が近しい相手と戦わなければ値が増えないんだって」

「今のレオンの《アビリティ》合計値は?」

「1764。フロックバックと戦う際、冒険者に必要な平均アビリティがF(300)。つまり《アビリティ》のほとんどが300近くと仮定して、合計値が1500。僕のほうが合計値が高いんだけど、まだ成長できる範囲だよ」

「六層のシャドウウルフと戦えばいいのに」

「『力』の値が低すぎてフロックバックにも歯が立たないのに、シャドウウルフと戦えるわけないでしょっ」

「他人のレベル上げを見る趣味もないし、さっさと帰りたいんだけど。別に足が速ければ救助隊活動で困ることはないでしょ」

「そ、そうだけど……、レベルを上げて悪いことはないよ」

「なに、レベルを上げて冒険者に戻りたいの? 呆れた……、あんな職業、時間を無駄にするだけよ。さっさと諦めたら。その方が楽になれるわよ」


 ヴィミは壁にもたれかかり、視線を地面に向ける。

 レオンは返答できなかった。


「はぁ……、もう、知らない」


 ヴィミは背を向け、彼を置いて出口に向かう。

 その際、フロックバックの舌が彼女に飛ぶ。


「危ないっ」


 レオンはヴィミのもとに駆けつける。抱きかかえるように攻撃を躱させたところまではよかったが、その影響で罠の起動箇所を踏んだ。

 天井に魔法陣が展開され、長めの通路全体に槍が降り注ぐ。

 数秒もしない間に開けた通路が竹林のようになった。


 両者は槍を回避し、最終的に抱き着くような体勢になる。息が荒くなり、互いの視線がようやく合った。


 レオンは頬を赤らめながら視線を反らし、フロックバックに向ける。

 戦っていた個体の体に槍が突き刺さっていた。体が消滅するとドロップアイテム『フロックバックの舌』が現れる。


「わ、罠でも倒せるんだ」

「ちょ、ちょっと、いつまで抱き着いているの。はやく離れなさいよ」


 レオンはヴィミの体をがっしりと抱きしめており、キスできそうなくらい顔が近い。

 ヴィミも頬が赤く染まっていた。フレアリザードも平然と倒す彼女が、レオンに抱き着かれ、目を大きくし口を開いて動揺している。


「ご、ごめん。すぐにどくから」


 レオンは地面に刺さっている槍に手を伸ばし、引き抜いて足場を確保した。

 フロックバックの素材を拾いあげる。


「これで僕の《アビリティ》が上昇していたら……」


 レオンはウルフィリアギルドに戻り、すぐに受付に設置された魔道具に手を乗せる。


〈ステイタス〉

《アビリティ》

 Lv.1

 力:I50→I52 耐久:I43 器用:B740→B745 俊敏:S910→S915 魔力:I18


「しょ、しょっぱいけど『力』の値が上昇している。罠で魔物を倒しても、僕が倒したと判定されるんだ。でも『器用』と『俊敏』の値が大きくなるにつれて強い魔物と戦わなければならないのが難しいところだな……」


「まったく、ほんと散々な目にあったわ。強くなろうとするのは構わないけど、周りを巻き込まないで」


 ――それ、ヴィミが言う?


 レオンは口に出そうになったが、喉で塞ぎとめた。


「今度から気を付けるよ」


 救助隊の仕事でルークス銀板二枚、フロックバックの舌を売り、ルークス銀貨一枚を受け取る。

 ヴィミは昼食に向かい、レオンは図書館で日記の解読に時間を使う。


 ☆☆☆☆


 午後一時頃、使っていた机を叩く者が現れる。

 レオンが視線を上に向けると金髪の魔法使い、リンがいた。『聖者の騎士』がこの時間帯に『インフィヌート』に入っていないのは珍しいため、彼は首をかしげる。

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