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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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カッコウが鳴く朝に     :約1000文字

 ある日、どんぶらこ、どんぶらこ……と、大きな桃が川を流れていた。

 最初にそれを見つけたのは雉だった。軽やかに舞い降り、爪をしっかりと桃に立てて持ち上げようとする。だが、残念ながらびくともしない。諦めた雉は嘴で桃の表面をえぐるように削り取り、しばらく啄んでから飛び去った。


 次に見つけたのは犬。じっと流れを見つめ、陸に接近するのを待つ。そして、ここぞという瞬間に勢いよく噛みついた。そのまま引き上げようとしたのだが、力を込めすぎたせいか、桃は噛み千切られ、無念にも残りは流れていった。犬は仕方なく口の中に残った桃を食べ、恨めしそうに遠吠えを上げた。


 三番目は猿。こいつが一番惜しいところまでいった。両手で桃をしっかりと掴み、力いっぱい引き上げようとした。しかし、猿には荷が重すぎた。

 これは無理だと悟ると、せめてもの思いで腹いっぱいになるまで桃を貪り、最後は名残惜しげに見送った。


 桃を拾い上げたのは、川で洗濯していたおばあさんだった。

 桃はところどころ虫食いの跡のように欠けていたが、年寄りはそんなことでは動じない。おばあさんは桃を抱えて家に持ち帰った。

 おじいさんは桃を見ると、喜んで桃を押さえる役を買って出た。おばあさんは包丁を構え、慎重に切れ目を入れた。

 すると、奇妙な感触が包丁越しに伝わった。どうやら空洞のようだ。


「からっぽみたいだよ」


 おばあさんは怪訝そうにつぶやく。だが、それでも食べられる部分はまだたくさんあるだろうと、構わず縦に切り進めた。


 ――ギィ……ギギ……ギ……


 切れ間から奇怪な声が漏れた。

 二人はビクリと震え、顔を見合わせる。しかし、ここまできて確かめずに終われるはずがない。

 包丁をもう一押し――そして、桃が二つに割れた。

 すると、中から何かがゴロンと転がり出た。


 それは、赤子のようであった。


「ギ、ギィ、ギ……」


 薄ピンク色の肌は、毛を毟られた鳥のように血管が透け、ぷよぷよと湿り気を帯びていた。ところどころに猿のような毛が散らばり、肩には小さな翼、それもまだ羽が生えていないのが一つだけあった。

 顔は犬のように細長く、嘴を持ち、さらに無数の口と目が蠢いていた。

 ただ唯一、手だけは人間と同じ形をしていた。


 その手が、まっすぐに二人へと伸ばされる。

 おばあさんとおじいさんは、ただ呆然とそれを見つめることしかできなかった。

 だが、どこか別の川に流れた他の桃から生まれたものは、触れたものと同じ種族へと姿を変え、その小さな手を優しく握ってもらったことだろう。

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