誕生の物語 :約1000文字
ある日のことです。おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。
おばあさんは桃を拾い上げると、喜びのあまり「しゃあ!」「おらぁ!」と声を上げながらガッツポーズ。しわくちゃの顔をさらにくしゃくしゃにして笑い、白髪を振り乱して飛び跳ねました。
しかし、ふと、おばあさんの脳裏にある考えがよぎります。
上流に行けば、桃の木があるのでは?
もしそうなら、こうしてはいられません。もたもたしているうちに、桃が全部木から落ちて地面で腐ってしまうかもしれない……。そう考えたおばあさんは、慌てて駆け出していきました。
おばあさんは走り、走り、ひたすら走り続け、ついに桃の木を見つけました。
それは見事なものでした。大きく枝を広げ、たわわに実をつけたその様子は、まるで宝の山。おばあさんは目を輝かせました。
おばあさんは、その中でもひときわ大きな実に目をつけると、昆虫のようにガシガシと木を登り始めました。
「ひひひひ……」
不気味に笑いながら、枝に足を絡ませ、両手で実をがっしりと掴みます。
そして、揺らして、揺らして、力いっぱいもぎ取ろうとしました。
しかしです。実はあまりに重く、引っ張った反動でおばあさんはバランスを崩してしまいました。
「ふがあ!?」
そのまま、どさりと地面に落下し、実はおばあさんを見事に下敷きにしました。その結果、桃は無傷でしたが、おばあさんはぱたりと気を失ってしまいました。
やがて、おばあさんの腕から離れた実は坂道をゴロゴロと転がり――ポチャン!
川に落ちて、そのまま流れていきました。
さてさて、しばらくして目を覚ましたおばあさん。ぐらりと身を起こし、ぼんやりとあたりを見回すと……なんということでしょう。
桃の実はすべて地面に落ち、鳥や虫が群がっていました。
おばあさんは黄色い歯を剥き出しにし、怒りに震えました。
そして、ふと、あることに気がつきました。
自分が身を挺して守ったあの一番大きな桃がないではありませんか。
誰かが盗んだに違いない。
そんな考えが脳裏をよぎると、おばあさんは烈火のごとく怒り狂い、叫び出しました。
「返せ……返せええええええ!」
目を血走らせ、髪を振り乱し、山中を駆け回ります。
そうして、いつからかこの山には『山姥』が住むと言われるようになりましたとさ。




