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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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もうひとつの桃       :約1000文字

「どんぶらこ……どんぶらこ……ある日……おばあさんは……川で桃を……」


 と、その話はもういいだろう。聞き飽きたよ。桃太郎は優しいおじいさんとおばあさんに育てられ、やがてお供を連れて……ってな。

 よお、次は俺の話を聞いてくれるか?

 もうひとつの桃の話だ。そう、川を流れていった、ふたつ目の桃。

 おばあさんに気づかれることなく、寂しくどんぶらこ……どんぶらこ……。まあ、仕方ないよな。大きな桃を手に入れた直後に、まさかもうひとつ流れてくるなんて思わないだろう?

 俺はそのまま流され、やがて海へ。漂い続けた末に、ある島の浜辺へと打ち上げられた。

 腐りかけた桃の皮を突き破り、俺は産声を上げた。いや、雄叫びかな。

 雷鳴が轟き、激しい風雨が吹き荒れる夜。俺の声はかき消され、人間には届かなかった。そう、“人間”にはな。

 荒れ果てたその島に住んでいたのは、人ならざるもの――鬼。

 俺は連中に拾われ、大事に育てられた……なんてことは、あるわけがないよな。

 ああ、いじめられたさ。たっぷりとな。俺は鬼の子供たちにとって、絶好の教材だったのさ。人間に残酷な仕打ちをするための練習台。殴られ、蹴られ、食事は骨を齧るだけの日々だった。

 それでも俺は成長した。そして、ある日反撃に出た。鬼のガキ大将を滅茶苦茶にぶちのめしてやったんだ。

 これで認められる。そう思った。ここでは強い奴が偉いんだからな。

 でも、誰も褒めてくれなかった。俺が鬼じゃないから。

 それからは鎖に繋がれ、拷問の日々が続いた。

 だが、あるとき、誰かがこう言った。


「こいつを工作員に仕立ててやろう」


 それが、奴らの運の尽きだった。

 隙を見て、鬼の総大将の喉を切り裂いてやったのさ。

 でも、誰も褒めてくれなかった。

 みんな殺したからな。


 ……なあ、兄弟。よく来たな。

 俺がどんな姿に見えた? はははっ、まあ、鬼と見間違うくらいだから、ひどいもんだろう。それにしても、いきなり斬りかかってくるとはなあ……。

 だがな。ぬくぬくと育ったお前と俺じゃ、闘争本能ってやつが違うんだ。腹立たしいほどにな。

 ……それでも、俺たちは似ている。そうだろう? 桃から生まれたもの同士だもんな。

 俺がばあさんたちの元へ帰るよ。お前のこれまでの話を聞かせてくれてありがとう……ん? なんだ。静かだと思ったら、もう死んでいたのか。ははははっ、鬼用の拷問はちょっと厳しすぎたかな?


 桃から生まれた子が鬼を退治して財宝を持ち帰り、めでたしめでたし。

 はははっ、受けそうな話だ。

 まあ、いいよな? 俺だろうがお前だろうが、結末は変わらないし、終わり良ければ、細かいことや犠牲なんて、大して気にしないもんだろう?

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