受賞式 :約2000文字
とある町の大きな会場。この日、ここでは、ある大会の授賞式が行われていた。
それは唐揚げ。会場にずらりと並ぶパイプ椅子。その上に座るのは、全国各地から集まった唐揚げ専門店の店主たち。誰も彼も険しい顔で腕を組み、息を詰めて審査員長を見つめている。
賞の種類は金賞・銀賞・銅賞、そして特別賞。銅賞、銀賞の発表が終わり、間に特別賞を挟み、いよいよ金賞の発表。名前を呼ばれた者たちが壇上に上がるたび、会場には義理の拍手と落胆のため息が漏れた。
「発表は以上になります」
その瞬間――歓喜の雄叫びが会場に響いた。一人の男が勢いよく椅子から立ち上がり、両手を突き上げたのだ。
ざわめく会場。目を見開き唖然とする店主たち。
「馬鹿な……」
「ありえない」
「ただの目立ちたがり屋だ」
口々に囁かれる困惑の声。そして、ついに壇上の受賞者の一人が審査員長に詰め寄った。
「お、おい、まさか、あいつは賞をもらっていないのか?」
「はい」
「何も?」
「ええ、彼は今回、何も受賞していません」
会場が一気にどよめいた。さらに他の金賞受賞者たちも怒りに駆られ、審査員長に掴みかからんばかりに詰め寄る。
「ありえない! 金賞の発表だけで一時間近くかかったんだぞ!」
「そうだ! 銀賞と銅賞はさらに多いし、特別賞もある。どんなに不味かろうが奇抜だろうが、何かしらの賞がもらえるのはこの大会に限った話じゃないぞ!」
事実そうであった。今や世は空前の賞レース時代。食品から工芸品まで、あらゆるもののコンテストが乱立していた。だが、金賞だのグランプリだの言ってもそれは建前で、時代の流れ、あるいは利権からか誰でも必ず賞がもらえるシステムになっていた。
しかし、みんながもらえるとなると、人目を引かない。大会に参加したのに賞を取れなかった店こそ、注目され、客が殺到するのだ。
それを知る店主たちは、いかにして受賞を回避するかに知恵を絞った。わざと不味い唐揚げを作ることは序の口。
市販の冷凍食品をそのまま出す。
虫で作る。
毒をほんの少し混ぜる。
審査員を脅す。
賄賂を贈る。
フライドチキンを作る。
しかし、それらはすべて特別賞として評価されるなど、結局は何かしらの賞が与えられ、夢は散っていった。
どんな方法を使っても、賞から逃れることは不可能。死角なし。それなのに、なぜあの男だけが何も受賞しなかったのか。店主たちは審査員長に問いただした。
「なぜだ! どんな手を使ったんだ!」
「あ、まさか、空の皿を出して『これは馬鹿には見えない唐揚げです』とでも言ったんじゃないか? 食えないから審査できずに落としたんだろう。くそっ、俺もやろうか迷ったんだ」
「いいえ、それをやった人は特別賞の『裸の王様で賞』を受賞しています」
「じゃあ、あいつは何をやったんだ?」
「彼は……」
審査員長は少し口ごもり、こう言った。
「彼は宇宙人なんです」
店主たちは呆気に取られた。会場は静まり返り、あるのは空気が切り裂かれたような音のみ。それは店主たちが一斉に息を吸い込んだ音だ。そして、「何を馬鹿な!」と怒号を浴びせようとした、そのときだった。
――バリバリバリッ!
まるで、揚げたてサクサクの唐揚げにかぶりついたような乾いた音が響いた。
だが、破れたのは唐揚げの皮でなく、男の皮膚だった。
突如、まるで興奮のあまり服の脱ぎ捨てるかのように、歓喜の男が自分の皮膚を破り、その内側から人ではない何かが現れた。
その姿を目にした瞬間、怒号は喉で詰まり、吸い込んだ空気はただ漏れ出た。
「……えー」
静寂の中、審査員長が咳払いをして続ける。
「彼は他の星から参加されたそうです。『遠路はるばるようこそで賞』か『辺鄙なところで賞』を差し上げるべきではないかと議論もあったのですが、やはり、行ける距離に、地球に店舗を構えていない以上、受賞資格はなしと……」
これを聞き、海外からの参加者たちがうなだれる。わざわざ南極や崖の上に店を作った努力は無意味だったのだ。
「やられたな……」
受賞者の一人が呟き、悔しさに唇をかみしめた。
だが疑問が浮かぶ。
アイツの喜びようは何だ? 受賞が目的でないのなら、なぜ地球に? ……まさか、アイツの星でも同じようなことが起きているのか?
そうだとしたら、奴はこの結果を持ち帰り、『受賞しなかった』という透明な勲章を掲げて、店を繁盛させるのだろう。しかし……そこまでしなければならないとは……。
狂喜乱舞する宇宙人を前に、受賞者たちは手にしたトロフィーをただ恨めしそうに見つめることしかできなかった。




