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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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運命            :約1000文字

 穏やかな日差しが降り注ぐ道路。電線では鳥たちがチチチと楽しげにさえずっている。どこにでもある、だからこそ素晴らしい、平穏な朝の光景。


「はふ、ふあ、はあ!」


 そこへ、口にパンをくわえて全力疾走する女子高生が加わる。鳥たちは驚いて飛び去り、通行人たちは思わず笑みをこぼした。


「ふぐっ、ち、ちこひゅ、ちごく、遅刻しちゃう~!」


 そして、少女が角を曲がった、その瞬間――ドンッ!


「あっ! ……いったあ。もう、誰……あ、うちの制服だ。でも、見ない顔……え、嘘。まさか転校生? これ、あの王道展開!? ついに、え、あ、そうだ! ちょっと、アンタどこ見て歩いてるのよ! これでよしと、え、てか、嘘、マジ? あ、ち、遅刻遅刻~!」


 彼女は、ぶつかった相手にそう捲し立てると、また慌てて走り始めたのだった。その口元にパンくずと、期待に満ちた微笑を浮かべて。


「メグ、恵? どうしたの?」


「え、ああ、ううん、なんでもないの。ちょっとね」


 教室。彼女は前の席の友人に含みのある笑みを向けた。


「なにー? 朝ごはん食べてくるの忘れた? ふふふ、なんてね。わかってるよ。メグも噂聞いたんでしょ?」


「え? 噂?」


「転校生っ。うちのクラスに来るらしいよ! それも男子!」


「へ、へえぇぇー!」


「あれ? 嬉しくないの? あ、緊張してるんでしょ。ふふふ、そうだよね。メグ、ずっと運命的な出会いをしたいって言ってたもんねえ……」


「えー、そんなに言ってたかなあ」


「言ってたじゃん。席だって先生に言って二人分確保してるけど、実はそれ転校生に隣に来てもらうためでしょ? すごいなあ」


「ま、まあね、あはははは」


「あ、先生来たよ」


 教室に入ってきた担任は、ふーっと息を吐くと、前を向き言った。


「あー、おはよう。さて……このクラスに転校生がくるわけなんだが……まあ、どうぞお入りください」


「ついに来るよ、メグ! え……あれが転校生? あ、え? あの見た目……」


 教室に入ってきた転校生たちの姿に、クラスがざわめいた。先生はそれを制しながら、転校生にとりあえず自己紹介を促す。転校生は大きく咳き込みながら言った。


「お、小川……しゅ、修斗ゴホッ! ゴホゴホ! です……」


「おお、だ、大丈夫か?」


「ええ、大丈夫です……」


「えー、ちなみに席は、ああ、大森の隣しか空いて、空いてー……ないな。うん、仕方ない。そこに――」


「……さっきの」


 転校生がゆっくりと腕を上げ、指を伸ばした。先生が「ん? どうした?」と訊ねる。彼は怒りをにじませながら言った。


「あれがさっき、僕に……僕にぶつかってきた女です!」


「え、メグ?」


「あ、え、あ、あ! 今朝の、わ、私のパンツを見た変態男!」


「それは言いがかりです、刑事さん」


「ああ、だが認めたも同然だ。現場に落ちたこのフランスパンは君のものだね? 傷害罪、いや、保護責任者遺棄致傷罪だ。さあ、君はもう病院に行きなさい。気持ちはわかるが、いや、本当にひどい怪我だ……」



 ――運命からは……逃れられないのね。


 刑事と警官たちが近づく中、大森恵はその巨体を震わせ、ただ涙したのだった。

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