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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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24/709

ある町の人々        :約1500文字

 その青年はいくつもの紙袋やビニール袋を抱えてふらつきながら歩いていた。

 足下がおぼつかないほどの荷物。中には野菜や果物、生活雑貨がぎっしり詰まっている。何もそこまで買い込まなくてもと思うかもしれないが、これらは青年が買ったものではない。もちろん盗んだものでもない。すべて、人からもらったものだった。

 今も、一人の主婦らしき女性が青年に近づいてきて「よかったら、これどうぞ」と言いながら、スーパーの袋を差し出した。

 青年は苦笑しつつ礼を述べ、それを受け取った。断りきれず結局もらうことになるのはわかっていた。いつもそうなのだ。この町に越してきてからというもの、毎日こんな調子だ。出歩くたびに、面識のない人が自分の持ち物を差し出してくる。断ろうとすると、しつこく食い下がられ、中には泣き出す者もいるくらいだ。

 なぜ物をくれるのか理由を尋ねても、はっきりとしない。皆、口を揃えて「なぜか渡したくなる」としか答えないのだ。青年がどこの誰かも知らないのに。特別美形でも、気の毒に思うほど貧乏そうな見た目というわけでもない。

 どうも気味が悪い。わかっていることは、金銭や高価なものはくれないことと、全員がくれるわけではないということ。

 この町に来る前はこんな経験をしたことはなかったし、他の町に行ったときも起きない。この町に何か秘密があるのは明らかだが……。


「いいじゃないか、同じアパート暮らしの俺からすれば、羨ましい話だぜ。毒が入っているわけでもないんだろ?」


 ある夜、飲み屋で青年がこの話を友人にすると、友人は軽く笑い飛ばした。


「まあな。実際少し、いや大いに助かってるよ。でもやっぱり気味が悪い。見ず知らずの人がくれるんだぞ。それに、お返しも受け取ってくれないしさ」


「それがいいんじゃないか。余計な気遣いがいらないってことだろ。素直にラッキーだと思ってありがたくもらっとけよ。自分のファンだと思えばいい」


「いや、そんなふうには思えないよ……。いつか何か悪いことが起きる気がする。ある日突然、『今まで渡したものを返せ!』って詰め寄られるとか……」


「はははっ、考えすぎだろ。まあ、あまり気にすんなよ」


 何も進展はなかったものの、話したことで少しだけ気が楽になった青年は、飲み屋を出て友人と別れ、駅に向かって歩き出した。軽い足取りだったが、駅に近づくにつれ、緩んだ頬とともにぎこちなくなっていく。もともと、慎重な性格なのだ。友人のように楽観的にはなれない。

 ため息をついたとき、露店を開く怪しげな老婆に呼び止められた。店先の看板を見ると、どうやら占い師らしい。


「お兄さん、どうだい? 寄っていってよ」


 よほど悩んでいると思われたらしい。青年は一瞬顔をしかめたが、ちょうどいい機会だと思い直し、老婆に近づいた。


「ちょっとわけがわからないことがあって……解決できるかな?」


「どうだろうねえ。私は人のご先祖様を見るのが得意なんだよ」


「先祖か……まあ見てもらうか。金に余裕はあるし、立派なのを一つお願いしますよ」


「あい、わかった」と老婆は言うと、目を閉じて何かを念じ始めた。


「……あんたの先祖は盗賊だね。今の地名で言うと、大蔵町で活動していたみたいだ」


「盗賊? はははは! まさか!」青年は笑った。「盗賊が先祖とは、皮肉な話だ。それも今、おれが住んでいる町でさ」


「まあ、慌てないで。盗賊は盗賊でも、これは義賊だね」


「義賊?」


「そう、暴君とも言うべき殿様や地主から金を奪い、貧しい人々に分け与えていたのさ」


「ほー、そうだったのか。弱者の味方とは悪くないな。あ、もしかすると、おれに物をくれる人たちは、先祖に救われた人々の子孫なのかもしれないな」


 どこか腑に落ちた気がし、すっかり気分を良くした青年は、家路を鼻歌交じりに歩き始めた。


 これからは気兼ねなく物を受け取ってもいいのだ。いや、彼らのためにもそのほうがいい。……しかし待てよ。

 本当にあの町の人々がおれの先祖に救われた人の子孫だとしたら、当然、おれの先祖に金を奪われた側の子孫もいるわけで……。

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