ある町の人々 :約1500文字
その青年はいくつもの紙袋やビニール袋を抱えてふらつきながら歩いていた。
足下がおぼつかないほどの荷物。中には野菜や果物、生活雑貨がぎっしり詰まっている。何もそこまで買い込まなくてもと思うかもしれないが、これらは青年が買ったものではない。もちろん盗んだものでもない。すべて、人からもらったものだった。
今も、一人の主婦らしき女性が青年に近づいてきて「よかったら、これどうぞ」と言いながら、スーパーの袋を差し出した。
青年は苦笑しつつ礼を述べ、それを受け取った。断りきれず結局もらうことになるのはわかっていた。いつもそうなのだ。この町に越してきてからというもの、毎日こんな調子だ。出歩くたびに、面識のない人が自分の持ち物を差し出してくる。断ろうとすると、しつこく食い下がられ、中には泣き出す者もいるくらいだ。
なぜ物をくれるのか理由を尋ねても、はっきりとしない。皆、口を揃えて「なぜか渡したくなる」としか答えないのだ。青年がどこの誰かも知らないのに。特別美形でも、気の毒に思うほど貧乏そうな見た目というわけでもない。
どうも気味が悪い。わかっていることは、金銭や高価なものはくれないことと、全員がくれるわけではないということ。
この町に来る前はこんな経験をしたことはなかったし、他の町に行ったときも起きない。この町に何か秘密があるのは明らかだが……。
「いいじゃないか、同じアパート暮らしの俺からすれば、羨ましい話だぜ。毒が入っているわけでもないんだろ?」
ある夜、飲み屋で青年がこの話を友人にすると、友人は軽く笑い飛ばした。
「まあな。実際少し、いや大いに助かってるよ。でもやっぱり気味が悪い。見ず知らずの人がくれるんだぞ。それに、お返しも受け取ってくれないしさ」
「それがいいんじゃないか。余計な気遣いがいらないってことだろ。素直にラッキーだと思ってありがたくもらっとけよ。自分のファンだと思えばいい」
「いや、そんなふうには思えないよ……。いつか何か悪いことが起きる気がする。ある日突然、『今まで渡したものを返せ!』って詰め寄られるとか……」
「はははっ、考えすぎだろ。まあ、あまり気にすんなよ」
何も進展はなかったものの、話したことで少しだけ気が楽になった青年は、飲み屋を出て友人と別れ、駅に向かって歩き出した。軽い足取りだったが、駅に近づくにつれ、緩んだ頬とともにぎこちなくなっていく。もともと、慎重な性格なのだ。友人のように楽観的にはなれない。
ため息をついたとき、露店を開く怪しげな老婆に呼び止められた。店先の看板を見ると、どうやら占い師らしい。
「お兄さん、どうだい? 寄っていってよ」
よほど悩んでいると思われたらしい。青年は一瞬顔をしかめたが、ちょうどいい機会だと思い直し、老婆に近づいた。
「ちょっとわけがわからないことがあって……解決できるかな?」
「どうだろうねえ。私は人のご先祖様を見るのが得意なんだよ」
「先祖か……まあ見てもらうか。金に余裕はあるし、立派なのを一つお願いしますよ」
「あい、わかった」と老婆は言うと、目を閉じて何かを念じ始めた。
「……あんたの先祖は盗賊だね。今の地名で言うと、大蔵町で活動していたみたいだ」
「盗賊? はははは! まさか!」青年は笑った。「盗賊が先祖とは、皮肉な話だ。それも今、おれが住んでいる町でさ」
「まあ、慌てないで。盗賊は盗賊でも、これは義賊だね」
「義賊?」
「そう、暴君とも言うべき殿様や地主から金を奪い、貧しい人々に分け与えていたのさ」
「ほー、そうだったのか。弱者の味方とは悪くないな。あ、もしかすると、おれに物をくれる人たちは、先祖に救われた人々の子孫なのかもしれないな」
どこか腑に落ちた気がし、すっかり気分を良くした青年は、家路を鼻歌交じりに歩き始めた。
これからは気兼ねなく物を受け取ってもいいのだ。いや、彼らのためにもそのほうがいい。……しかし待てよ。
本当にあの町の人々がおれの先祖に救われた人の子孫だとしたら、当然、おれの先祖に金を奪われた側の子孫もいるわけで……。




