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第19話 印章士の血統

「どうぞ召し上がってください。

 ウチのオリジナルチーズをふんだんに使った料理です」



 雲に紛れた太陽が十五の刻に位置する中、少し遅めの昼食会が開かれた。



 やけに縦長に広い会議室かガチ貴族の食卓にしかなさそうなテーブルに案内ている。



 別にみたことないわけじゃないが、うーん緊張する。

 セツナも割と固まってるなぁ。

 


 運ばれてきたのはお上品な白いソースがかかった肉のソテー、温野菜とイモのポタージュ、ふんわりとしたミルクパン。



 香りはチーズの独特な臭みと塩気を湯気の中に孕んで俺たちの鼻を刺激する。



 今日は午前中から荒事が多かったからちょっと疲れた……しかしこれはガッツリ食べるというより歓迎の席って感じだし、あんまりリラックスはできない……



 しかも縦長の1番奥にはフェリックスが座っているが、俺たちの真向かいにいるのはロザリアとクリスティナである。



 二人とも余計なことは余り話さないって雰囲気だし、顔が笑ってないし。



 セツナはさっきまでクリスティナと話していて、多分向こうからも事情を聞いているだろう。



 この後のことはどうなるか分からないけれど、セツナがクリスティナがどうしたいかを聞き出せていればいいんだが……。



 そう思いながら彼女の方にチラリと目をやる。



 すると、セツナはその所作こそ丁寧ながら昼食を頬張っていた。



 緊張していないのか、と少し驚いたがその疑問はすぐに解決する。



 セツナは、顔では楽しそうに飯を食べている。しかしその目は、クリスティナに向いていた。



 クリスティナの瞳には、もうギルドに訪れた時のような輝きは無い。



 それは同時にフェリックスの、クリスティナにとんでもない決定を下した時のどこか濁った眼に似ている気もした。



「……アラタさん」



「へ?」



「あまりお嬢様にそんな熱の入った視線を向けないでください。

 私も"妬いてしまいます"」



「お、おう……」



 ロザリアがふと俺に話しかけた。



 けどいや妬いてるって眼じゃないじゃないですか。



 それは最早妬いてるというか焼いてやるって感じというか、その両手に持ったナイフとフォークの切先を俺に向けてるんでは? と錯覚するほどの圧が飛ばされている。



「ふむ、だいぶ打ち解けているようで良かった。

 戦わせてしまったから、少し心配していたが……そこは流石印章士、荒事は慣れていると言ったところなのかな」



「は、ははは……えぇまぁ……そう、ですね……」



 フェリックスの言葉につい乾いた笑いになってしまう。



 それは一体ロザリアの圧に気づいて冗談で言っているのか、素で言っているのか果たしてどっちなのか。



 そんな生返事をしていると、フェリックスはさらに続けた。



「さて、アラタさんにセツナさん。

 色々とトラブルが起きてしまって大変失礼をしてしまっている現状だが、改めてここで確認させて欲しい」



「確認……それは、婚姻の話ですか」



「そうだ。つい先ほど確信したに至るのだがね、この牧場の経営者となり後を継ぐのはロザリアにしたいと思っている」



「え、えぇ。そう言ってましたね」



「私が強い印章士を求めていたのは、我がアオザホースの後継により高い魔法適正と技能水準を確保する人材を求めるため。


 そしてロザリアが先ほど使った、アオザホース流治癒魔法は、毒属性と鋼属性を主属性とする物なのです」



 毒と鋼。どちらも身体強化や弱化に長ける属性である。



 恐らくロザリアの戦闘スタイルもこの流派の応用なのだろう。



 俺の槍を喰らってマナの流れを斬りつけられてもなお立ち上がり、反撃をするだけの余力が残ってるというタフさは、その二つの属性からくるものなんだな。



 さらに言えば、毒属性と鋼属性はお互い相殺の関係にある属性だ。



 ロザリアは印章士としてはかなり実力のある方だと言っていい。



「貴方の魔法が恐らく毒属性であると、ロザリアから聞きました。

 私としても、願ったり叶ったりなのです。

 しかしもう一度チャンスをいただけるなら、ぜひウチのロザリアと結婚してはもらえないだろうか」



「……条件が一つ」



「??なんでしょうかな?」



「ロザリアと娘さんの二人と、もう一度話がしたい。

 彼女たちの、間に何も挟まらない素直な気持ちが知りたいのです」



「ふむ……それもそうですな。

 よし、ロザリア。後の時間は牧場の案内をしてあげなさい」



「かしこまりました」



 無表情のままロザリアが返す。



 今回の事態に関して、少なくとも俺はロザリアがそれを望んでないことを知っている。



 そして同時に、クリスティナの立場もだ。



 今回の依頼主は彼女である以上、俺はクリスティナがどうしたいかを大事にしたい。



 大変美味しく、それでいて緊張感で味覚がどこかへ吹っ飛んでしまうような昼食を終え、俺たちは二人のと共に牧場を見て回ることになった。



 ……とりあえず、クリスティナと話をしなければ。

 彼女のような行動力の塊が極化回路にかかっているというのなら、余程辛い思い出には違いないだろう。



 しかし、それ以上にクリスティナに何も聞かないでフェリックスの願いに答えを出すのは、俺自身が納得出来なかった。



 先ほどの言動からしてロザリアだって協力してくれるはず。

 さて、上手いこと収まるといいが………

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