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第17話 アオザホース流医療術

「なっ!?」



「! しまったッ」



 激突の直前、ロザリアと2人で声をあげてしまう。



 突っ込んできていたのは、遠くにいたはずの一頭のブルだった。



 くそっ、集中し過ぎて周りを見てなかった。



 もうお互い拳は振りかぶっている────!!!




ドォッ!!!




 深く重く衝撃が走る。



 俺も彼女も精一杯軌道はズラした。

 しかしブルの身体にその勢いはぶつかり、本来倒すべき相手に打ち込まれる筈だったマナがブルに流れてしまう。



 ブルとは、体長3メートル近い四足歩行の魔獣。



 筋骨隆々で穀物と青草を好む草食。

 肉の味もよく雌は乳も出すし、車引きとしても重宝されるから畜産魔獣の最大手となっている。



 そしてそのコアの位置は額にあるツノの付け根だ。



 ブルがびくりと震え、そのまま通り過ぎていく。



「いっつつ……」



 ぶつかった反動で少し飛ばされてしまい、身体を確かめながら辺りを見た。



 すぐ横で、飛び込んできたブルは苦しそうに倒れている。



「いけない……!!!」



 同じく吹き飛ばされ離れたところにいたロザリアが、青ざめた顔でブルに駆け寄っていった。



 急いでブルの方に行ってみる。

 彼女は慣れた手つきでぜいぜいと息をするブルを撫でながら触診しているようだった。



 この状況を見るに、決闘は一旦中止でいいだろう。



 彼女らからすれば大事に育てている商売道具であり、ともすれば家族のように思っているかもしれない。



 さっきまで戦闘でマナが熱く流れていた身体が落ち着いてきて、段々と気が重くなってきてしまう。



「す、すまん……この子は大丈夫なのか?」



「静かにしていろ、今診ている」



「は、はい……」



 うっ、ちょっと食い気味に言われた。



 凄い剣幕だし話しかけにくいな……見守るしかないか。



 見たところ傷は無かった。

 だが問題なのは俺たちが2人とも毒属性使いで、その能力も外傷というより内側にダメージを与えるタイプだということだ。



 俺の魔法は、魔法そのものと"魔獣のコア"にダメージを与えるように作られている。



 彼女の魔法は俺が感じている倦怠感からくるように、肉体に蓄積ダメージを与えていく魔法が使われている筈だ。



 だとすれば、健康な体づくりがすなわち商売────その子の価値に直結する畜産魔獣にそれをぶち当ててしまったのはかなり不味いと言えるだろう。



 魔獣騎兵の部隊と戦った時を挙げる場合でも、魔獣を先に落とすのがもっとも良い戦術だと教えられるのは常識と言っていい。



 即ち俺は、大手の商人の品物に大変ケチをつけてしまっているわけで。



 当然牧場なんだから、この子一頭だけってわけではないだろう。



 けれど、その損失たるや如何程のものか……彼女らの気の落ちようはどれ程のものか……と考えるとかなりやってしまった感は凄い。



 気まずい雰囲気で辺りに目をやれば、いつの間にかセツナがマギビークルでクリスティナと共に寄ってきていた。



 クリスティナは止まりきっていないマギビークルから飛び降り、ブルに駆け寄る。



「ローザ、容体は!?」



「……」



「ローザ?」



 息を荒げながら尋ねるクリスティナに、ロザリアは反応しなかった。



 まさか────────



「俺のせいで、本当に申し訳……?」



 正座になって患部らしき箇所を押さえているロザリアに目線を合わせて、平謝りしようとしたその時である。



 感じるのは、先ほどと同じマナの輝き。



 彼女が腕に宿していた藍色の光だった。



 しかしそのマナは攻撃的では無く、寧ろ優しい。



 彼女の両手から、それが発せられているのだ。



「ローザ、貴女……」



 4人がブルを囲む静寂の中、クリスティナの呟きが漏れる。



 ロザリアは押し黙ったまま、ブルの首筋に両手を重ねていた。



 光はロザリアの手からブルの体表を淡くなぞっていき、やがてブルの全身にその光が宿っていく。



 荒かったブルの息が落ち着いていき、肉の痙攣は静かになっていった。



 これは……治癒系の魔法?



 なるほど、彼女は毒属性の魔法使い。



 自身の超回復だけでなく他者の回復までできるとしたら、彼女の魔法のセンスたるや相当のものだろう。



 基本的に、魔法とは相殺の関係にある現象を操るのは大変に難しいことだとされる。



 自身の魔法発現のイメージを保つのも一苦労な上、マナの流れや放出のコツや魔法式の組み方も1番流用が効かない関係にあるからだ。



 真逆なら魔法式は逆にすればいい、と行かないのが魔法のめんどくさいところであり、相殺関係の属性や現象を扱う魔法使いが敵に回ることを嫌い且つ仲間に引き込みたがる魔法使いが多い理由でもある。



 応用が効きにくい────つまり単純に2倍の知識量を勉強しなければいけないわけで、技術の習得まで2倍だとくれば敬遠したがる同業者のことなど想像に固くない。



「すごい────」



 つい言葉が漏れる。



 セツナも、クリスティナも、大変驚いた様子でそれを見ていた。



 しかし、次に発せられたロザリアの声は掠れるような小さな弱々しい声。



「すみません、お嬢様────」



 すみません? もしかして、治癒が間に合わなかったのか?



 しかしそうは見えない。



 見るからに容体が安定していってるし、だからといってブルの身体から力が抜けていっているようにも見えない。



 何より、彼女の治癒をよく知るはずのクリスティナもロザリアも全然落ち着いているし、ただクリスティナは口をあんぐりと開けているけれど────




 ん? おかしくないか?




 なんでクリスティナがそんな驚いている? 彼女の魔法は慣れっこじゃないのか?



「クリスティナ、これは大丈夫────」



 そう尋ねようとした、その時。



 クリスティナと、声が重なった。



「なぜ貴女が、治癒魔法(そのまほう)を使えるの────────?」



 空気が凍る。



 ロザリアは無言を貫き、ブルの治癒を続けていった。

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