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第16話 ぶつかり合う魔法

「どういうこと……? アラタの魔法が効いてないの?」



「いや、効いてはいる。彼女は不死身では無い……ただ"即座に回復している"だけだとも」



 セツナの呟きに返したのは、この牧場の主人、フェリックスだった。



「彼女は我がアオザホース流医療術の亜種を身に付けている。

 その名は撃痛兵法(ぺインジェクター)

 激痛に耐えさえすれば、自身の肉体を極限まで丈夫にしてくれる魔法だ」



「なっ……なんか聞いた感じアブナイ魔法みたいに聞こえますよ!?」



「勿論。だから"亜種"と言った。

 この娘もそうだが、我が牧場の次世代は純粋なアオザホース流を継ぐ才能に困っていてね。

 それが今回の件の理由でもあるのだよ」



「は、はぁ……なるほど……」



 応えにくい事情にセツナは言葉を濁らせた。



 彼女がチラリと横を見ると、そんなトゲなどどこ吹く風と、クリスティナが前を見つめている。



「やっぱり心配?」



 色々な意味を含めて、セツナは尋ねた。



「……はぁ、大丈夫かしらあの子達。

 マナの流れが気になってるみたい────」



「???」



「へ? あ、あぁ!

 お二人のことは心配ではありますけれど、強いのはよく知っていますから。


 それとは別に、向こうのブルたちも気掛かりなのです。魔獣ですからマナのぶつかり合いが気になっているみたいで……」



「へぇ……そんなの分かるんだ。

 やっぱり専業は違うね」



「当然ですわ! あの子達の事なら見ただけで────否! 見なくても声や物音でも分かります!

 競りに出て貰われていくその時まで、愛情と熱意を絞り注ぎ続ける……これがわたくしの流儀なのです!」



「わ、分かった分かった!

 近いってばクリスティナ!?」



 セツナはたじろぎ、クリスティナがハッとしてすぐに縮こまる。



 しかし御令嬢の目線が、向こう側の魔獣の群れから外れることはなかった。



(ううぅ、なんかこの空気ちょっぴり居づらいな……早く上手いことやってくれよ、アラタ……!!)



 少女の祈りが、重く響く戦闘音に掻き消されていく──────────




〇〇〇




 広い草原を踏み締めて、華奢な体躯から何発も拳が放たれる。



 さっきからなんとか捌いているが、彼女(ロザリア)の連撃が止まらない。



 やはりと言うか、予想通りのインファイターで素早いパンチが続く。



 時折掠めながら、槍で捌くのが手一杯。



 恐ろしいのは、開始から3分くらい経っているはずなのに一向にその速度が緩まないこと。



 スタミナが切れたところをなんとかしようとしたが、全然止まらない。

 作戦が完全に裏目に出た感じだ。



 上手く位置を変えながら、視線の中にセツナ達を入れる。



 ……うん、反応は微妙ってとこなのか。

 クリスティナの希望は"善戦して負けろ"って感じだから、このまま防戦一方でいいとこ無しだとあまりよろしくないかもしれない。



 それに、どちらにせよこのまま捌いてはいられない。



 既に俺の身体は段々と重くなり、手足が痺れている。



 きっと、ロザリアの魔法がそうさせているのだ。



 彼女は自身の魔法が毒属性であるような口ぶりだった。



 そして俺の槍を喰らった時、脂汗をかきながらも不敵に笑ってみせた。



 多分彼女の魔法は肉体の回復を伴う術だ。



 そして、それをなんらかの形で裏返して俺への攻撃に回しているんだろう。



 毒属性は万物の劣化と活性を司る。


 

 故に魔法的な医療とか身体強化とかは毒属性の得意分野なのだ。



 俺の対魔戦闘瘴雷兵装トキシック・ジャベリンもそう言う仕組みだ。魔法やマナに対する劣化を極限まで高めている。



 ロザリアの魔法はそれが肉体に効果を及ぼすように仕組まれてある筈……医療術を取り入れてるだの言ってたし、それに依るものなんだろう。



 足の指先に力が入らなくなってきた。

 慣れない芝生の上もあって足がもつれそうになる。



 そうすれば、その怒気の籠った────多分怒気というか毒もだが────拳をモロに食らってまずノックアウトだ。



(どうする────────ん?)



 彼女を見ると、その眼は開始時よりも血走っていた。



 ラッシュを避けるのに必死で気付かなかった。



 しかし彼女のスピードこそ失われていないものの、その表情は恐ろしさと若干の余裕の無さが感じられる。



 ロザリアの魔法は身体強化系が主軸……だがこれは、彼女にも相応のデメリットがあると言うことか?



 単にスタミナ切れという可能性もあるが、スピードやパワーそのものは落ちていない。



 寧ろ、"魔法で強化でもしてない限りおかしい"くらいに攻撃のキレは落ちていないのだ。



 ここで、俺の槍を受けた時のことを思い出す。



 アレが決してノーダメージじゃないとしたら────彼女の覚悟がそうさせた、随分と気合の入ったノーガード戦法なのだとしたら。



 考えているうちにも頭がぼうっとする。



 酸素が足りなくなり、足の筋肉が硬化しているのが分かる。



 腕の高さも落ちてくる……くそっ、槍を握っている手の感覚がおかしい!



 ええい、こうなりゃ賭けるしかねぇ!



 体捌きを止め、槍を彼女の足元目掛けて突き立てる。



 彼女の口元が歪んだ。そして────



 一撃。



「ぐッ────!!」



 重い。幸い素直なストレートだから両手で受け止められたが、めちゃくちゃに重いパンチ。



 ズドンと身体にマナが撃ち込まれたのが分かる。



 直後俺は3メートル以上吹き飛んだ。



 なんとか着地……する足は痺れていた。



 痛い……予想以上に身体が軋む。



 だが彼女はそれを見逃さない。



「はあああァ──────ッッ!!!」



 肉食魔獣の如き唸り声と共に彼女は駆ける。



 一撃受けてまで手にした間合い(エリア)だ……無駄にしてたまるか!



 左手で新たな雷槍を抜き取り右腕に刺す。



 雷が吸い込まれ腕に奔る。

 フェンリルを倒した時と同じく、雷槍の速さと攻撃力をそのまま身体に宿す。



 さらにコイツは若干の痛み止めにもなる。



 結果的に彼女の魔法と同じ使い方みたいになっているな。



 彼女の戦法を真似るみたいでちょっぴり癪だが、インファイターにはそれ相応の戦い方をしないといけない。



 少なくとも俺の我流の槍術では格闘には対応し切れないだろう。



 武器術がそんなに上手くないのは分かってたけど、ここにきて響くと少し悔しいところだ。



 だが、それならこちらも全力をぶつけるだけ!



(と、その前に────!!)



 右手の人差し指をクイっとたたむ。



 指先から繋がれた細いマナが先程まで彼女の足元に刺さった槍に伸び、槍が俺の手元まで素早く動いた。



 その線上で────こちらに突撃するロザリアに命中する。



「!?」



 ロザリアの身体がびくりと震え、僅かに動きが止まる。



 よし、いける!

 別に彼女は無敵じゃない。あの時は焦ったが、ダメージを受けないわけじゃないんだ!



 なら、一撃を重くするしかない。



 回復してしまう相手に対して、ちょこまかとした攻撃は意味がない。



 やるならド派手に、一撃と一撃をぶつける。



 それで倒れちまえば格好もつくだろ!



 若干やけになりながら右腕に意識を集中させる。



 体内のマナの流れを感じながら、こちらも駆け出す。



 やはり身体の調子は悪い。



 ここは少し思い切り行かないと、そのまま薙ぎ倒されてしまう。



 強めに力を込め、槍が刺さったまま構わずこちらへ向かってくるロザリアを睨む。



 身体が痛みの感覚に沈むにつれ、不思議と眼が冴えていく。



 向こうもやる気だ。グローブの隙間から見える指先が藍色に淡く光っている。



 アレが彼女の毒。その集中点。



 毒属性の攻撃を知っているあまりビビってたけれど、自分の魔法の特性を忘れちゃいけない。



 俺の魔法は、魔法そのものにこそ大ダメージを与える。



 敵の刃を折り、牙を砕く毒の雷。



 なら彼女の全力を引き出し、そこに最大出力で自分の魔法を撃ち込むのが最善!



「喰らえッ────────!!!」



 荒ぶるままに繰り出された拳に合わせ、こちらも掌底を突き出す。



 その直前、俺でもロザリアでもない声が遠くに響く。




待って──────────────────!




 そう声の内容を頭で理解した時、ロザリアよりも一瞬早く飛び込んでくる影があった。

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